空気や水の様な君A
絶対的なカリスマ性
誰もが納得する強さ
破壊に似た力の大きさ
バラバラの強さを纏めることが出来なければ
水のように…空気の様に纏め上げれなければ
真の強さとは言えないのかもしれない
俺という人間の本質は、気性が荒い…獅子の様な性格なのだと思う。
思い求めるは、誰もをひれ伏す力…そんなモノを欲していた。
九州に居た頃は、そんな自分が当たり前で…間違いはないと思っていた。
だが、九州から東京に来て…慕ってくる後輩を持ち…色々な学校の部長や…人間に出会い…俺は少しずつ変わっていた。
荒い気性を少しでも抑え…周りに気を配り後輩の指導に努めたりと…自分中心から他人に気を配る様にスライドしていった。
出会いと言えば、今この部会に出ていない南健太郎と言う人物に会って、俺は…力には色々あるのだと知った。
変わってきていた自分。
けれど、南はそれ以上に俺とは真逆に存在するタイプだった。
目立つわけでも…素行が悪いとか…頭がすごく良いと言うことでもない。
テニスに絶対的な強さがある訳でもない。
けれど、どこにでも居そうな南と言う人材は…実は貴重な存在だと思う。
当たり前の様に…空気を吸うが如く自然に人に気遣える。
否…気遣えると言う言葉自体が間違いかもしれない…彼は至って普通にやってのける人物だ。
自分に不快と感じることはしない。
ソレをあまりにも自然に出来ることは、カリスマ性なかよりも凄い力だと今更ながら思わされる。
皮肉にも南の不在で…気付かされるなんて本当に皮肉だ。
南の性格なら、気にするだろう事柄。
それが良い面であり…今回のように裏目に出る場合がある。
だから、敏感すぎる故に南は些細なことに傷つくのだろう。
だが…南の事もそうだが、跡部達の思いも少しだけ分からない訳では無かった。
昔の自分なら跡部達と同意見だっただろう…だからどちらの気持も分からないでもない。
目に見えた厳しさが無い所為か、南に対する彼らは厳しい。
けれど…短い付き合いだが、南は何が有ってもほぼ受け持つた責務を全うする男だと思う。
跡部や真田が甘いと言うが、果たして全てに甘いと言える人材では無いと思う。
大石を青学の母と称するならば…南は保父さん向きと言えると俺は感じる。
怒るときは怒り、褒める所なしっかり褒める。アドバイスも的確で人に不快を与えない。
教師の鏡と言える人材。教育のゴールデンルール「言って聞かせて・やってみせて・ほめる」と言う事をやってのける人物。
今の混沌としたご時世の仲で貴重な人材だ。
だからこそ今更ながら思う事がある。
南が居たなら、あの時の俺達は別なやり方もあったのではと思う。
話し合いと言いながら、手を出してしまった俺のやり方とは違う平和な方法を見出だしたかもしれない。
スキー板を滑らせるのにワックスを塗るように、南という存在は人と人との関係を円滑にする力があるのだと感じた。
何より彼奴は…教師よりまっとうで、他人を思いやれるそんな人材。
そして何より彼のテニスに向ける姿勢が何より良いものの様に俺は思う。
「テニスは楽しく」
山吹テニス部の顧問のもっとう。
南のみならず、山吹テニス部のスローガンと言って良い程のその言葉は、一見甘い響きの様だが何より大切な事と思う。
一度はテニスから離れたからこそ感じるテニスへの格別な思い入れ。テニスが出来ると言う喜び。
勝つことは大事だが、楽しく無ければ意味が無いと言う事実に、果たしてどれだけの人間が気が付くのだろうか?
(まるで灯台もとくらしと言う事か)
当たり前すぎて…その当たり前の大切さに気が付かない。
今の部会の連中…特に真田と跡部辺りは気が付いていない。
だから、自分の言った言葉どれだけ相手を傷つけるかも知り得ないのだろう。
些細な事だと思うことがどれだけの、傷を負うのか…俺も人のことは言えないが…恐らく分かっていないのだ。
南が部会から消えた理由も…千石が邪魔しに来ている理由も…。
神尾達もきっと俺や不動峰の面々の悪口や陰口を聞いたならば、部会などにいく必要が無いだとか、代わりに自分が行って報復してくるとか言い出しそうだ。
それと同じなのだろう。千石が突然南に代わって部会に出た理由と言うのが…きっとそうなんだろう。
(まぁ…跡部は中々切れ者だからな)
今は気がつかなくても、その内直ぐにでも気が付く事になるだろう。
兎も角…少し千石の茶番に付き合うのも悪くないと、ふざけた仮面を被る千石を眺めながらそう思った。
おわし
2006.7.12. From:Koumi Sunohara