自給自足
−むしろ此処は武陵桃源?−


静かな場所に、美味い空気。
鳥の囀りに、そよぐ風と木々の揺れる葉音。
広がる自然は、研究によって缶詰になっている俺に潤いを与えてくれる。
マジック総帥が餞別に…とくれたこの研究所も…。
勿論、申し分無い。


ほぼ最新と呼べる機材に、非常用に作られたエコエネルギーの変換装置。
ソーラーパワーに風力発電…地熱など…よくもまぁこれだけ揃えたな!と言いたくなる程のハイテクな設備。
電気が有ると言う事は、水も汚水設備も完全完備。
ある種の別荘ぐらいの待遇である。
研究者冥利に尽きる待遇に…これといって文句はない。
文句何て言った日には、俺は…星の数ほど居る研究者に蛸殴りにされること請け合いだろう。

だが、不便は無い…と言えば嘘になる。

「こんな良い待遇なのに文句を言うのか!」

そんなクレーム言われても、不便なもんは不便何だから仕方がない。
何故…って?
何て言うのかな〜…良く言えば…武陵桃源。
分かりやすく言えば、辺境の山奥…仙人暮らしみたいな場所。
修行中の僧侶や山暮らしが好きな好きな人間なら大歓迎な場所だけど、普通の人間には実に不自由な場所なのだ此処わ。
何せ、一番近い街まで何時間もかかる。
そんな場所を…不便と言わず何と言うのだろう…。


第一凄い研究機材が有ると言っても…お腹は必ず減る物で…。
機械がお腹を満たしてくれるはずも無い。

食料確保。

そう…そこが問題なのだ。
山に入って山の恵みを採取するか…。
何時間もかけて下山して、買い出しに出かけるか…。
二者択一を迫られる…そんな環境だったりするのだココの場所は。

まぁ…当面は大量にストックされている食料が有るから心配はさほど無い。
だが、そう言った心配も念頭にいれて置かねばならない。

(取りあえず、ストックされた食料を食べながら…山の恵みでも少しずつ開拓していくことが得策だろうか?それとも専門家に相談…)

不意に浮かんだその言葉。
それと同時浮かぶのは、同期の桜の高松の姿。
俺は、バイオ科学専攻の高松が頭に浮かぶと…。

(いや…止めておこう…何だか…問題が悪化しそうな気がする)

などと思い、首を横に振って思考を追いやる。
そして…。

(兎も角時間も有るし…少しずつ調べてゆけば良いかな…まだ食料も有ることだし。最悪の場合は買い出しすれば良いしな)

そう決めた俺は、早速裏山散策に足を向けた。



それからしばらくして、俺は山に入ったり…小川などの散策を研究の合間にやってみた。
予想通り、山の恵みは豊富で…街までわざわざ買い出しに頻繁に出る必要が無い程だった。
まぁ食べれない毒を持ったキノコなども多々有ったが…。
調べながら採取していたので、別段問題も無い。
それに、煮詰まりやすい研究の合間に山に入るという行動は…気分転換にもなって良い感じだった。
体にも良い運動にもなるしな…。
御陰で俺はロボット工学だけではなく、ちょっとした山菜の知識が自然と蓄積されていった。

(案外高松のやってるバイオ科学でもやろうかなぁ〜時間も腐るほど有るし)

などと思いつつ…。

(秋にでも、サービスや高松を呼んで山菜採りやキノコ狩りでもやれたら良い)

そんな企画を思う俺であった。
こうして漸く気侭な山暮らしが、始まった。
そんな気がした。

俺の山暮らしはまだまだ始まったばかりだ。

おわし

2004.4.19. From;Koumi Sunohara 


★後書きと言う名の言い訳★
主人公の山暮らし事情です。
本当は特選部隊と対の話しにする予定だったのですが…。
部下達の山菜採り奮闘話…で。
だけどタイトルがイマイチしっくりこなかったので、主人公の生活風景に使いました。
むしろ誰も待ってないかもしれませんけどね…。
こんなお話でしたが楽しんで頂ければ嬉しい限りで御座います。



夢へ