ちみっこ |
−例え見守る事しか出来なくとも− |
グンマにシンタローは小さな頃から知っている。
グンマにしてもシンタローにしても…小さな頃から…イヤ…生まれながらに重い宿命を背負っていた。
何処かの宗教の言葉を取るなら、業(カルマ)が重いのかもしれない。
だけど彼らは色々な事を経験して、ゆっくりと時間を過ごして…その宿命と正面切って立ち向かっている。
だけど、これから会う事になっているコタロー君はシンタロー達と比べて遙かに幼い。
それなのに…小さな背中に背負うモノは実に重いように見えた。
何の因果か、俺は突然ハーレムに呼びだされることなった。
勿論俺は断った。
何故なら俺は赤の他人であるし、秘石との関わりななど持たないしがないハーレムやサービス達の友人と言うだけの存在だ。
どの面下げて、しゃしゃり出る必要が有るのか…そう思ったから俺は断った。
だが、サービスは俺のその言葉に小さく笑いを零しこう言った。
「シンタローやグンマ…今やキンタローにまだ教授するお前が今更コタローに関わったって誰も不思議がったりするはずないだろ」
と…そんな風に彼奴はケロリと返してきた。
その言葉があまりにもその通り過ぎて、俺は断る理由を失ってしまった。
(つったく…絶対分かっていて、嵌めたよなサービスの奴め)
内心毒づきながらも、俺は仕方がなくコタロー君に会うことにしたのだった。
俺に出来る事など本当は無いのかもしれない。
だけど、親類だから言えない事で…コタロー君の役に立つ事が少しでも有るかもしれない。
その僅かな可能性に賭けてみるのも悪くない…そんな気持で。
それからの時間はあっという間だった。
気が付けば昔シンタローが修行した場所でサービスがコタロー君を修行していると聞いたので、俺はその場に足を向けた。
まぁ徒歩で来れる距離では無いので、ハーレムに乗せてもらって来たのだが…。
まぁ兎も角、俺は何だかんだ言いながらサービス達の居る場所に無事に到達した。
到着後一言二言サービスと会話をして、俺は促されるようにコタロー君の方に足を向けた。
一人黙々と修行に明け暮れる少年。
そんな姿に、どうしたのもかと思いを抱きながらも…俺は取りあえずコタロー君に声をかけることにする。
「コンニチワ」
俺はサービスの甥であるコタロー君に取りあえず、挨拶の言葉を口にした。
本当ならもっとうまい言葉を言えれば良いのだが、俺の口をついて出た言葉はそんな挨拶。
不意に知らない人であろう俺に声をかけられた、コタロー君は少し驚いた顔をして俺の顔をマジマジと見返してくる。
まぁそうだろう、こんな辺境の地に見知らぬ人が突如現れ…声をかけてくれば誰だって驚くものだから。
だけど俺はそれよりも別のことに気が付いてしまった。
純粋に未来を見据える筈の瞳は…少年らしからぬ暗さと鋭さを秘めている事に。
(まるで小さな頃のシンタローを彷彿させるな)
不意に浮かぶその気持ちに俺は、(いや…それより思いかもな)と小さく否定した。
何せコタロー君は幽閉…記憶喪失…新たな出会いに…別れ。
小さな少年には、濃すぎる時間と…背負った宿命の重さ。
その点を考えるとシンタローやグンマ…キンタローの比では無い程の重さを背負っていたから。
(サービスもだが…こりゃ〜ハーレムも心配になる訳だ)
心底俺はそう思った。
否…そんな事しか思い浮かぶことが出来なかったんだ。
俺は何を言うべきか思い浮かぶことも無く、ただコタロー君と無言の時間をしばし過ごした。
何もない荒野に…静寂に包まれる空間。
小さな少年はより小さく見えた。
俺はその小さく見えるコタロー君に何か言葉をかけようと、少し頭を巡らせたが…思い浮かばず。
俺がコタロー君に見た雰囲気をそのまま口にすると言う方法に出ることにした。
「何がそんなに辛い?」
不意に出た言葉が、コタロー君の胸に響いたのか…すると少年は堰を切った様に内に秘めていた言葉を吐き出し始めた。
紡がれる言葉には、自分ではどうしようもなかった出来事を俺に教えてくれた。
与えられていた情報では無く…コタロー君から直接に。
大事な友達の住む世界を壊したコト。
それすらも忘れて平気な顔して友達になっていたコト。
大好きな兄を不注意で見失ってしまったコト。
それら全てがこの小さな少年の背に乗っている事を俺は知った。
だから俺は再度コタロー君に質問を投げかける事にした。
「で…忘れたいのかい?それとも、全てを背をって歩みたいのか?どちだい?」
俺の言葉に、コタロー君は少し悩みながら切れ切れに言葉を紡いだ。
「皆は…忘れても良いって…ボクだけの責任じゃないから。幸せになれるのなら…忘れても良いって…でもボクは…何か違うと思う…」
言い終わって真っすぐ言葉を紡ぐコタロー君は、ハッキリとそう言葉にしてきた。
だから俺は、少年の言葉に応えるために…真っ直ぐコタロー君を見据えて返す言葉を口にする。
「全ての時間に無駄なんて無いと俺は思う。まぁ無駄だと思えば全てが無駄になっちまうけど…なんつーのかね。歩いた先に何かが有るんじゃ無い。歩いた後過ごした時間…それら全てが次に進む自分の何か役立つ…。何十年先でもさ」
そう言って一旦言葉を切った俺は、澄み渡る空を見上げて言葉を続けた。
「だから下ばかり向かずに、色々な思いを抱えて歩んでいって欲しいと思う。それがどんなに辛い事であったとしても…君ならきっと出来るから。何せ君は周りに恵まれているからね」
俺は空を見上げて指を指し、友や教え子達を思い浮かべてそう言葉を紡ぐ。
「捨てなくて…忘れなくて良い?」
ポツリと漏れたコタロー君の声に「ああ」と短く返して、俺は彼の頭を軽くなでる。
コタロー君は俺の手を払いのける訳でも無く、黙って頭を撫でさせた。
サービスとコタロー君と会ってから数日が経過した。
相変わらず俺はキンタローとグンマの探査機作りの手伝いに忙しい。
サービス達も僅かしか無い時間の活用のために、まだ修行に明け暮れているようだ。
(さて…休憩でも取ろうか…)
仕事の為にずっとパソコンの画面を見ていた俺は、少しこってしまった肩を軽く揉みほぐしながらふと思う。
すっかり落ちて保温状態になっているコーヒーをカップに注ぐ。
丁度そんなタイミングだった。
ドンっと鈍い音を立ててドアが開かれる。
お世辞にも丁寧とは言えない乱雑なドアの開け方で、俺に来訪者を告げた。
俺はヤレヤレと肩を竦めて、突然の来訪者用にもコーヒーをカップに注ぐと呆れた声でその人物に声をかけることにした。
「あのな…少しは丁寧に開けてくれ。修理代だって馬鹿にならないんだからなハーレム」
乱暴に扱われたドアを横目に俺はそう口にする。
が…そんな事を気にするはずもない男は、当たり前のごとく俺が注いだコーヒーをさっそく口にしている。
まったくもってゴーイングマイウェーな男だ。
まぁそんなハーレムに何を言っても無駄なのに、毎度言う俺もどうかとは思うが…まぁこれが俺の性分ってやつだから…これまたしかたがないのだろうが。
兎も角俺も気にしない様にして、彼奴と会話をすることにした。
そしたら彼奴ときたら…。
「いい顔になったぞコタローの奴」
ハーレムがコーヒーを啜りながらボソリと言葉を紡いできた。
その言葉があまりにも彼奴らしく無くて、俺は思わず間の抜けた顔でハーレムを見ちまった。
だが、ハーレムはそんな俺の間抜け面に気が付かずに、何処か遠くを見つめている感じだ。
「そうか?まぁ身内のお前が言うんだったらそう何だろうな」
遅れた俺の言葉にも気にする様子も無く、ハーレムは小さく苦笑を漏らし言葉を返してきた。
「親なんて居れば良いんだよ。形だけでも…居るってだけで子供は安心したり…そこから何かを感じ取って行くんだからさ」
「何か実感籠もってるなその言葉」
ハーレムの言葉に、俺がそんな返答をすれば彼奴は「年の功って奴」とニヤリと笑ってそう言う。
そんな風に言うハーレムに俺は(年の功って俺だって同い年だろ)とこっそり思ったが、口には出さずに「そうか」と短く呟きを返すに留めた。
「 江…やっぱお前さ。科学者何て勿体ないぞ。高松に成り代わって医務員になれよ。カウンセラーでも良いかもしんねぇ〜けどよ」
「あのなぁ〜。お前の身内数人にアドバスしたぐらいでカウンセラーになれるんだったら苦労は要らないだろ」
苦笑を浮かべて俺が言えば、ハーレムは肩を軽く竦めてみせる。
「教科書通りのカウンセラーより断然人としての重みが違うぜ。まぁカウンセラー何かになっちまったら、俺たちに構う暇が無くなるしな…やっぱり今のままで良いのかもな」
ニヤリと不敵に笑みを浮かべるとハーレムは、ヒラヒラと片手を上げて俺の研究室から居なくなった。
(つったく…言いたいことばかり言って行きやがって…)
心の中でこっそり風のような男に毒づきながら、俺は冷めて苦みの増したコーヒーの残りをグイッと飲み干した。
案の定というか、喉には苦い味が広がった。
俺にはコタロー君の心に秘めた辛さや苦しさは分からない。
俺の言葉で何かが変わるか…どうかなど知り得ない。
だけど、少しでもコタロー君が良い表情になったと言うなら…俺は嬉しい。
ただの科学者風情の俺だけど…嬉しいと思う。
見守る事しか出来ない俺達だけど、何時か…コタロー君が心の底から笑える日が来ると良いと…願うばかりだ。
END
2004.9.23. From:Koumi Sunohara
★後書き+言い訳★ 『歩いたあとには』の 江さん視点+補足的な話になりますね。 別に此方だけでも楽しめますが、対になる話なので読まれるとよりわかりやすいやもしれません。 気が向いたら、ハーレムやサービス視点でも良いかなぁ〜とか思いますが…反応があれば考えるってことにしようかな。 あまり視点切り替えても、面白味が無いですから。 次は明るい話で書きたいなぁ〜何てもくろんでおります。 ここまでおつき合いただき有り難う御座いました。 |
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