蒼の囚われ人 |
−1−
自分は本当に最悪な男だと思う。
罪を背負いすぎている。そんな事も分かっている。
一つの嘘は何十の小さな嘘で塗り固めないと成立することが出来ない。
嘘を真にするために…幾重にも嘘を重ね続ける。
神に祈り…懺悔をすれば罪が消えるならば…どんなに楽だろうと思う。
だけど…私は友と共に罪を犯した。
それは私の大事な方の息子の幸せを願う事と、復讐の為。
何時しかその罪に対する気持すら、あまり気にしなくなっていた。
寧ろ次への罪と心が揺れ動かされる程。
グンマ様やシンタロー様の…籠の鳥の中の囚人のような生き方に…ありふれた平凡な人生を選べれば幸せでは無いかと思うように思考は切り替わってきた。
もしも…あの方の子が平凡な家庭で生まれ育ったなら
しがらみもない自由な世界にはためくことが出来たなら
友を好きなように選び…好きな職業につけたなら
幸せだろうか?
手元に有るは…冷凍保存された彼の人の遺伝子。
(精子バンクにこっそり紛れ込ませてしまおうか?)
不意に突拍子も無い思いが浮かぶ。
(なぁーんてね…そんな所を通したら…すぐにガンマ団に知られてしまいますからね)
自分の突拍子も無い思いに私は、小さく溜め息を吐いた。
そんな折りに、私はある一人の女性と出会うことになる。
それはガンマ団の業務とは別口の研究者としての学会でのことだった。
興味のある無いようから…そうでないものまで、一通り聞きながら渡された資料に目を向けたり…していると、学会での顔なじみが私の直ぐ隣にあった。
彼女の名は…自分と同じ日本人で女性。
専攻は違うが、彼女も博士と言う立場で…よく学会で顔を合わせる顔なじみ。
馴れ合う関係と言うよりも、近すぎず遠すぎずの丁度良い関係を保つ…女友達という言葉がしっくりあう女性だ。
勿論ガンマ団にも関係のない何も知らない…血の運命にも関係のない。
研究者としては優秀な…だけれど、人としては普通な女性だった。
きっと恋をして…妻にするのなら彼女のような人が良いと何となく漠然と思える女性だった。
我が強すぎるわけでも…消極過ぎる訳でもない…何というのかな…頭の回転は速い女性だ。
この日も学会で、何気なく会話をして…昼ご飯を共にする。
これも何時も学会での流れ。
だから今日も何時もの何気ない穏やかな時間がゆっくりと流れる筈だった。
彼女が…ある内容を切り出すまでは…。
「ねぇ高松君」
「何ですか女史」
「未婚のまま子供が欲しいと思うのは…我が儘な事かしら?」
カラカラとアイスコーヒーの氷を音を立ててかき回しながら、「今日は雨降るかしら?」と気軽に聞くように…彼女はそんな言葉を口にした。
私は一瞬何を言われたのか理解に苦しみながら…鈍くなった頭をフル回転させて女史に答える為の言葉を紡ぎ出す。
「おや…人には言えない相手とおつき合いなさっておいでですか 女史」
少し戯けながら、人の悪い表情を作って私は彼女にそう言う。
すると彼女は、目を少し丸くして…それから微妙な表情で私に言葉を返した。
「いやね〜違うわ。そんな事で子供が居るなら…そんな発言しないじゃない」
苦笑を浮かべて言う さんに私は、「それは失礼」と短く返し彼女の真意を測るように言葉を放つ。
「では 女史に意中の方でもいらしゃる…と言った所でしょうか?」
言葉を選びながらそう口にしてみる。
彼女と私は同い年である訳だから…そう言った話が有るのは不思議ではないと思ったと言うのがあるからなのだが…。
彼女の表情は、別に当たりとは出ていなかった。
「別にそんな相手は居ないんだけどね」
うーん…と少し首を傾げて彼女は、困ったようにそう言った。
「ただね…自分の子供が欲しいと言うか…やはり女として子供を産みたいって願望かしら。別に孤児をひきとって子育てって言うのも構わないのだけど…でもね…どうせなら子供を産み育てたいのよ…母親が私を育んでくれたように」
柔らかい微笑みを浮かべて 女史はそう言い…少し溜め息混じりに「無い物ねだりってこの事ね」と言葉を零す。
「貴方なら結婚相手も引く手数多でしょ…何を悩むと言うんです?」
実際彼女は何件かの見合いなどに、声がかかっている事を見かける私はそう言う。
だけど彼女はやはり曖昧に微笑むだけ。
だから私は一つの仮説として、好きな人でも失ったのですか?と尋ねた。
だが彼女の答えは…そうでは無かった。
「違うわ…別に昔好きになった人を失ったとかでは無いのよ。高松君の言うように、結婚して子供を授かることや…好きな相手との子供が良いか知れない…。だけど私には今は居ないし…きっと出会う事は無いと思う…ただそれだけ」
何処らくる自信なのか分からないが彼女はそう言いきる。
「では…何故そうまで強い切望をなさるのです?」
「ただのね…我が儘ね。別に自分の遺伝子を残したい訳じゃないけれど…子を産み育みたいという我が儘…無い物ねだりだわ」
そう言って一旦言葉を切ってから、彼女は辛そうに言葉を紡ぐ。
「そんな思いで…誰とも知れぬ人の子として生んだら…恨むかしら…私の子供は」
何処か遠くを見ながら見果てぬ子を思い彼女は切なそうにそう言う。
その瞳は子供が居ないのに…母親の子を思う気持ちが込められている様に私には見えた。
だからだろうか…普段皮肉しか言えないような口が…不思議と素直な気持を紡ぎ出したのは…。
「片親であっても…血が繋がっていないとしても。望まれた命ならば…きっと恨まないで貴方を愛してくれるんじゃ無いですかね」
「まるで自分に言い聞かすみたいね高松君」
何気なく言った彼女のそんな一言が、私の苦笑を呼び起こす。
「そうかもしれません…。私は罪深い人間ですから」
(実際…渡りに船が来たと…貴方に対して思う自分が居るんですから…)
自嘲気味に紡ぐ言葉に彼女は少しだけ困った顔をして…「別にそんな意味じゃ無いのだけど」と小さく漏らす。
そんな彼女に「事実ですからね」と言えば 女史は「そう…」と短い返事をしたっきり。
「ねぇ さん…。もしも…生まれてくる子が、特異な存在になったとしても…貴方はその子を…自分の子を愛することが出来ますか?」
真っ直ぐ彼女を見据えて私は言葉を紡ぐ。
(そう…例えば…秘石眼を持った子供だったら)
そんな思いを胸に秘めつつ紡ぐ言葉に彼女は、以外と早い時間で私の言葉に応えてきた。
「そうね…でも私の子で有ることには変わりないのだもの。愛せるに決まってるわ…生まれながらに背負う何かが有っても…かけがいのない宝物なんですから」
ニッコリと晴れやかに笑って 女史はそう言った。
その眩しい程真っ直ぐな彼女に、これから自分のすることが…本当に罪深いとチクリと心が痛んだ。
それでも愚かな私は、この人の優しさを利用するしか無かったのだ。
彼の人の…血を…ルーザー様も子供が平凡で自由な生活をさせることが出来るように…。
「だったら…貴方の望みを叶えましょう」
私は彼女にそう言って手を差し出し…彼女は私の手をとったのだった。
Next→No2
2005.2.21. From:Koumi Sunohara
★中書き+後書き★ 消化に悪そうなお話の始まりです。 ミドルズの時の様に、明るい話題からシリーズに繋げたかったんですが…。 中途から行くと説明が大変になりそうで…。 取りあえずこの連載を乗り切れば…明るい話に開ける予定…。 ビックリするぐらいのコメディーになる筈 こんなお話ですがおつき合い頂けると幸いです。 |
BACK | No2 |