特別じゃなくて  


シンタローが総帥になってから、彼の青年は笑うことが極端に減ったとマジック元総帥がボヤいていたのは記憶に新しい。

「最近シンちゃん笑うことが減っちゃたんだよねぇ?どうしたら良いのかなぁ」

「仕方が無いでしょう。弟君は眠ったまま…総帥稼業が大変何だろと思いますよ」

そうやり取りをしながら、(休みを与えた所で、シンタローは休まないだろうけどな)と思いつつ、黙ってマジックさんの話を聞いた。

。父親なのに私は無力だね」

マジックさんは昔の総帥時代では見たことの無い、弱気な表情でそう呟いた。
あまりにも実感に満ちた、その言葉の重みに俺はどう返して良いのか分からなかった。

シンタローとマジックさんの関係については、竹馬の友からも聞いたし、シンタロー本人からも直接聞いた。

にわかに信じられない、秘石からシンタローが生まれた事、キンタローとシンタローとの関係、グンマが本当はマジックさんと親子で、シンタローとは血縁関係では無い事。

他人の俺ですら理解に時間を要したのだから、当事者の感情は更に複雑だったに違いない。
それでも、彼等は家族として過ごして居る。

そんな複雑な環境と、彼を成長させる経緯になったある島での約束を叶えるためシンタローは、必死にガンマ団を運営している。

故に、寝食を忘れて我武者羅に仕事に打ち込むのだろう。
目覚めない弟と島での約束。

進まない現実と叶えたい願い。
その差が大きければ大きい程、シンタローの中で溝ができ、それを埋めようと必死にもがく。

(分からなくは無いけどな…けど…遅かれ早かれシンタローは壊れるな…)

相談に来たマジックさんとその息子を思い出し溜息を吐く。

(親が分からないのに他人が分かる方が無理ってもんだが…可愛い教え子だしな…)

俺は頭を二、三度掻きながら言葉を紡ぐ。

「取りあえず。シンタローは素直じゃ無いですからね…マジックさんの出来るささやかな事をしてあげるっていうのはどうでしょう?」

何とか絞り出した答えに、マジックさんは不思議そうな顔をした。

「ささやか…ねぇ…例えば?」

「そうですね…差し入れを持っていくとか…マジックさんの出来る事をするっていうのが一番かなって俺は思いますよ」

「ふむ。シンちゃんを困らせる敵国に行って壊滅させてあげるとか?」

何気にサラリととんでもない発言をするマジックさんに、頭痛を覚える。

「ストップです!そんな事したら益々、シンタローに嫌われますよ」

そう俺が止めれば、マジックさんは悲壮感全開の表情を浮かべた。

(まぁ…シンタローが一番なついてる美貌の伯父さまで竹馬の友のサービス連れてくれば一番効果てき面なんだろうけど…それ言ったらマジックさん立ち直れないだろうな)

そう感じながら、マジックさんを眺めるが彼は相変わらずどうしようといった表情だった。

「ああ…アレはどうです?」

「アレ?」

「手料理ですよ。マジックさんシンタローによくカレー作ってあげてたじゃないですか。その所為か分からないけど、彼奴も結構料理するし…たまには良いんじゃないですか?」

「手料理か普通だよ」

「普通が良いんですよ。特別な事なんてしなくて良いんです。そもそも、ガンマ団事体が特殊な集まりですからね…平凡なのが丁度いい。コタロー君の病室で、家族団らん気取るってのも良いんじゃないですか?」

そう俺が口にすると、マジックさんは少し難しい表情を浮かべた。

「お節介かもしれませんがね…シンタローが望んでることは家族全員のありふれた日常ですよ」

「その中に私はいないだろうさ」

「いいえ。コタロー君のお父さんは誰でもないマジックさん。シンタローが何者であってもシンタローはマジックさんの息子でしょ。どちらの父親なら…貴方は家族じゃないですか?そもそも、少しボタンのかけ違いですれ違ってコタロー君とシンタローと愛がズレテルナラ、マジックさんが歩み寄らないと」



「はははは。柄にもなくお節介としゃべりすぎましたね」

「いや有難う」

「いいいえ。ではお節介ついでに、コタロー君の病室の許可とシンタローを誘い出してあげますよ」

「…」

「後はご自身の力でどうにか為さってくださいね。総帥」

俺はあえてそう…総帥と口にしてしめくくった。

俺にとっての総帥はシンタローでは無くマジックさん。ジャンの事…サービスの事…高松にハーレム…ガンマ団に居た時も辞めた時も良くしてくれた、俺の中の総帥はマジックさん。色々な感謝をこめて、俺はお節介をやくことにした。

その後、この計画が上手くいったか否かは…良い方向に進んだという事だけは、確かって事で…まぁ神のみぞ知るって言うよりも…当人のみ知るって事だ。


おわし

2013.8.11.(WEB拍手掲載2013.6.1.〜) From:Koumi Sunohara

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