信じた時ようやく始まる
お兄ちゃん達の先生は少し変な人だ。
と言っても…何処かの獅子舞叔父や鼻血を吹きまくる親父…狂った科学者とかのカテゴリーに入らない…一般人。
まぁ言動も普通だし。
逆に普通が変に感じてしまうのかもしれないけれど…。
ロボット研究や機械関連の研究は凄いらしく、ガンマ団に時々頼まれて仕事をしていると聞くから、そうとう頭の良い人。
人柄も明るくて、穏やか…けれど厳しいし…面白い。
当たり前の事を、再確認させてくれる…カウンセラーの様な人…。
だけど…さんはやっぱり変わっている人だと僕は思うんだ。
パプワ君やお兄ちゃんを助けるために続けている修行の中で、最近頻繁では無いけれど訪れるさん。
何をする訳では無く、ふらりやって来て僕とお話をして帰っていく。
その様子は何だか野良猫みたに思える。
自由を望み、他人に媚びない。
好きなときに現れて、気が付けば去っていく。
そんなさん。
サービスの叔父様曰く、探査機の制作の息抜きがてら来ているらしい。
今日もそんな訳でさんは僕の元に訪れる。
当たり前に様に、休憩中の僕の隣に腰を下ろすさん。
僕は軽く挨拶を交わし、言葉を二、三度交わした。
そうしてる内にさんは、僕に不思議な言葉を投げてきた。
「コタロー君はパプワ君によって自分の世界に彩りついたんだね」
「世界に彩り?色?」
「何て言うか色って言うのはあくまで抽象的な表現なんだけどね」
少し曖昧に笑ってさんは言葉を続ける。
「ある人と話した時に思ったんだ…何事も“信じた時に何かが色づくと”ね」
「色づく?何か?って何?」
僕はあまりにも抽象的な言葉に、さんに聞き返した。
さんは、「抽象的すぎたなぁ〜」と頭を少し掻きながら補足の言葉を紡ぎだした。
「何て言うのかね…ああ…そうそう。興味の無い事柄が有るだろう…例えば…花の色が何であんな色なのか?とか」
唸りながら言葉を紡ぐさんに、僕はすぐに言葉を返す。
「うん。ただ漠然と綺麗だとしか思わないかな」
僕は正直な気持ちを言葉に乗せた。
さんは、その事にも気にした様子は無く、軽く頷いた。
「そうだな…綺麗だから良いって終わるよな。けどさ、ふと…何であんな色になるのだろうと?思う時が不意にやってくるとする」
そこで一旦言葉を切ったさんは、僕をジーッと見ながら次の言葉を紡ぐ。
「そしたら、どうでも良かった事が気になりはじめる。人の性でな…一度気になり出すと…分かるまで燻るもんだ。そんな訳で、気にした時…何かを信じた時…不意に世界が変わる。逆にいうとだな…信じてたものが信じられなくなった場合…不意に興味が無くなるだろ。すると虚しさばかり残る…その逆なんだと俺は思う。いかんな年を取ると長く説教じみた話し方になっちまう」
頭を軽く掻きながらさんは、苦笑混じりに言葉を閉じた。
そんなさんを見て僕は…。
「さんの話はよく分からなかったけど…確かにパプワ君と出会って僕は普通に塔友達と過ごすことを知ったよ。それがさんの言う世界に彩りをって事ならそうなのだと思う」
聞きながら思った言葉を口にした。
それをさんは黙って聞いてくれて、僕の頭を静かに撫でた。
「それで良いんじゃないか?君になかった感情だったら尚な。だけど急がなきゃ行けないけれど、焦らなくて良いんだぞ」
「でも…お兄ちゃんやパプワ君は困ってる筈だし…僕も早く助けれる力が欲しい」
柔らかな言葉を紡ぐさんに、僕は焦りの混じる言葉で返す。
けれど、さんは相変わらず静かに僕の頭を撫でる。
「腐れ縁とか絆って言うモノは、そうそう切れるもんじゃ無いぞ。俺は失ったって思っていたけどさ凄く時間がかかって…またサービス達と昔と同じ関係を築いているよ。だから、コタロー君が思っているよりパプワ君達との絆は深いんだよ」
「そうだけど…きっとお兄ちゃん達困ってるよ家政婦は役に立たないなんだよ」
「家政婦ってリキットの事かな?」
「そうだよヤンキーで家政婦で獅子舞の部下」
(あえ?さん知ってたのかな?)
何て思いながら、僕はとりあえず聞かれた家政婦の事を語る。
そんな僕に、さんは「そうか…だからハーレムは不機嫌だったんだな」と小さなつぶやきを漏らした後、僕に言葉を紡ぐ。
「ああ見えてリキットだって強いんだぜ。ハーレムの扱きに耐えてきたんだし…シンタローだって居る…パプワ君だって強いんだし…心戦組の人達だって…ガンマ団は嫌いかもしれないけれど、パプワ君に害に成らないんじゃないかな?それはコタロー君が一番分かっているんじゃないかな」
「…」
「そう言った思いが絆だ。だから、焦らなくて良い。それに、急いで物事が疎かになったら…本末転倒だろ?」
「うん」
「それに安心しなさい。研究者はキンタローとグンマだけじゃないんだぜ」
「え?それって」
僕はさんを見上げる。
「俺だって研究者だ、例えジャンルは違ったって協力出来る面がある。今は高松だって、ジャンだって居るんだ。若いもんに分からない面は俺達がカバーする…だからコタロー君はコタロー君のすべきことを信じてやれば良いんだよ。まぁ…大人の面子ってやつだけどな」
ニッと笑うその姿に、僕は凄く安心した。
まるでお兄ちゃんやパプワ君に言われたような安心感が生まれた。
(ああ…だから皆この人を必要とすんだ)
何故だか漠然的に思った。
初めから駄目と言わない…不可のだと決めつけない。
可能性にかける姿勢は研究者に見えないけれど、それでも凄い研究者。
凄い人じゃないけど…平凡なようでそうじゃない。
当たり前のようで当たり前じゃない…矛盾だらけであべこべだけど…さんと言う人だからと納得させる不思議な人。
ならこの人の言葉を信じてみよう。
僕がなすべき事を…それをサポートしてくれと言う大人達を。
そして遠くに居る友と兄を…。
おわし
2008.4.21. From:Koumi Sunohara