鏡がもしも真実の姿を映すならば…

          彼人はどんな姿に映るのだろうか?


−鏡−




元ガンマ団員

天才ロボット工学者

サービス叔父と同期で親友

青の一族では無いのに深い縁のある存在

グンマやシンタローの先生




俺の知りうると言う人物に関するデーターは簡潔に言ってそんなモノだ。
それもガラス越しと他人からしか与えられない彼への情報。
正直、精密技術を扱う俺としてはさんへの興味は大きく膨らんでいた。
だから会いたいと思うし、彼のことを聞き情報を集めたりもした。
実際グンマにも話を聞いたりもした。
そうやって情報を集めてゆくウチちに興味の感情より俺は心の中の不安が日に日に強くなっていくのが分かったのだ。

自分が教え子であったシンタローの体を乗っ取った俺をさんはどう思うのだろう?(正確にはシンタローに乗っ取られていたのだが…)

それに親友のジャンを殺した…ルーザーの子供で有る俺を彼は快く思わないのでは無いだろうか?

会いたいけれど、会えない…そう言った感情が俺の中で燻っていく。
だから…心が落ち着くまで…会いに行こうと誘うグンマの誘いを断り、彼に会わない様にしたのだ。



避けるように過ごした日々に終わりは必ず訪れるもので…。
まぁ同じ敷地に研究施設を持っているのだから、寧ろ会わない確率の方が低いのだが…。
葛藤が続く中、俺は自身で避けていた…あの人とばったり遭遇したのだった。
しかも明らかに、俺を探していた様で…迷わず俺の元にやってきて正面切って声をかけてきた。

「君がキンタロー君かい?」

俺はすぐに声をかけてきた人物が…その人で有ることに気が付いては居たが。
まぁグンマに写真を見せて貰っていたと言うのも有るのだが…。
信じられない気持ちも有って、思わず彼を凝視した。
さんは、俺のその様子に「ああ」と何やら思いついたのかそんな声を小さく漏らし、その思いついた言葉を口にする。

「悪い悪い。名前を名乗っていなかったな…えっと俺は、。高松とサービス…ジャンと同期だったしがないロボット工学者だ」

“よろしく”と屈託の無い笑顔で笑いながら、さんは自分の事を知らないと思ったのかは俺にそう言った。
取りあえずその返事に俺は小さく会釈した。
そんな俺の態度にさんは、人の悪そうな笑みを浮かべて言葉を紡いできた。

「俺の事は知ってると言う顔だね。と言うか…寧ろ俺に有ってバツが悪かったって所かな?」

俺はそのさんの的を得た発言に思わず言葉を出すことが出来ずに口ごもった。
これでは、「ハイそうです」と言っている様なものなのだが、如何せん俺は口下手なもので上手く言葉が思い浮かばず結局黙る。
黙る俺にさんが、小さく笑いを漏らしながら言葉を紡いだ。

「そう深刻になるなよ。別に嫌味で言った訳じゃ無いだから」

「スイマセン…」

俺は短い謝罪の言葉と、軽い礼とを彼にした。するとさんは気にした様子も見せずに、すぐに言葉を返してきた。
そのテンポの良さに思わず俺は感心するしか出来ず、彼の言葉に黙って耳を傾けた。

「いや。気にしてないよ、高松の嫌味とジャンの天然で人を陥れる連中に揉まれてるから…一々気にしていられないので慣れっこだから。それより、俺は君に避けられるような事をした覚えは無いんだけど…良かったら教えてくれないかな?」

俺に対する気遣いと、その言葉の中に織り交ぜられた疑問の言葉に…何て上手く話す人だと思いながらも、今度こそは返さねばと思った俺は、言葉を何とか紡ぎ出す。

「別にさん…貴方が嫌いだから…避けている訳じゃ無いんです…俺は…」

そう言って俺は、その後の言葉が続かず…口ごもってしまう。
そんな俺をさんは根気強く俺の言葉を待ってくれた。
そのけれの優しさに、俺は心に有る暗い影に成っている…会いたくても会う勇気が無かった理由を口にしていったのだ。



俺が一頻り話をし終えるのを待っていたさんは、ゆっくりとした口調で言葉を紡ぎ出した。

「そんな事を言ってしまえば、俺の友人達を俺は恨まねばならなくなるだろ」

俺は思わず彼の言っている意味が分からずに、首をかしげるばかりだった。
そしてさんは、考えながら言葉の裏付けを口にしていった。

「サービスと高松は、君とグンマを入れ替えた…。ジャン何て、情報を探る為のスパイだろ?マジック前総帥…というかガンマ団自体犯罪組織だしな…そう考えると、俺も同罪だしな。それに悪い事ばかりじゃ無いんだぜ、君の親父さん…のルーザー先生は俺と高松の先輩だし…恩師なんだ。彼等との出逢いが無ければ、今の俺は居ないんだしさ…第一キンタロー君は…キンタロー君だろ」

考えながら紡がれた言葉は、確かに始めの方は迷いも含まれていたが…俺へ対しての言葉には迷いなんて感じられなかった。
本当にこの人は凄い…そう痛感した。
グンマや他の人がさんに惹かれる理由が、こんな短時間なのに分かる気さえした。
だが…それに因って疑問が浮かぶ。




不意に浮かぶはそんな疑問。
彼の話を総合すれば、するほど分からない。
誰かの子とかに拘らない…何者であるかも拘らない…彼人。
そんなさんが俺に興味を抱いた理由が知りたくて、俺は返ってこない返答を覚悟で彼に疑問を尋ねることにした。

「では…貴方は、何で俺に声をかけて来たのですか?」

らしくもなく少し震えた声で尋ねた疑問に、彼は少し考える素振りを見せたから言葉を紡ぐべく口を動かした。

「俺?俺かい?…そうだね…研究者として同じジャンルの研究をしていると聞いてね。どちらかと言うと単なる好奇心だよ。君がサービスの甥っ子云々は抜きでね」

“君が俺に話してくれた事を知るように…色々なゴタゴタは後から付いてくるもんさ”とさんは付け足すように俺に言う。
俺はその言葉に思わず呆気に取られながらも、砕けた笑顔や話をするさんを見て、自分が杞憂しすぎていた事にに少しだけ馬鹿らしく思えた。
それと同時に、何故もっと早く彼に会いに行かなかったのだろうか?と後悔の念すら抱かせた。
だからだろう…俺はおも思わず彼のペースに流されていったのだ。

「そう言うものですかね?」

尋ねる俺に、彼は即座に答えを口にした。

「そう言うもんだぜ」

爽快な笑顔でさんは言い切ると、何かを思いついたように続けて言葉を紡いだ。
それはもう…明るい声で…。

「じゃ〜理解しあえた所で、何処かに飯でも食いに行くか?」

「良いですね。それなら良い店が有るんです。折角さんと話が出来たんで、俺が奢ります」

俺の言った言葉にさんは凄く不思議なモノを見るような目で俺を見た。

「何でキンタロー君が奢るんだ?」

言った俺に、さんは良い顔をせずに…奢るのなら自分だと強く主張してくる。

「高松は喜んで奢られてますけど」

俺は頑なに断るさんに、そう言葉をかけた。
さんは、俺の言葉に苦笑を浮かべて言葉を紡いできた。

「高松と一緒にするなよ。一応俺にも年上の面子って言うものも有るんだからさ」

“それとも、凄くお金に困ってそうに見える?”と付け加えて言ってくる。
その問いには首を横に振って否定を示した俺は、自分の主張を言うべく言葉を紡ぐ。

「今後さんに色々教えて貰う授業料の一旦だと思えば安いもんですから」

俺の言葉にさんは、呆気に取られた表情を浮かべた。
そして…。

「こりゃまた一本取られたな…」

さんは、額に手を宛てて俺を見てそう言った。
俺はそんなさんを促すように「それじゃー早く行きましょう」と口にした。
俺の言葉を合図に俺とさんは歩き出す。
俺たちは他愛ない話をしながら、昼飯を食べに外に出たのだった。


彼人は…と言う人物は…

真実の姿を映す鏡が有ったとしても

他の誰かが彼に重ねる思いは違えど

彼自身は変わらない姿に違いない

これからも…

この先も…彼は彼で有り続けるのだろう

俺はさんと直接話しをして、心底そう思ったのだ。


END

2004.3.23. From:Koumi Sunohara

★後書きと言う名の言い訳★
キンタロー様のさんとのファーストコンタクトのお話。
これを機会にグンマ共々師弟関係の話が書けたら良いかな?とか考え中。
そう言えば、ミドルズシリーズも結構書いた気も…。
もう少し、キンタロー様の出番を増やしてあげればと…ちょっぴり後悔。
こんな駄作ですが、楽しんで頂ければ幸いです。


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