PAPUWAミドルズシリーズ

  狂い咲き  

温かい陽射しに、木の芽が綻ぶ。桜は春に咲きほこる。
柔らかな薄紅色が優しい暖かな季節を彩るものだ。

空気も陽射しも暖かく優しい。冷やりと肌を刺す冷たい北風の後だけにそう感じるのかもしれないが、春は暖かで優しく思える。

そんな季節が俺は好きだ。日本人だからなのか、なんなのか分からないけれど、このはかなくも大胆に散る桜の桜季節が好きなんだ。

そして春は何かの変化が訪れたり、出会いや新しい始まりの季節と言うのもあると思う。
桜も春も合わせて、好きなんだと思う。

だから、変な時期に季節じゃない花が咲くのはあまり良い感じがしない。別に少し時期がズレるとかは、別段気にならない。

単純に桜が好きなら、あまり気にしないのかもしれないが、俺はあまり好きではないんだ。

俺とは逆にあまり気にしない奴も居る。マットドクターの高松、サービス、ジャン。
あとこの目の前に居る奴もそうだ。

「なぁ。何で桜は春だけにしか咲かないんだ?これじゃ−、ちっとも花見とやらが出来ねじゃねかよ」

結局花見に間に合わなかった事を未だに文句をたれるハーレムは、ことあるごとにそう言葉を紡ぐ。
桜開花が何時でも大歓迎の一人らしい言葉だ。

(毎週あるスーパーの特売日じゃあるまいし、毎週あったら有り難み無いつーのな)

何て言葉を思い浮かべながら、言葉を紡ぐ。

「年がら年中咲いてる花なら花見なんて大層な事しないんじゃないか?月見と一緒と考えれば良いじゃねーか」

「でもよ、稀に冬に桜が咲く時もあるんだろ?腐れドクターが言ってたぜ」

(腐れドクターって、そうとう嫌われてるな高松)

同期の桜にそんな事を思いながら、ハーレムの言葉に応える俺。

「ああ狂い咲きな」

俺は直ぐに言葉を返す。ハーレムは俺の言葉に少し顔をしかめる。

「何だ何か余り良い響きじゃね〜な」

「確かに良いもんじゃねぇーな。読んで字の如く季節無視して咲くからな。日本人はこの狂い咲きをよく思わ無いんだ…何となく不吉と言うか…何かの予調に感じるだろうな」

…お前もその一人って事か」

「まぁ〜個人的に俺は好きじゃ無いだけだ。何て言うんだろ…死に間際のあがきみたいでな…虫の知らせみたいで好きになれないんだ」

「あんまり信心深いって言えない日本人なのになお前」

「違う意味で信じん深いだよ。そもそもなキリスト教だって言ってる奴が全て神様を信じてると思うなよ。日本人だって…コレだって言う決まった神様じゃなくても言い伝えぐらい信じるってもんだ」

「でもよ〜たかだか、桜の花ぐらいでそう思うか?しかもお前科学者だろ?」

少し呆れたように言うハーレムに、俺は少し肩を竦めた。


「科学者だって、全てオカルト嫌いって訳じゃ無いぞ。ただ何だ…桜は人と密接すぎるから…そう思うだけだ」

「密接か?花見がか?」

「そうじゃねぇよ。大昔から桜は、人の生き様に例えられてるんだ…武士の散り際だったり…合否の表現だったりな。怪談でも…桜はよく出てくる…薄紅の花びらがまるで血を吸ったような紅色で…よく桜の下に死体があると言う話が出てくるほどなんだ」

そう言う俺にハーレムは、少しだけ納得した様子だった。

「成る程。つーことは…例えば死んだ奴が生き返るとか…あまり良くないあり得ない事が起きる例えが狂い咲きだと言いたいんだな。まぁそう思ったら少し気味が悪いと感じがするな。まぁそんな不吉なもん見て酒が美味い筈は無いわな」

「ああ」

「狂い咲き何か頼らなくても、美味い酒が飲めれば俺は良しとしてやるよ。気長にまってやらぁ」

そう言ってハーレムは、持ってきていただろう酒の準備を始めた。
そんな切り替えの早い友に、少し呆れながら…俺はぼんやりと思う。



戦地に赴く身だけれど…願わくばどうか。

心地よい春風の季節に、今度こそ皆で花見が出来る事を祈るばかりだ。

狂い咲きの花見では無く。


おわし


2008.3.2.From;Koumi Sunohara



★後書き+言い訳★
久しぶりのPAPUWAミドルズシリーズです。
桜散るから大分経ちましたが続きになります。
一応桜シリーズはコレにて一旦終わり。
結局花見が出来たかは、機会があればお付き合い頂ければと思います。
web拍手にて2007.12.6〜掲載作品です。

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