憧れのその先  

私の好きになった人は中忍でアカデミーの教師であるイルカさん。
人当たりも良いし、時々…任務の受付に居て、癒しの笑顔がささくれる心を癒してくれる。

まぁ…とどのつまり、私も忍者という職業で、特別上忍というものをしている。
下忍時代の芋掘りやら失せ物探しなら、笑ってやってられる事だけど、昇進すればするほど、命のやり取りが増えてくる。

そんな時にイルカさんを見ると、私としてはホッとする。忍者としては、そんな癒しとか求めるのは間違いかもしれないけれど、それでも求めてしまうのは仕方がないと思う。

ひっそりと只…憧れるだけ。思いも告げる勇気なんてないまま、私は勝手にイルカさんを癒しの対象として…一方的な片思いをしている。

さほど年齢の変わらない私は、イルカさんのアカデミー時代の事も知っている。九尾来襲時に両親を失い、今のイルカさんとは想像のつかない悪戯小僧だった事も…。

そんな時代も含めて、私は長い長い片思いをしている。

私と言う人物は、別段優秀でも無く、そこそこ忍術の才能に恵まれ…血族柄の才能故にまぁまぁの実力だったと思う。中忍者以上、上忍者未満…忍者としての能力で言うとそんなみたてとなる。

忍者を目指すものならば、それは嬉しい事柄だろうけれど、私としては別に嬉しい事柄ではなかった。

イルカさんの事が好きであっても、忍者というものを誇りと好意はあまり持ち合わせていなかった。

忍者の多く輩出する家に居ながら、私は少し異質な存在だったのかもしれない。

だから、アカデミー卒業する時も全力で挑んでいなかったし、下忍を少しでも長くいようと思っていたぐらい。

本当は下忍のままで良いと思っていた。命のやり取りなんてしたくないし、好きでなった忍者では無かったから。

けれど、忍者にけして向いてなさそうなイルカさんが中忍に昇進して気がつけばアカデミー教師になっていた姿を見ると、少し考えされるものもあった。

中忍とは…そこに見えるものは何か?凄く気になった私は、下忍で可もなく不可も無い生活に終止符を打って中忍に上がった。

(これで何かが分かるのかな?)

只の自分の興味だけでなった中忍は、思いの他血生臭いものだった。

ランクが上がれば必然的に、要人警護や機密文書の奪取など…怪我のしない任務は少ない。そもそも、世間一般に忍びというものはそういう闇の部分を生業としているのだから、下忍の何でも屋的な任務の方が、違和感を感じるのかもしれないが。

こなす任務の数と共に上がる知名度。奪った命の数と比例するように、命が狙われるリスクが上がる。

一生、下忍で良いと思っていた自分がどこまでもお気楽だと思うぐらい、現実はシビアで血なまぐさい。

手を抜けば確実に待つのは死。そう思えば、実力を隠す事など私の力では無理に等しかった。

故に、全力で任務をこなし続けるしかなかった。

(イルカさんも…こんな風に血に濡れた任務をこなしてきたのだろうか?)

ぼんやりと思う。
まぁけして無いとは言わないが、割と早くにアカデミー教師になった彼を思うと、少し私とは状況が違うのかもしれない。

一重に、中忍と言えどその性質は様々だから…。

諜報、回復、戦闘、特殊任務…勿論、事務的要素に育成に関するスキルなど…人によって特技は様々、私は自分が思っているよりも、諜報、回復、戦闘、特殊任務など外勤として働くスキルがイルカさんよりあったようで、常に前線に身を置いている。イルカさんは内勤に向いていたのだろう…。

そんな訳で、結局イルカさんの見ている世界を垣間見ることは出来なかったのである。

(アカデミー教師になれば、分かるのかな?)

そう思いをもたげたけれど、すぐに無理だと頭をふる。

一応、次世代の育成に携われるだけの知識を持っているけれど…アカデミー教師に必要なのは、違う事の様な気がする。例え運よく、なったとしても…きっとイルカさんの世界は私には見えない。そんな気がする。

(アカデミー教師になりたいなんて言った日には…上忍師になって下忍の育成すれば良いとか言われるんだろうなぁ)

自分の上司の顔を思い出して私は顔を顰める。分かり切った結末に、やっぱり私にはアカデミー教師は無理なのだと思う。

私の見て居るモノは私以外に見えない様に…イルカさんの世界はイルカさんにしか分からない。

それに気がついた時、私はイルカさんの事は好きだが彼の幻影を追う事をやめた。

彼には彼に出来る事があるように、私には私にとって向いている事があると気がついたからだ。

上忍師として、後世の指導に向いているかは否めないが…戦闘、諜報に関しては上忍として通用すると気がついた時、私はある事に気がついた。

アカデミーの生徒とイルカ先生が有事の際の避難訓練をしていた時にイルカ先生の言った言葉に、私の進むべき道は其処にあった…。

「先生が必ずお前達を守る。この命にかけても」

そう真剣に紡がれた言葉に、私は心を撃ち抜かれた思いだった。

(本当にイルカさんらしい…だったら私は)

イルカさんの覚悟に私は、思う。

(アカデミーの生徒が…里が窮地にならないように私は強くなろう。一人ではたかが知れているかもしれない…けれど、小さな存在も歯車もを止める突破口になるかもしれない。第一、イルカさんの育てた卵達を雛から成鳥に変化させるのは下忍をあずかる上忍師の務めなのだから…ならば、私の目指すのは上忍…そして里を守れるそんな存在になりたい)

そう強く願い私は上忍になった。

上忍になった所で、私のイルカさんに対する思いを告げる勇気は未だに無い。

それでも良いと、最近は思う。

何時か想いを告げられたら良いと思いながら、私は高見を目指す。イルカさんの守りたい世界とイルカさんを守れるように。例え誰にも認められなくても…それが私の忍道だから。


おわし

2012.12.2.(WEB拍手掲載:2012.11.4.) From:Koumi Sunohara

-Powered by HTML DWARF-