ガンマ団
−此処から始まる新たな世界−





何かやりたい事など無かった

進むべく道なんて分からない

やる気のない…平凡な学生だった

ただ…人より、科学に興味が有っただけ






だから…そう…この殺し屋集団と呼ばれるガンマ団に入ったのも、ただ何となくだったんだ。ただの偶然の筈なんだ。


晴れ渡る青空に澄み渡る空気が気持ちの良いこの日…俺は、本日付でガンマ団の養成学校に入校した。殺し屋を育てる学校に入校するのに、空はあまりにも爽やかで…正直このギャップは何なんだろう?と思わず首を傾げてしまいたくなるほど空は青く澄み切っている。

まぁ…空には俺の心情やら…殺し屋養成学校の入校日などと知るはずも無いので罪は無いんだろうが。
俺としては、少しこのギャップが可笑しくて堪らないって事だ。

色々な想いが心の中で巡るけれど、俺がこのガンマ団に関わるということは変わりようのない事実。寧ろ自分が望んだ道。

だから悔やむことも無いし、何とも思わない。感動もクソも無いってやつだ。
例えるなら小学校から中学校に何も考えずに、学校が変わったみたいに…何も感動などなかった。

そんな事をボンヤリと思えば、何だか自分がやけに感傷的である事に気が付く。
昔なら、本当にこんな事も考えず…すすめと言われた道を歩んでいた…だが今の俺は何だか色々な事を考えている。

(案外…ガンマ団に入るの戸惑ってるのか俺?)

思わず浮かぶ思いと苦笑。

(こんな筈じゃ無いんだが)

などとボンヤリと自分に自問自答していると、不意に俺の直ぐ横に陰りが出来た。
道の往来で考え事をしていた手前、俺はハッとしてその場をずれよとしたが…何故だかその人影に声をかけられた。

「おや?君も日本人ですか」

口元に黒子…漆黒の髪が肩にかかる男が俺に声をかけてきた。
俺は、ボーっとしていた思考を切り替えて、声をかけてきた人物に顔を向けた。

「ああ。紛れもなく日本人だよ。そう言う君も日本人…だろ?その口ぶりからいくとだけどな」

俺はそう言ってその人物を見た。
そう返せば彼は笑いながら「ご名答ですよ」とサラリと言葉を返してきた。
そんなやりとりを、同郷の人間と話していると俺の視界に妙な二人組が目に入った。

日本人かどうかは不明の黒髪の男と金髪碧眼の男が妙な空気を出して、其処にいた。
俺は引き寄せられるようにフラリとそちらに足を向けていた。


近くで見た二人は幾分と言ってはおつりが来る程顔立ちの綺麗な奴らだった。
特に金髪の男は、澄んだブルーと言って良いほど綺麗な目をしていた。

そんな二人の間には別段会話らしい会話も無く、何となく其処に居るという感じだ。それが俺の率直な意見。

「なぁ。あんたらも此処に入学する連中か?」

新入生が新入生に挨拶がてら聞くという言葉として不自然ではない言葉を、彼らに投げかけ俺は二人に声をかけた。

「ああ。そうだぜ…つーことはお前も?」

ニッと人好かれしそうな笑い顔を見せた黒髪が直ぐに俺の言葉に反応を示す。
俺は軽く頷き、もう一人に目をやった。

「私も…一応新入生だ」

控えめながら紡ぐ言葉に、俺は「そっか宜しくな」と声をかける。
すると其奴は、少し拍子抜けしたような…安心したような表情で「宜しく」と返してくれた。

そんな風に切り込んで会話に加わった俺は、先ほどから思っていた言葉を口にしてみることにした。

「お前の目って綺麗な目だな」

失礼承知で、金髪碧眼の男を覗き込んで俺は正直な意見を言った。
するとその男は、驚いた様な複雑な表情で俺ともう一人を見た。

「綺麗なんかじゃ無いさ…こんなモノ」

吐き捨てる様に言う言葉に、少なからず引っかかりを感じたが俺は気にすることなく再度言葉を紡ぎ出す。

「そうか?日本人特有の黒目の俺にしてみれば…人工じゃないその綺麗な蒼い瞳は綺麗だと思うぞ…無論髪もな…。人工じゃ出せない色って言うのが、良いんじゃないか?まぁ男相手に綺麗は嬉しくないかもだけどさ」

「それを言うなら、お前達の黒髪も同じだな。つややかで綺麗だぞ」

少し硬い表情から軟らかい表情に幾分変えた其奴は、そう言った。

「そうかもな。要は他人の芝ほど青く見えるってヤツだな」

俺はソレに対して言葉を返す。

「人の持つモノの方がよく見えるって事だ。日本のことわざだ」

そう言い切ると金髪の男と黒髪の男は「成る程」と呟いた。
何となくぎくしゃくしていた空間が一瞬和んだように感じた気がする。そう思った矢先、黒髪の男が口を開いた。

「何かアレだな…」

「何だよ」

「俺らって昔からの馴染みたいに自然に話ししてるよな。今日初対面なのにさ」

「「ああ…そう言えば」」

俺と金髪の男は、今更ながらそう思った。
三人の気持ががっちり固まって、思わず俺らは笑い合っていた。

すると…。

「君達は変わっていますね」

呆れと感心を織り交ぜた様な声音で、先の日本人が口を挟んだ。
俺ともう一人の黒髪の男は、訝しいモノを見る目で其奴を見た。

「高松ですよ…先名乗りませんでしたかね…」

苦笑を浮かべて、俺ともう一人の黒髪の男を見てそう言う。
俺は先ほどまで話をしていた口元に黒子の高松と言う人物に、軽く肩を竦めて言葉を紡いだ。

「残念ながら自己紹介は途中だったように俺は思うぞ。寧ろ俺は名乗った覚えは無いしな」

自分の言った言葉を慎重に思い出しながら、俺は高松と言った人物にそう返す。
すると高松は、「ええ確かに」と短く返してきた。

その飄々としたつかみ所の無さそうな雰囲気に、(別に名乗らなくても良い気がしてきた)と内心思ったが、言った手前自己紹介すべきだと思ったので…微妙な心境で言葉を紡ぎ出す。

「俺は…日本人。んで、今日からここに厄介になるしがない学生だ」

かなりあっさりとした自己紹介。
これで話はお開きになる…そう思った矢先に俺のすぐ後ろから声が出た。

「俺か?俺はジャン…黒髪だけど日本人では無いな…。ともあれ俺も今日から同期って事だしよろしく頼む」

俺と共に同意見だった黒髪の男は、かなりはし折った自己紹介をした。
まぁジャンと言うらしい事が分かったが…本当にアバウトな自己紹介だと思う。

すると目が綺麗だとジャン先から言っていた金髪碧眼の彼も俺達に感化されたのか口を開いた。

「名を名乗るのが遅くなった。サービスだ」

「「ふーん。サービスね…宜しくな」」

思わずサービスの自己紹介に対して俺とジャンの声が重なる。
そんな俺達二人に、サービスと高松は面白かったのか少し笑みを零した。

「だから変わっていると言って差し上げたんですよ」

笑いを噛み殺した高松が、お腹を押さえてそう言う。

「サービスと言う名と…この時期の士官学校入学…何か引っかかりませんか?」

意味深に言う高松に俺は、とある人物の名前が浮かぶ。
ガンマ団総帥の弟サービス…美貌と冷たい目を持つ期待の新入生。
入る前からの評判と言う名の噂は、噂に疎い俺の耳にもそう言えば入っていた。

(と…言うことは…此奴が噂のサービスって事か?)

自分なりの結論が出た俺は「関係者って言いたいわけ?」と高松に尋ねる。
高松はそんな俺に肩を竦めて…「本当に変わってますね」と口にいした。

「気にしたって仕方がないだろ。関係者だろうが何だろうが、俺は今日初めて会ったし…別にコネを求めてるわけでも無い。純粋に何気なく話しかけた…それに何の問題が有るっていうんだ?それとも何か?一々人の出生や家柄考えたり予測して話しかけなければいけないのか?」

何となく高松の物言いに不快感を感じた俺は、畳み掛けるように言葉を紡ぎ出す。
すると…言われた高松は別に気を悪くした様子もなく、ゆったりとした口調で言葉を返してきた。

「そうキッパリ言い切られたらかえって気持ちが良いですね。別に悪くは無いですよ」

フッと小さく笑みを零した高松は、俺に向かってキッパリと言い切った。
しかも、話の道筋から考えても彼の矛盾ともとれる言動に俺はかなりの戸惑いを覚える。

「はぁ?」

吐いて出た言葉は気の抜けた、その一言。
ハッキリ言って間抜け以外の何者でもない気の抜けた音である。

そんな俺の心情など気にすることのない、高松は楽しげに笑いながら言葉を紡いだ。

「いえね。一般的な見解を先言っただけでね…私としても、君の意見には賛同って所です」

「何だよそれなら、そんな悪趣味な事すんなよ」

“はぁ〜”と盛大な溜め息を吐きながら、ジャンはそう言う。
俺も高松の真意が計りかね…訝しげに彼を見やる。
すると…。

「素性が分かって態度を変えるならソレなりに何かしようと思いましたけどね…。あんた達は変わらなかった…しかも本人も良いというなら、私はそれ以上忠告もする必要など無いんですよ。知っても尚凡庸なつき合いを願うのなら、ソレは心からの正直な答えでしょう」

相変わらず読めない表情を浮かべ言う高松に、俺とジャンは顔を見合わせた。

「俺は高松も相当変わってると思うぞ」

言い切る俺にジャンは頷き、高松は肩を竦めた。
そんな中ただ冷静だったサービスが、不意に言葉を紡いだ。

「それよりも、そろそろ行かないと入団式に間に合わないじゃないか?」

サービスのその言葉に、俺達は顔を見合わせて…入団式へと走らせた。

この出会いが、俺のこれから人生に深い関わりの持つ連中との出会いだったとは…この時の俺は…ちっと思っては居なかったのだ。


END


2005.9.22. From:Koumi Sunohara



★後書き+言い訳★
士官学校編の始まりのお話になります。
今更って感じかもしれませんがね…。
でもコレから読み始めてる人(居るのかな?分かりませんが)にはこんな始まりかって感じかもしれませんがね。


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