何気ない日常

   <後編>




カカシ先輩に会ってしまってからも数日過ぎたが…私の生活リズムは変わらない。
モッパラ日常になりつつ有る、アカデミー付近の散歩は本日も決行中だった。

何時もの様に何事もなくアカデミーを通過する。
そう思っていたのに…。
今日は常とは違っていた…。

「あの…どうかしましたか?ここに用事ですか?」

不意に後ろからかけられた声に、私は驚いて振り返る。
(この声って…)そう思いながら、「えっ?」と私は間抜けな声を出して相手に答える。

「ああ…スイマセン驚かしてしまいましたか?」

「いえ大丈夫です…用事って訳では無く…ただ散歩がてらに…通っていたんですけど…ご迷惑でしたか?」

「迷惑だなって…そんなコトは無いですよ。ただ最近よく貴方を見かけるので…誰かお探しなのかと思って声をかけたんですけど…それこそ要らぬ世話でしたね」

「スイマセン…お手数をかけてしまったみたいですね」

イルカ先生の優しい心遣いに私は、直ぐに一礼をしてそう答えた。

「イエイエ俺の方こそ」

「私の方こそ…」

言い合って、恐縮しあう私達はどちらかと言う訳でも無く小さく笑いを漏らした。
そして…。

「えっと俺…海野イルカって」

「私は… です」

お互い良く分からないまま、自己紹介をして、私とイルカ先生の不思議な関係が此処から始まった。


笑い合える喜び

ゆったりと過ごし大切さ

何気ない日常

忙しなく過ぎゆく時間より…何故だが

充実した時間




暗部での仕事も何故だか私に回ってこず、ゆるやかな時間が過ぎていった。
私は、イルカ先生の仕事の手伝いをしたり…ナルト君とラーメンを食べたり…。
忍者では…否、私の今までの生活とは考えられないくらい…。
属に言う普通の生活を送っていた。


それは酷くくすぐったい感じもしたし…何だか心が温まるような感覚で、何だか心地良い気分を味わっていた。
そんな他愛もない日常が本当に嬉しいかった。



だけど、神様は意地悪なのか…はたまた私の日頃の行いが悪かった所為なのか…。
私が一番嬉しくて、楽しいと思っていた日常が…。
あっという間に崩れてしまう出来事が、突然私の身に降りかかったのだ。




敵来襲−

木の葉の里も臨界体制が敷かれ、私の周りも慌ただしいものになっていた。
何せ、私は腐っても上忍という地位についているし…暗部の一員である。
忙しくない訳が無い…そんな状況だった。
だから、何時も楽しみにしている…イルカ先生との他愛もない交流も…今は無い。


それが何だか、寂しくも思うけれど…この大変な時期を乗り越えれれば…あの日常が待っていると思えば、気分が少しだけ浮上した。
そんな事を思ってしまう自分に、何だか少し変な感じもしたけれど…。
悪い気はしなかった。


それに、イルカ先生やナルト君達の居るこの里を守れると言う事も今では誇りにさえ思う自分が居る。
漠然と仕事をこなすことしか、考えていなかった私にとって…本当に革新的に変わった事なのだと思う。



気持ち負けはしてないけれど…。
倒しても倒してもやって来る敵に、正直ウンザリしながらも私は黙々と任務をこなす。
貼り付けられた仮面の下にもうっすらと汗がにじむ。

少し仮面を外し汗を拭う私の目に…見慣れた人が敵と対峙しているのが見えた。
私は仮面を放り投げて、イルカ先生とナルト君達の方へと駆けだしていた。


駆けだした先には私と似た背格好の女の子と、それを庇うように立つイルカ先生にナルト君達。
私は、取りあえず私情を抜きとして安全確保に努めた。

何とかイルカ先生達の無事を確保した私は、この時ばかり自分が暗部の人間で良かったと思えた。
だって、大切な人達を守ることが出来たのだから。
だから、珍しく気分も晴れやかで…暗部の仮面を付け忘れていた事何なか気が付かず…ただ純粋に良かったと思っていた。


なのに…。

助けた…大事な人は、酷く何とも言えない表情で私を見ていたのだ。
周りに暗部の面々も居た所為も…後から来たカカシ先輩が居た所為かもしれないけれど…。
普段のイルカ先生とは違う、酷くギコチナイ表情で…彼は其処に居た。

「…いえ 上忍は、カカシ先生の後輩だったんですね。スイマセン馴れ馴れしく話しなんてしてしまって…しかも、お助け頂く何て…ご迷惑おかけしました」

普段なら使わない恐縮した口調でイルカ先生は言葉を紡ぐ。
私は何だか凄く、遠くなった気分がして慌ててイルカ先生に言葉を返した。

「あの…敬語なんて止めてください…イルカ先生の方が年上なんですから」

イルカ先生の言葉に私は慌てて、そう答えた。

「でも 上忍は、俺の上司ですから…敬語でなくては」

そう言われた瞬間…正直泣きそうだった…。
イルカ先生なら、上下関係何か無く…普通に見てくれると思っていたから余計に。
頭の芯が痺れて如何して良いのか分からなかった。
それは今まで生きてきて、初めて感じた感情。
喪失とか絶望とかいう感情。
死ぬことも恐れない私が…初めて感じた感情だった。

(ただ…イルカ先生とナルト君を助けたかっただけだったのに…)

私は酷く悲しい気分になりながら、其処に居座る気にもなれなくて…気が付いたらその場を駆けだしていた。






凄い勢いで走っていた私は、足を止め振り返る。
大分走ってきた様で、イルカ先生や他の暗部や忍者達は勿論、人の姿も見えない。
私はその事に安心した。
だけど歩く私の足取りも重くて、気分も重い。
憂鬱な気分で当てもなく歩く私。

歩く道には、私の影がポツリと寂しく其処に有る。
歩く度に揺れる影。
それが不意に、違う影がスーッと差し込んだのと、私に背後に感じる気配は同時ぐらいだった。

(こんな時に…)

毒づく中で、大体の予想は出来ていて…振り返って確かめてみようか?そう思った時には、その気配は私の目の前に立っていた。

ちゃん。不景気な顔しちゃって…幸せ逃げちゃうぞ」

「今の私に良く言えますね先輩」

相変わらずの調子。
溜息と共に先輩は言葉を紡いできた。

「おやおや…もしかして、先の事を気にしてるのかな?」

まるで子供に言い聞かせるような口調で、先輩は私に尋ねる。

「気にするなと言う方が難しいと思いますが」

私は溜息を吐くのと同時に、そう先輩に言葉を返すと先輩は苦笑いを浮かべてた。

「まぁ気になると言えば気になるね。だけど、あの場合はイルカ先生の取った行動は正しいと俺は思うよ」

ハッキリと紡ぎ出された言葉に私は顔を顰めて先輩を見る。
私の納得のいっていない様子に、カカシ先輩は肩を竦め…再び言葉を紡ぎ出した。

「それが官僚世界って奴なんだよ。幾ら火影様が寛大でも…周りは上下関係を重んじるってヤツ」

「でも…何か。それって嫌な感じしますね」

カカシ先輩の言葉に顔を顰めて、そう言うとカカシ先輩は少し驚いた様な顔をした。
そして…。

「昔の ちゃんなら…何にも感じなかった。でも今は、変だと思えるって本当に良い傾向だよね…やっぱり、良い影響を与えてくれたんだね〜」

ウインク一つしてカカシ先輩は、意味深な科白を言い残すとあっという間に何処かに消えてしまった。

(本当に掴み所のない先輩だわ)

私は居なくなったカカシ先輩の居た場所をただ黙って見つめながら、そんな事をボンヤリと考えていた。



それからどれくらいボンヤリとしたのだろうか?
自分でも時間の感覚が曖昧になるぐらい、私は其処に佇んでいた。
いい加減、佇んでいる事にも厭きてきた私は…その場から離れようと、歩を進めようとした…。

ちょうどその時だった…。

瑠姫さん」

聞き覚えが有りすぎる、最近馴染んでしまったその声が不意に私の耳に入る。
思いがけない人物が私に声をかけられ、私は驚きすぎてその場に立ちつくしてしまった。

(どうして…イルカ先生が此処にいるのだろう?)

浮かぶ疑問。
困惑する想い…私は益々訳が分からなくなり、呆けるようにイルカ先生を見る事しか出来ない。
だけど驚き黙る私にイルカ先生は気にしていないのか、深呼吸を一つ吐くと不意に言葉を紡いできた。

「どうしても 瑠姫さんに言いたいこと…と言うか…謝りたいというか…。あああ…何言ってるんだ俺…」

しかも言葉は途切れ途切れで、支離滅裂で…。
私はイルカ先生が何を言いたいのか良く分からないけれど、先程の余所余所しさが無く…あのアカデミーでの先生の雰囲気だった事に少しだけホッとした。

そんな安心感が生まれたからだろうか?
先生の言葉に茶々を入れず私は、黙ってイルカ先生の言葉を待つことにした。
髪の毛を掻きむしりながら、イルカ先生は紡ぎ出す言葉を考えているのか、小さくゴモゴモと言葉を漏らしている。
何度も、同じ様な行動を繰り返すイルカ先生は、不意に意を決したように言葉を紡ぎ出した。

瑠姫さん…えっと…先はゴメン」

深々と頭を下げて、紡がれた言葉は…そんな謝罪の言葉。
私はそんな謝罪の言葉がイルカ先生から出るなんて思ってもみなかったので、普段ならすぐに返せる言葉も出てこず、思わずポーカーンとイルカ先生を見る事しか出来なかった。

言葉を紡がない私に、イルカ先生は心配そうに私を見ると…声をかけてくれた。

「もしかして…やっぱり…先の俺の態度に腹立ているよな…」

声のトーンが落ちたイルカ先生に私は、首を大きく横に振る事で否定の意味を示した。
そうした私の態度に、イルカ先生は少しだけホッとした表情を浮かべた。

「何だか さんには、気ばっかり遣わせている気がするね」

不意に紡がれたそんな科白に私は「えっ?」と小さく声を漏らす。
すると、イルカ先生は何処か遠い目をしながら、ポツリポツリと言葉を紡いだ。

「何て言っていのかな…。先だって…俺がしっかりしていれば、教え子も… さんも…危ない目に遭わなかったと思ってね。ちゃんと、守れる事が出来れば」

「ちょっと後悔ばかりですね…情けないですけど」と苦笑を浮かべてイルカ先生は言った。
私は、そんなイルカ先生の話す言葉に…不意に違うビジョンが頭を掠めた。

思い出されたのは、金色の髪の…ナルト君だったかな…あの子の言葉だった。


「サクラちゃんは、俺が絶対守るってばよ!!」


ボロボロになってもあの子は、真っ直ぐに敵を見据えていたことを思い出す。
不器用なぐらい純粋で…それでいて真っ直ぐな瞳で。

(嗚呼…ナルト君の雰囲気は…イルカ先生に似ているのだ)

ふいにイルカ先生とナルト君のビジョンが重なり…何となく、自分を庇った時のイルカ先生と重なった気がして…。
私は言葉を知らず知らずに言葉を漏らしていた。

「あの時…私を…守ろうとして…危険な目にあったんですか…」

自惚れていると思ったけれど、私はそんな言葉を口にした。
だけど、イルカ先生は何時もの柔らかい表情を浮かべて私に言葉を返してくれた。

「そうなんだけどね。…でも…結局、 さんに迷惑かかちゃったけど」

言ってから苦笑を浮かべるイルカ先生。
先生は苦笑を浮かべていたけれど…私には…その言葉だけで…十分だった。
そう思ったら、何だか言葉を紡ぐ事が出来なくて…私は押し黙ってしまった。
寧ろ泣きそうな程…感極まる思いだった。
そんな私に、イルカ先生は心配気げ顔を覗き込んで、声をかけてくれる。

「あ…えっと…俺何か、気に障ること言いちゃいました」

心配気なイルカ先生に私は首をフルフルと横に振った。

「嬉しすぎて…感情が溢れて…自分でも分からないのですけど…上手く言葉に出来ないんです」

そう言って、私は付け足すように“だから、イルカ先生が悪い訳じゃ無いんです”と言葉を補足した。
すると、イルカ先生はホッとした表情で私を見て「嫌われたわけじゃ無いて事ですよね」と小さく呟いていた。
あくまで私を気遣ってくれる、優しい気遣いに私の心は本当に温かい気持ちで溢れている。

だからだろうか?

思わず出た言葉が…「イルカ先生って暖かいですね」とそんな言葉だったのは…。
私の言葉に、驚いたようにイルカ先生は私を見た。
そんなイルカ先生の様子を見ながら、私は深呼吸一つ吐くと、心に浮かんだ言葉をイルカ先生に零した。

「イルカ先生と話していると、何だか本当に優しい気分になれるんです。と言っても…私…正直、人の感情ってよく分からなかったんです。暗部では、感情を殺す事を重要視されていたから…」

そう告げて私は一旦言葉を切り、イルカ先生の様子を見た。
イルカ先生は、そんな私に黙って言葉の続きを促してくれているようで…私は閉ざしていた言葉を…紡ぎ始めた。

「自分の感情の欠落に違和感を抱いた事何て、無かったんです…。でも…イルカ先生と…ナルト君とのやりとりを見ていると、抱いた事無い感情に…正直戸惑いました。そして疑問を持つようになったんです…。“幸せ”とは何を指して言うのか…そんな疑問が浮かぶようになったんです」

吐き出すように言い終えて、私はイルカ先生の目を真っ直ぐ見た。
すると生徒に見せるような、柔らかい表情で私を見た後…イルカ先生は、ゆっくりと私に返す言葉を口にした。

「俺は、些細なことでも…怒ったり…泣いたり…思いっきり笑ったり…笑えあえたり出来る…平凡な日常。それが、俺の中では幸せだと思いますよ。 さんは…どうですか?」

優しく心に染みいるような…そんな言葉を、イルカ先生は真っ直ぐ私に言った。
だから私も、迷う事無く…心に浮かんだ言葉を口にした。

「大切な人が…笑っていられる場所を作る…そんな人たちを見ること…」

「それが、 さんの幸せですか?」

「はい。って…今…気が付いたんですけどね」

照れくさくなりながらも、私はイルカ先生にそう返した。

「大丈夫ですよ。現に さんは、ナルトや俺の生徒達の笑顔を守ったじゃないですか」

「そうでしょうか?」

「そうですよ。現に皆無事なんですから… さんの御陰ですよ。自信持って下さい。俺は、力何て大して無いから…先みたいに、 さんの足手まといになりますけど…愚痴ぐらいならいくらでも聞けますよ」

そう言って差し伸べられた手を私は無意識の内に

(本当にコノ人達が無事良かった)と…私は暖かな手の温もりにそう心底そう思った。



良くも悪くも、あの怒濤の日からしばらく経ったある日。
私は相変わらず、暇を見つけてはアカデミーに足を向けていた。
勿論、イルカ先生に会いにだ。

相変わらずイルカ先生は、人が良すぎるのか…残業を回されたり…雑務を押しつけられたり…大忙し。
だから会っても大抵は、イルカ先生のお手伝い。
今日もやっぱり、そんな何気ない日々の延長戦のような時間だった。

「スイマセン、 さんにまで手伝ってもらっちゃって」

書類の山に囲まれて申し訳なさそうに私に謝るイルカ先生。
これも最近の私にとって日常になりつつ有る出来事。
そんなイルカ先生に私は、穏やかな気持ちで返す言葉を紡ぎ出す。

「気にしないで下さいイルカ先生。実は、こういう仕事ってやったこと無かったから…新鮮で楽しいですから」

「はははは。そう言ってくれると、俺的にも助かります」

「ふふふ。イルカ先生の人柄でしょうね…雑務なのに…何だか楽しい気分になるんですよ」

私は心から思う言葉を口にする。

「そ…そんなコト無いと思いますけど… さんがそう言ってくれるなら…それで良いですけど…。そう言えば さん…最初に会った時よりいい顔を、するようになりましたね」

「ん〜そうですか?」

「ええ」と満面の笑顔で返された。
だから私は、「じゃ〜きっとイルカ先生のお陰ですね」と笑って返してみた。

すると…。

「へ?俺?俺ですか…俺何かやりましたっけ?」

小首を傾げイルカ先生は、私にそう言ってくる。

「そうですよイルカ先生」

クスクス笑ってそう言えば、イルカ先生は相変わらず戸惑った表情で私を見る。

さん…俺何かしましったっけ?」

少し悩みながら、イルカ先生は私に尋ねる。

「沢山してくれてますよ。でも…あえて言うなら、何もしてないです。イルカ先生が、私を私個人として見てくれて…普通に接してくれるから…知らず知らずに人を助ける才能をお持ちなのかもしれませんね」

“やっぱり生まれながらの教師なのかもですね”と私は一拍置いて、イルカ先生に言う。
そうするとイルカ先生は、何だか照れくさそうな顔をして頬をポリポリ掻きながら…言葉を紡ぎ出した。

「良く分かりませんけど〜…まぁ〜なにわともあれ… さんが笑って下さっているのなら…良いってことなんですかね?」

ニッコリと柔らかい笑顔でイルカ先生はそう言う。
(そう言うささやか事が救われるんですけどね…)等と、何時も以上に思いながら私は口を開く。

「やっぱり…イルカ先生にはかなわないですね」

こうして今日も又、ゆっくりと穏やかなイルカ先生との時間が流れていこうとしてた。


何をする訳でもない…ただ好きな人が居てくれる時間。
そんな何気ない日常が…本当は一番大事なのだと…私は気が付くことが出来たのだ。



築きあげたものが…急に音を立てて崩れた…


まるでバビロンの塔が雷で崩れたように…


それは、驚く程の衝撃だった


だけど…その後には…


新たなる始まりの道が…私の中に生まれ始めていた




END

2004.5.3. From:Koumi Sunohara



☆後書き+言訳☆
やっと完結しました、イルカ先生ドリームです。
パット見て、カカシさん夢かな?って思った方が居るかもしれませんが
イルカさんのドリームです。
イルカ先生の優しいというか…和みオーラーに和まされたいな〜と何と
無しに思って書いたドリームです。
何せアニメ版のイルカ先生は、私の大好きな声優さんの関俊彦さん(苦笑)
なので…これからも頑張って書こうかななんて思ってます。
しかし…こんな作品で楽しんで頂ければ幸いです。
それでは、機会が有りましたらおつき合い頂けると幸いです。


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