Jack 0' Lantern |
俺の住む所は広大な自然広がる緑豊かな場所である。とまぁ言えば聞こえが良いんだが…実際は少し度が過ぎていると言う表現がしっくりとくる感じだ。
ハイテク機材満載の研究所の建物なんざ、寧ろ外観を損ねる以外の何ものでもない。
場違いがどちらか尋ねたならば…断然俺の研究所だと言う答えが返ってくるだろう。
俺の同期にしてバイオ科学の研究者である高松がこの広大な土地に目をつけて、勝手に自分の研究中のバイオ植物を栽培しちまっているんだ。
と言う訳で研究所の敷地内には食べれる作物から、危険そうな作物まで揃っていたりする。俺としてはまったくもって困るのだが。
何が困るのって、アレだよ…普通に生息している野性動物達が食べちまって…副作用にヤラレちまったりして…生態系崩しそうって事なんだよこれがまた。
エコロジストやら動物愛護団体じゃ無がコレは流石に頂けないと思うんだよ、人としてな。
てな訳で…俺の研究所はちょっとした畑と化している。
現在の季節は秋。実りの秋とはよく言ったもので…俺の食料と高松の作っている謎の作物も撓わに実る。
そう実ってしまったんだよ…バイオ植物が…。
普段の俺のスタイルは研究中心で…滅多に畑仕事をしようとしない。
だから畑の作物はほっといても案外大丈夫なイモ類だったり…手が余り掛からない作物中心だったりする。
故に俺は、高松が何をどのくらい育てているのかあまり興味が無い…と言うより把握していなかったりするのだ。なんつーのかね、居候の動向が分からない家主って感じだよ。
んな訳で研究も一段落ついた俺は、食料を収穫がてら畑に出て何気なく足を向けた高松ブースで見てしまったのだ。
巨大南瓜の品評会に出したなら、間違いなく優勝できそうな巨大サイズのお化け南瓜がゴロリと転がり。怪しげな色合いの南瓜もゴロゴロと転がっている。
魔女のスープの色という言葉がよく似合うそんな色だったりで、明らかに食用には見えないものばかりだ。
(彼奴はこんな南瓜を作ってどうする気なんだろ?南瓜の品評会に出せと言うのだろうか?)
不意に掠めるどうでも良い思いに俺はちょっぴり、高松に尋ねたくなったが…何となく浮かぶのは、竹馬の友の笑い顔と答えが浮かんだ気がした。
「デカイ南瓜ですか?いや〜何となく配合したものがどうなるか気になっただけですよ、他意は無いんですよ」
サラリとそんな言葉を言いそうだ。
オプションに「何なら食べても良いんですが。感想もちろん下さいね」と言う恐ろしい言葉まで付きそうで…逆に聞きくのを拒否する程。
だまってこの南瓜を腐らせたならば、産業廃棄物も真っ青な桴海の森を思わせる悪臭を放つこと間違いなし。
信心深くは無いが…勿体ないお化けなど…南瓜のお化けなどに祟られそうだ。
(しかも豊穣の秋…となればハロウィン…やっぱり俺は南瓜に祟られるのか?)
科学者にあるまじき非科学的な思考だが、高松の制作のバイオ植物を見れば見るほどそんな思いに狩り立たされた。
「さてはて…食べる訳にいかない此奴らをどうしてくれようか?」
秋の風を感じながら俺は心底そう思ったのだった。
怪しげ南瓜廃棄物と向き合うこと数日。
奴らは、グングン成長し…あの日見た時よりも巨大化していた。
埒のあかない俺は、ロボット工学を教える生徒一号グンマと…マジック総帥に突然送り込まれ生徒になってしまったシンタローを呼ぶことにした。
勿論、子供らしく南瓜を使ったランタン…ジャックオーランタン作りを教えようかと思ったからだ。
それに、高松の南瓜はハロウィンのランタンにするに丁度良いおどろおどろしい雰囲気を醸し出しているのだ。
ともあれ俺は、二人の生徒を畑の真ん中に連れ出したのである。
「先生」
元気よく俺に声をかけるグンマはかなり困惑気味だった。
俺はそんな事などお構いなしに、至って普通に返事をした。
「ん?何だグンマ」
普通に切り返されたグンマは、益々困った顔を強くして俺を見上げる。
困惑したい気分が分かるものの俺は素知らぬふりをして、言葉を紡ぐ。
「今日はロボット工学の勉強は止めて、ちょっとした芸術味溢れる勉強をしようと思ってな」
サラリと言えば、もう一人誘った俺の生徒2号シンタローが異議の声を上げる。
「俺はロボットの勉強なんかしないけど、何をするんだよ?さんの事だから変な事はやらないだろうけど」
眉毛を八の字に歪めてシンタローはそう言った。
その言葉にグンマも少し不思議そうに俺の言葉を待った。
「グンマ…それにシンタロー…10月31日って何の日か知ってるか?」
俺は二人の生徒に目を合わせて、そう尋ねる。
すると二人は、少し考えながら「ハロウィン?」と答えた。
その答えに満足気に頷きながら、俺は言葉を続けた。
「んでだ…この一面に広がる怪しげお化け南瓜を使ったジャックオーランタン作りに挑戦して貰おうと思って二人を呼んだんだよ」
ニッと笑みを浮かべて、背後にある高松作の南瓜畑を親指で示しながら俺が言う。
色とりどりと言えば聞こえが良いが、怪しい色合いと…大小様々な南瓜の群生。
無論子供達が呆気にとられているのは、想像出来る範囲である。
口をポカーンと空けたまま、畑を見るシンタローとグンマ。
(子供にはちと…魔女ちっくな南瓜だよな)
苦笑を浮かべながら、俺は口を開いた。
「畑で生活に必要な野菜を栽培しようと、種まきをしていた時にな…とあるバイオ科学者が植えていったんだよ」
俺はあえて高松の名を出さずに、そう言うとシンタローは顔を顰め…グンマは「凄いですね〜」とよく分からない感嘆の声を上げた。
顔を顰めたシンタローを見るところ、出所が高松だという事に気が付いているようだった。相変わらずあざといお子様だとつくづく思う。
まぁ…そんな事など元より気にしていない俺なので、気にせずに言葉を紡ぎ出す。
「それにさ…ハロウィンと言えばカボチャのランタンは必要不可欠だろ?」
そうサラリと言えば、シンタローは何とくいかない顔をする。
どうも此方のお子様は少し冷めた要素を持っているらしい…だけど彼はまだ子供な訳で…
「分かってないね〜。手作り出来るもんは作る。自ら生み出すって事は何よりも大事で凄いことだぞ。例え怪しげなお化け南瓜を使ったとしても…もの作りは良いもんだ」
「確かに物作りは良いと思うけど…グンマだけやれば良い…俺は関係無いよ」
グンマと違い体力勝負的な要素の強いシンタローは、少しばかり自分で作る芸術的感性が鈍いのだろう…いじけた様にそう言う。
だが…そんな事で、折れる程優しい人間じゃない俺は、さっさと言葉を切り返した。
「あのな〜関係なら有るんじゃないのか?一応シンタローは俺の生徒…グンマも俺の生徒…先生と生徒って言う関係はある。故に関係はあるのさ」
「俺ガンマ団総帥の息子だよ。何でこんな事しなきゃいけないのさ」
ふくれ面で言うシンタローの言葉は、俺にとって聞きたく無い言葉を紡いだ。
その所為だろうか、思わず俺は感情的に言葉を紡いだ。
「それが何だよ。お前がガンマ団総帥の息子なのは知ってるけどな…それは親父がマジックって言う人だからだろ?シンタロー個人の評価じゃない。第一総帥の息子だから生き延びれる事もなければ、お前が総帥になるっていう確証だって無いんじゃないのか?」
子供に対して言う言葉では無いかもしれない言葉だが、俺はあえてシンタローにそう言った。
大人が幾度と無くこっそりと言った言葉なのだろう…シンタローは途端に黙って何かに耐えるように下を向いてしまった。
「だから俺は色々な経験を積んで欲しいと思う。総帥だって始めから総帥じゃない…俺や高松…お前の大好きなサービス叔父さんだって…皆そうだ。子供時代に色々な事をした経験…くだらないこと…悪戯…楽しかった事…辛いこと…それら全てを通して今の俺らが居る」
「だって…そんな事言ったって…俺叔父さん達の子供の頃なんて知らないもん」
「知ってたら怖いだろ」
少し溜め息を吐いて俺は言う。
「第一な…作れないモノ…生み出せないモノ買うのは別に悪い事じゃ無い。でもな…何でもお金で解決できるという考えは良いことでは無いぜ。もしも…文明も…お金も関係のない世界に行った時…自分で生み出す事の凄さに気づく…そんな体験しないにこした事は無いんだろうけどな」
そう俺が言えば、シンタローは少し考えてから言葉を紡ぎ出した。
「親父は…作れるのかな…と言うか作ったことあるのかな南瓜ランタン」
「総帥か?多分ジャックオーランタンは作ったりしないんじゃないか?…作ってるならシンタローやグンマがジャックオーランタンを知らないはず無いだろ」
(第一コレは高松南瓜のランタンだし…誰も経験は無いと思うぞ)
そんな言葉は心の中に隠しながら、俺はそう言葉を返した。
「じゃぁ作る事にする」
俺がマジック総帥がジャックーランタンを作った事が無いと言った途端、シンタローはそう言った。
どうやら負けず嫌いの魂に火を付けたようだ。
「そうかい…じゃ〜南瓜選びから始めなさいな」
シンタローの背中をポンと叩いて俺は畑に送り出す。
そして、俺は振り返る。
「さて…グンマも作るかい?」
先程から茅の外だったグンマに声をかけると、グンマは「はい」と元気よく頷いた。
グンマの素直な反応に微笑ましい気分で眺めていると、南瓜選びに真剣になんていたシンタローがグンマに声をかけた。
グンマは慌ててシンタローの方に駆け寄り二、三言葉を交わした後、黙々とランタン作りに励んだ。
俺はその様子を大きな南瓜に腰をかけながらボンヤリと眺めなた。、
一生懸命にランタンを作る姿は微笑ましい。
高松なら、鼻血を吹きながら涙を流しているだろう…。
総帥はビデオをカメラを持ってやっぱり鼻血を吹き出しているかもしれない。
ある意味二人の先生である俺の特権に、よく分からないが自然と口が緩んだ。
(まぁ…そして真っ直ぐで少し不器用な二人の生徒の所為なのかもしれないな)
「よしよし…このランタン使って、此処でハロウィンパーティーしような」
不格好ながら個性的なランタンを眺めながら俺は呟きながら…クシャリとシンタローとグンマの髪をかき混ぜた。
(こんな微笑ましい子供達にランタンにされたなら、この怪しい南瓜達も満足だろう?何せハロウィンは南瓜が主役なのだから)
俺は子供達の作ったランタンと畑の南瓜を見比べながら、心の中でそう語りかけてみた。
気のせいか、顔のないお化け南瓜が笑った様な気がしたのだった。
おわし
2005.11.4. From:Koumi Sunohara
★後書き+言い訳★ ハロウィン 5のお題より。 ミドルズシリーズ後編でした。 コレには実は続きが有るんですが…それはまた何時かの機会にでも。 と言っても私の心の中でですけどね。 何時か日の目に当たれば良いかと…。 ともあれ、楽しんで頂けたら幸いです。 2005.10.21.〜web拍手掲載作。 |
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