−あさぼらげ−



唐突の出来事も

偶然と必然の出来事も

最終的には自分自身が何かを選んで進むものだろう

だから俺も…今自分の手で道を選ぶのだ



親友を失った事をきっかけに…周りに訪れたギクシャクするズレに…俺は強い決意でガンマ団との決別を決めた。
確かに友との別れは、悲しい事だが…こればかりは自分で決めたことだから…例え誰に言われようとも俺は、この想いを貫くつもりでいた。
だから、脱退に伴う処罰も覚悟の上だった。
そして…そんな想いを抱えて俺はマジック総帥との会談の席に着いた。


静まりかえる空間で、俺は辞表ならぬ…退団届けをマジック総帥に手渡した。
彼は、それを実にゆっくり開き。中の文章に目を走らせ、同じようにゆっくりと紙を閉じる。
その動作を俺は緊張した面持ちでみながら、総帥の言葉を待った。

「成程。…君の意見は良く分かった。だからこそ、私も君の真っ直ぐな想いに応えようと思う」

そう言ってマジック総帥は、言葉を一旦切った。
俺はゴクリと唾を飲み、その後に続くであろう言葉に備え、深呼吸一つ。
そんな俺の様子を確認してから、総帥はゆっくりとした口調で言葉を紡ぎ出してきたのだった。

「無期の休暇をあげるよ…。だから存分に好きなことをしてきなさい。私に出来る事はそんな事ぐらいだからね」

何でもない…簡単な言葉を言うように、マジック総帥は俺が想像も出来ない答えを返してきた。
俺は思わず我が耳を疑った。

(今…無期限休暇って…言ったよな…)

そんな信じられない思いの中、総帥の顔を見るが冗談を言ってる様な様子は無い。
だが、ガンマ団の暗黙のルールを知っている俺には彼の下した結論が…何処でどう出たのが分からず…嬉しい筈の決断に首を傾げるしか無かった。

「驚いているね。今までに前例は無いから…まぁ驚きは仕方がないかもしれないな。私はズルイ男だからね。有能な君を消してしまう気も手放す気が無いだけにすぎんのだよ」

表情の読みにくい笑みを浮かべて、サラリと言い切る。
言い切る所を見れば、少なからず本当に思っているのだろう。
だけど、普通ではあり得ない俺への対処に俺は酷く嬉しい気持ちになった。

「それでも、俺にとっては有り難い申し出です」

マジック総帥に俺はキッパリとそう返すと、総帥は嬉しそうに笑い返してきた。

「本当にサービスは良い友を持ったね。兄として嬉しい限りだよ。これは僭越ながら、私からの餞別だ」

そう言って差し出したのは、大きめの封筒。
書類などが入っているのだろう…封筒が少し厚みがあり…重さは、そこそこ重いといった所だ。
俺は黙って差し出された封筒を受け取り、「お気遣い感謝します。総帥」と口にしてマジック総帥を背にして歩き出す。
そして、入ってきたと同じようにしっかりとした作りのドアを潜り室内から出ようとした。
その時だった…。

「気が済んだら何時でも戻って来なさい

マジック総帥は総帥室の戸を閉める間際に立ち去る俺にそう言った。
まるで弟の門出を祈る、兄のような口ぶりで。
俺はそんな心遣いに感謝しながら、足早にその場を後にした。






本当は脱退を願っていたが、マジック総帥の計らいで無期休暇と言う形に相成った俺は、少しずつ周りの整理をしていったのだった。
勿論同期の桜である、彼奴等へ…俺の身の振り方を伝えることも忘れてはいなが…。
なるべく湿っぽい別れが好きでは無い俺は、彼等に伝えるコトを最後に回そうと思ったので…あえて…すぐには伝えなかった。
それよりも、少しでも楽しい思い出を心に刻みたかったから。
その考えは、我ながら名案で…残りわずかな時間であったが濃密な楽しい時間を過ごすことが出来た。

当初の予定通り…準備も出来た俺は最後に、サービスや高松にはガンマ団から離れる旨を伝えた。
彼等は壮大な文句を言いながらも送別会を開いてくれたりもした。
そんな最近の出来事も凄く懐かしい思いでのように思えるのは、現在の俺の状況が…今までの環境とかけ離れている所為かもしれない。

今の俺は…マジック総帥から餞別と言って渡された紙を頼りに、山間の道を車で走行していた。
見わたす限りの山並みは、緑豊かで…自然が溢れかえっている。
つい最近まで居た場所とは正反対の場所だった。
だが山間と言えば聞こえが良いのだが、俺が走っている道は酷く凹凸が目立ち、車が凄い勢いで揺れている。

(四駆使用にしていて良かったなぁ〜)

ガタガタ揺れる車を操る俺は、心底そう思った。
そんな事を思いながら、俺はハンドルをガッチリ握って車を走らせる。
すると、木々と緑しか見あたらなかった視界に、建物らしい影が目に映る。

(おっ…アレが…マジック総帥の言っていた研究所か…)

後少しだな…と思いながら車を走らせる俺。
だが、目に見える距離より…かな距離が有るのか…建物まで後少しが、とてつもなく長かった。
俺は溜息一つ吐き出しながら、近いように見えるその建物を目指したのだった。



やっとの思いで車を駐車スペースと思われる場所に停めた俺は、車の後部座席から荷物を降ろしていった。
お世辞にも多い荷物と言えない荷物は、両手に鞄が二つほど。
必要な大きな荷物や家財道具…研究機材は、ココへの紙をくれたサービスの兄であるマジック総帥が前もって搬入済みだからなのだが。

「本当に気の利く人だよな…サービスの兄君は」

両手にかかる軽い荷物の重みを感じた俺は、不意に漏れる苦笑と共に自然に言葉を漏らした。

「思えば遠くに来たもんだ…故郷離れて三千里…てか」

手荷物抱えた俺は、見事なまでに自然に溢れかえって居るその場所を見て思わず…そんな歌のワンフレーズを口にした。
そう思わせる程、ここは今まで住んでいた場所とギャップが激しかった。

どう激しいかと言うと…膨大な自然にあふれていると言う事…。
まぁ先程の車を運転していた道を思い出しても、良く分かると思うのだが…かなりの山奥だ。
そんな山奥に似つかわしくない近代的な建物がポツリと佇んでいる具合が…俺的に激しいと感じる。

しかし…建てて貰ってそんな文句はお門違いかもしれないが…本当にミスマッチな建物なのだ。
これならよっぽど掘っ立て小屋の方や山小屋の方が似合いそうなのだが、研究施設と言う面では、理にかなっているのだが。
要するに、俺が新たな一歩を踏み出す其処は…ツッコミ所が満載だという所なのだ。

「さて、気合い入れて働かないと、喰いぱぐれちまうん。そんなモンは洒落にならんからな」

俺はそう言いながら気合いを入れると、ミスマッチな研究所の中に入るべく足を進めたのだった。

こうして俺の第二の人生は、ココから始まるののだと思いながら。

おわし

2004.3.24. From:Koumi Sunohara


☆後書きと言う名の言い訳☆
レベル別10題:LV10の2番「あさぼらげ」で夢SSパプワミドルズ研究所編の始まりのお話になります。
少しずつさんの、過去などが明らかになって行きますが…此…凄く短いからSSと言うより…
小ネタの方が良かったかな?と今更ながら悩む所…とりあえずSSと言う表記です。

今回の「 朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に ふれる白雪 」
百人一首の31番目坂上是則さんの句のお題でした。
「あまりに明るい夜明けなので、きっと有明の月なのだろうと窓を開けてみると、眩しい程の光が差し込んだ。
眠っている内に降り積もった雪が見えた。旅の一夜は吉野の里だったなぁ」って口語訳だったと思います。
相変わらず妖しい訳ですが…多分こんな感じです。
ですので私の勝手な解釈で…旅行ないし…道中の一句だと思うので使ってみました。
相変わらずアバウトです。こんなお話でしたが、楽しんで頂ければ幸いです。



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