他のスポーツとの遭遇(4)
千石も到着し、スタジアムに足を踏み入れるその前に南は、チケットを一人一人に渡した。
「慣れてる人はチケットホルダーとか使う人いるらしいけど…取りあえずチケットはこの後も必要になるから無くさないようにな」
そう言いながら手渡す南に、三人の反応はと言うと…。
「ああ。どこのスポーツ観戦でも同じという事だな」
「当然だろ。心配なのは千石ぐらいだぜ」
「えええ〜っ。跡部君俺のことどんだけダメな子だと思ってるのさ、大丈夫だって」
「その根拠のない自信は何処から出てくるんだテメーはよ」
「まったくだな、南の心労の原因は間違いなく千石だろうな」
まともな意見の手塚と跡部に千石は不服そうに言い合う。南はそんな三人を生温かい目で見守っていた。
(俺も…手塚や跡部みたいにある程度千石をどうにかしないとダメなんだろうな…無理だろうけど)
心の中でそんなことをこっそりと思う南。
「もうやだなぁ〜そんなにドジっ子属性じゃ無いよ俺」
「そう言うなら少しは落ち着いてくれ」
千石の言葉に今度こそ南はため息を漏らしながらそう口にする。疲れた表情の南に、千石は少しバツ悪そうな表情を浮かべて、短く「メンゴ」と呟いた。
そんなこんなで、無事にチケットを配布した南は3人を連れてゲートへ今度こそ向かう。
「そう言えば手荷物検査で、ビン・カン・ペットボトルの類、弁当とかの持ち込み禁止だけど大丈夫か?」
南は思い出したように、そう3人に告げる。
この件に関してだけ言えば、3人は息もぴったり問題ない旨を南に告げた。
その様子に南は満足そうに「そっか」と短く返す。
「本当に心配しすぎだぜ南、大抵のスポーツ観戦は色々ルールがあるんだ、お前がそこまで気負う必要はねぇぜ」
「ああ同感だ。気配りができるのは良い事だが…気負いすぎは良くないな。これは、ウチの大石にも言えるが…性分だと言うとそれまでだが、少しは気を抜いてくれて構わないだろ?折角の休日なんだしな」
「そうそう。気楽にね南」
「千石テメェが言えた義理じゃねぇよ」
「もう…跡部君は本当に俺に厳しすぎだよね」
「ふん」
若干険悪な雰囲気な空気が流れた事に、南は少しだけ胃がキシムような感じがしつつ、どうにか話題を変えようと言葉を紡いだ。
「今日の試合のパンフレットと協賛してる企業の広告と日によっては、来場プレゼントがあったりするなぁ」
「集客する為の企業努力ってやつか」
「そうそう、パンフレットは棄てずに取り敢えずちゃんと貰っておく事薦めとくよん」
南と跡部の会話に千石が捕捉するように口にした。
「ん?何かあるのか?」
「たまぁ〜に、プレゼントの当たりの有無があるからさ。取り敢えず、パンフレットの類いは貰っておいた方が良いんだよ。要らなかったら、後日廃品回収とか紙ゴミで棄てれば良いしね」
「成る程、渡された物は取り敢えず受け取る事にしょう」
千石の言葉に手塚はそう頷いた。
「千石はそういう類いよく当たるからな〜」
「まぁ〜ね。南は微妙な物が当たる事多いよね」
「微妙って…まぁ微妙ちゃ微妙だけどさ」
「微妙かどうかは別にして、当たるだけでも良いじゃないか」
「ははは…手塚ありがとう」
「でもさ、南って当てる時はデカイ物当てるんだよね」
「へー、例えば何だよ?」
千石の言葉に跡部は食い付くようにそう尋ねた。
「一等のジャンボぬいぐるみとか…観戦チケット…宿泊券とかかな」
「凄いじゃないか南」
褒める手塚に南は曖昧に笑って返す。
「その反面、佐藤さんの日とかで310本のスティックシュガー、東京都水道局賞の東京都の500mlペットボトル10本とか…そういう微妙な物も多く当たってるんだよね」
そう千石は南への補足を付け足した。
「微妙といっても当たるだけ凄いと俺は思うが…」
「手塚、無理しなくていいぞ」
「無理じゃない。純粋にそう思うんだ南。俺はいかんせんそういう類の物に当たったためしがないんだ」
手塚がそう口にすると、跡部も軽く頷く。
「俺様の場合、そういう機会に恵まれねぇというのもあるが…何も当たらないよりいいじゃねぇの」
「そう?二人ともだって微妙ジャン」
「そもそも、そういう意味不明なラッキーは千石テメェの専売特許だろうがよ」
「ええええ。ちゃんとした物当たってるし」
「そうだとしても、人徳の問題ってやつだぜ千石よ」
「ひどーい。跡部君、清純泣いちゃう」
科を作ってそう口にする千石に、跡部は盛大に顔をしかめた。
(そういう所が人徳問題なんだって千石)
南は、二人のやり取りをみて心底そう思ったが、言ったところで糠に釘な千石なのが分かりきっているので口にせずに、溜息を吐く。
「跡部も千石もそこまでだ、今日の目的は野球観戦だろう?」
「でも手塚君」
「ふん」
「そうだよ、まぁ…受け取る人それぞれだしさ、この話はここまでにして…な」
南がそう口にして、この話は終わりだと示す。
「南の言う通りだ」
「まぁ…うん。そうだよね、野球を見に来たんだもんね」
「ああ」
「よし、色々あったけどレッツスタジアムだよん」
声高らかに千石がそういうと、一同はスタジアムの中に足を踏み入れたのである。
つづく
2013.10.1.(web拍手掲載:2013.8.2.〜) From:Koumi Sunohara