桜狩り |
−出会いは母国の花の下で− |
俺が日本人だと思う瞬間は、四季を感じるときかもしれない。
夏は花火。
秋は紅葉狩り。
冬は白い白銀の世界にかわる。
その中でも俺は一番桜舞い散る春の季節が一番好きだ。
優しい日の日差しと、頬を掠める柔らかな風。
少しずつ冬の寒さから目覚め、ゆるやかに芽吹き始める新緑。
そして何より、噎せ返るように咲き誇る桜並木。
真っ白な花びらから深紅の花びら、柔らかな薄紅に…白と赤が入り交じる花びら。
ひとえに桜の花と言っても、言い尽くせぬ種類の違い。
それ故に、立ち並ぶ桜の木々が花を一気に咲かせた時はそれはもう…言葉を失う程う生きた芸術だろう。
(日本贔屓なのか?ガンマ団)
などと思うが、故郷のなじみ深い花を見れた事には結構感謝していたりする。
(高松とかジャン…サービス誘って花見でもやれば楽しいかもしれないな)
ぼんやりと思いめぐらせ桜の樹を眺めた。
すると…ザッと砂と靴が擦れる独特な音が俺の耳に届いた。
(誰かが来たか…)
他人の気配にそちらに気を張ってみれば、金髪の男がボソリと呟く。
「ピンクの花?」
同い年ぐらいの男が、桜を見てそう言ったので俺は独り言のように言葉を紡いだ。
「桜の樹だぜ」
「サクラ?」
「ああ桜。日本で有名な花だな…これだけ桜の樹が多く植えてあるなら、花見だって結構見物だろうな」
桜の幹に手を這わせながら、俺は満開になるだろう桜を思い浮かべてそう言った。
「花見?ああ…花を見るだけなのか?意味不明だなソレ」
「そう言うもんかな…植物を見て心が和むのと同じだろう。日本人以外だって、薔薇を愛でたり…庭でティーパーティーを開くのと大差ないぞ」
名も知らぬ男にそう言い返してみれば、其奴は「俺には芸術とか…そう言うのは得意じゃねぇ」とボソリと言葉を漏らした。
(成る程…花より団子タイプなヤツなんだな…)
などと俺はぼんやりと思いながら、話しかけてきた金髪の男の事をそんな風に思った。
「お前日本贔屓なんだな。まぁアジア系なら、近所だしな…それとも日本人か?」
「ああ見まごうことなく日本人だな。 って言うしがない士官学生って所だな」
「なるほどね…ただの日本人贔屓のヤツかと思ったが本場のヤツか。… か…確かに響きも日本人だな。成る程…それにしても花見ね…」
桜の樹を眺めながら、其奴は自己完結に近い言葉を吐いた。
名も知らぬ、男に興味は無いが…自分の紹介に自身の紹介をしない男に何だか知らないが俺は疑問を口にしていた。
「で…アンタは何者なんだ?」
「あ?俺か?ハーレム…しがないガンマ団員って所か」
ニヤリと笑って、どのへんが“しがないガンマ団員”なのか不明な口調でそう言ってきた。
俺はその口調には気にせずに、先ほどからこの男ハーレムが気になっているだろう花見について話してみることにした。
「知ってるか日本では、花見の事を“桜狩り”って言う奴もいるんだぜ」
「サクラガリ?花をとるのか?」
困惑色を強くハーレムはそう言った。
俺はその言葉に(日本人じゃ無いもんな…)なんてボンヤリと思いながら、彼に答えるために言葉を紡ぐ。
「狩りって言う言葉は難しいな…紅葉を見るのも紅葉狩りって言うんだぜ。それにな…別に花をて折ったりするわけじゃねぇよ。何つーんだ、花を愛でながら…楽しく酒や飯を食ったりするってヤツだ。雰囲気を楽しむってやつだな」
「成る程…。まぁ…花を見ながら酒つーのも良いかもな。と…言うか日本人は酒好きなんだな…月見とやらも酒を飲んで月を見んだろ?」
「まぁ…何かにつけて酒を飲むのは否定しないけどな」
苦笑を浮かべてそう言えば、ハーレムは相変わらず無邪気に笑う。
「だろ。つーか…お前って変わってるヤツだよな。知ってるかもしらねぇーが…俺の名前で何者か分かってる筈なのに、まったく態度が変わらねぇ…」
「昔はそうは思わないけど…最近…つーか二三日前にも同じ様な事を言われたな」
乾いた笑いを浮かべながら言う俺に「俺だけじゃねぇつー事は、確定だな」とニヤリと笑ってそう言った。
そして、不敵な笑みをしまいハーレムは桜の樹を見上げながら言葉を紡ぎ出した。
「このサクラってヤツは何時まで咲いてるだ?」
「ん?何だよ藪から棒に」
「俺は何時だって突然なんだよ。で…何時まで持つ?」
「数日は持つはずだな。何せまだ咲き始めだ…満開になったら凄く見事だぜ。花の雨が降り注ぐみたいにな」
俺は桜の木を眺めながら、咲き誇るであろう花に思いを馳せながら言葉を紡ぐ。
見上げた桜の花はまだ開ききらずに、わりかし蕾が多かった。
「ほー…其奴は確かに見物だな。じゃーやるかサクラガリ…俺と…えっと…お前で」
「 だよ。ハーレム」
「悪い悪い、 。悪気は無いんだぜ」
「何となく分かるしな。気にしねぇよ」
手をパタパタ振りながら俺はハーレムにそう言った。
するとヤツは、ニカッと笑返してきた。
「おっ流石日本人懐がデカイな」
「ハーレム…お前さんの日本人像を是非聞いてみたいもんだな」
嫌み混じりにそう言えば、ハーレムは「良いぜ」とあっけらかんとそう答えた。
「日本人つーのは、よく頭を下げる人種で…人の顔色を気にする神経質な人種で色々細かいって感じだな」
「まぁ…礼儀を重んじるし…奥ゆかしいのが美徳って言うしな。輪を乱すのも良くは思わないつーのも当たりと言えば当たりだしな」
「だろ?それにな俺は群れをなすのが好きじゃねぇ…日本人がそうだとは言わねぇがな」
「そっか…じゃ俺みたいに学生気分で士官学校に居るヤツはムカツクだろうな」
「ああ好きじゃねぇな。だが、 はイヤじゃねぇな」
戯けた表情から一変として、彼奴はそう言葉を紡ぐ。
俺はそんなハーレムの言葉に顔を顰めながら言葉を返す。
「ん?俺は学生だけど」
「なんつーんだ。学生とか日本人とかじゃなくて… が だからイヤじゃねぇと思う」
「何だかアバウトだな。まぁ…嫌われないだけよしとしますかね」
そう言って肩を竦める俺。実際問題、何となく此奴に嫌われて無くて良かったなんてこっそり思っていたりする。
まぁ…そんな事など、表情には出さないが…。
それから話が大幅にズレていた事に気が付いた俺は、話を花見の話題に戻した。
「で…何時にするよ花見?」
そう俺が言うと、ハーレムは少し考えた様子。
「何だよやっぱり無しか?」
「いや…ちと戦場に行くことが決まっていてな…どうやらソレが明日になるみたいだ」
「急だな…ってメールか」
「嗚呼、俺にメール何座面倒なもんを寄こすのは、こんな催促ぐらいだからな」
ハーレムの言葉に(それは胸を張って言うことなんだろうか?)と疑問は湧くが、俺はあえて言葉に出さなかった。
「せっかく本場の人間が主催の花見が出来ると思ったんだがな…残念だ」
そう言うハーレムは凄く寂しげに、桜を見上げた。
だから俺は思わず、確証も無い言葉を言っていた。
「もしも…今回の桜が駄目でもさ…次とかその次とか、見れば良いんだよ。まぁ同じ桜じゃ無いけど、出来るときにすれば良いさ」
満開にはいたらず…ポツポツ花を付ける木々を眺めて言う俺にハーレムは、顔を顰める。
「あのな…死なない自身は有るが…万が一って事考えないヤツだなお前」
「だからだよ。会って今日が初めてだけどさ…ハーレムってしちゃった約束は守るタイプだろうしな」
俺がそんな脈略もない…予感でしかない言葉を紡ぐと、彼奴は少し驚いたように目を軽く見開いていた。
「買いかぶりすぎだな…」
そう短く言うと、彼奴はその後何も言わずその場を離れていった。
「覚えておけよ…日本人は結構気が長いだぜ」
去りゆくハーレムに俺は、少し声を張り上げてそう言った。
ハーレムは、後ろを向いたままヒラヒラと手を振って返事を返してくれた。
今日か明日か…。
はたまた来年の今頃なのか…。
それは…何時かは分からないけれど…。
俺は新しくできた友と呼べるかも不思議な存在と、そんな約束を交わしたのだった。
噎せ返るだろう桜吹雪でけむる筈の、この桜並木の下で…。
おわし
2005.7.2. From:Koumi Sunohara
★後書き+言い訳★ 花華10のお題よりパプワ/ミドルズシリーズ夢駄文。 士官学校編です…ハーレムとの出会いですかね…。 こういった出会いから、帰還編へと繋がったんですが…順序が相変わらず逆ですね。 ともあれ、楽しんで頂けたら幸いです。 2005.6.16.web拍手掲載作品。 |
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