色々な意味のデビュー戦(3)
誠凛と海常の方面での練習試合は色んな意味でにとって驚く展開となった。
火神、黒子、相田、日向が御立腹の様子であり、結構な言動を発した黄瀬にすぐ出番になると啖呵を切った通りに海常にとってギャフンと言わされた展開だった。
誠凛の1年生コンビニよるバスケットゴール破壊事件である。と…言っても、好き好んで壊したか否かは不明ではあるが、黒子のパスを受けた火神の豪快なダンクによりゴールのリンクが取れたのである。海常バスケ部員曰く、リングのボルトが錆びていたと言うが、色んな意味で驚きであろう。
(バスケのゴールって壊れるのね…と言うか…ボルト錆びてるってどうなの?強豪校の癖にメンテサボってるの?普通怪我するでしょ)
取れたゴールを手に持った火神とそれを見る黒子には、驚きと呆れで一杯だった。
そんなの心配をよそに、一年生コンビは会話をする。
「黒子、コレどうする?」
「えっと…謝った上で…」
ゴールリンクを指さしてから、黒子は海常監督に向かって言葉を紡ぐ。
「ゴール壊れちゃったので、全面使わせてもらえませんか?」
勿論言われた側は苦虫を潰した表情になった。
その後、全面使えるようになった後も黒子は火神にゴールリングが弁償になるのか尋ねて火神は顔色を悪くして慌てていた。
ベンチに戻って来た二人に、は少し眉を寄せて声をかける。
「もう無茶ばかりして…怪我は無いの?」
「いや…だって…まさか壊れるなんて思ってないぜ…です」
変な敬語を使う火神には、溜息一つ吐いた。
「そうなんだけどね。あんまり心配させないでちょうだい。バランス崩れたら、火神君が大怪我するのよ…怪我してないから良いけど」
「ウス」
の言葉に少し肩を落とす火神。
「まぁまぁ、火神もそんな落ち込むなよ。はただ心配してるだけだからな」
「伊月先輩」
「な」
「怒って無いの…寧ろスカッとしたけど、火神君が怪我したら意味無いなぁ〜っていう心配よ」
「怪我…しねぇように気をつける…です」
「うん、そうしてね」
そう言っては自分より背の高い若干ションボリと背を丸めた火神の背中をポンとたたく。そして、はい終わりといった様子で今度は全面様のベンチに向かおうと歩き出した。
すると…。
「先輩」
「何、黒子君?」
「ゴールってウチの弁償になるんでしょうか?」
「そりゃならないでしょ」
黒子の疑問には少し大きめの声でキッパリと言い切った。
「だってボルト錆びてたんでしょ。それって、整備不足が原因でしょ…たまたま、火神君がダンクした時に壊れたかもしれないけど…練習中になんらかの衝撃で落ちてくる可能性は大きい。寧ろ怪我人が出なかった事が幸運じゃない?」
海常の監督に聞こえるようにはそう言葉を紡ぐ。
(ははは。ここまでに言われたら弁償しろなんて言えないだろうなぁ〜)
の言葉に伊月はこっそり、心の中でそう思った。伊月の想像通り、海常の監督武内は苦虫を噛潰した顔でゴールリングの件については口に出すことはなかった。
無事に全面コート使用を取り付けた誠凛は、仕切り直しとばかりにもう一度士気を高める。
(スポーツマンだね…)
真剣な熱気にはそう思う。
(これで、あの小生意気な黒子君の友達君の残念なイケメン君を引きづり出せれば良いんだけど…微妙かな?)
先程、ゴールを壊すと言うインパクトを与えた黒子、火神組みのお陰で全面コートを使う事が出来たが、としては黄瀬を引きづり出すまでに至らないと思っていた。
「ねぇ伊月君、今凄くどうでも良い事聞いて言い?」
「ん?良いよどうしたの?」
「先ので引きづり出せたと思う?」
の言葉に伊月は、少し唸った後で言葉を紡ぐ。
「多分、出てくると思うよ。あの監督さん…凄く負けず嫌いぽいし」
目線を海常武内監督をチラリと向けてすぐにに視線を戻した伊月が言う。
「ああ…確かにね。でも…最初からだとキツク無い?」
「まぁ…眠れる獅子は起きないで居てくれるほうが良いけどさ…キセキの世代を出すって事は本気って事だし…胸を借りるつもりで全力を尽くすよ」
「そっか。うん。そうだね。私もここで伊月君達を応援してるね」
伊月の言葉にはそう返した。
と伊月のやり取りの間に、話題に上がっていた黄瀬がユニフォームを来て準備をはじめていた。その所為か、体育館は黄色い声援に包まれる。
「おっと…やっぱり出たみたいだよ」
「あらら。でも、登場のBGMが黄色い声援って漫画みたいな登場の仕方よね」
「本当にって黄瀬に興味無いんだな」
「まぁ…鑑賞する分には良いと思うけど…好感度は先程のやり取りで下降の一途を辿ってるし…黒子君絡みでかなり残念なイケメンだし…やっぱりトキメク要素無いかな」
「流石…揺るぎ無いね」
「まっ…でもバスケに対しては少し違うのかな?空気がキリッとしてるね」
「だね…全体の空気が変わったよ…まったく辛い試合になりそうだ」
伊月は溜息一つ吐いて、チームメイトの元へ向かった。
はそんな伊月達を眺めつつ、ベンチ組のメンバーと相田と共にベンチに入った。
仕切り直しで始まった試合は、火神、黒子ペアで切られた火蓋は、ほぼ同じ方法で海常の主将笠松と黄瀬ペアに模倣され先制攻撃を決められる事から始まった。
(模倣とはよく言ったものよね…オリジナルより切れがあるなんて…普通なら心折れるわ)
しみじみと、黄瀬のプレーを見たはそう感じていた。しかし、模倣された側の火神は、闘争心全開でバスケに挑んでいた。
(火神君て…某サイヤ人みたいよね…もっと、強い奴と戦いたいいて感じだもの…)
むき出しの闘争心と、キラキラ子供の様に輝く目をした後輩を見ては少し肩を竦めた。
(でも…チームプレーだからな〜…引きずられる伊月君達は相当シンドイだろうね)
はそんな風に思いながら、全力でプレーしている誠凛メンバーにくぎ付けになった。
何よりの目が釘ずけになったのは、図書委員の後輩の黒子だった。影が薄いと定評がある黒子の、相手チームからすると神出鬼没に見えるプレースタイルには面白くて仕方が無かった。
(まさか…黒子君の影の薄さがこんな風にプレーに生かされるとは…でも、それは黒子君の人間観察とそれに伴う頭の回転の速さがものを言うだろうけど…消耗激しい気がするなぁ〜)
魔法の様に死角を突いたパスを出す黒子を見ながらは思う。
(私としてはそんなに、黒子君影が薄いとは思わないんだけど…こうして試合を見ると…影が薄いのね…)
試合を見ながらはしみじみと思う。
(そう言えば…伊月君は黒子君をあまり見失ってないよね…だから、私もあまり黒子君が影が薄いって感じしなかったんだよね…)
コート上の黒子と伊月を見ながらそう考える。
白熱している試合に、は凄いと思いながらも違和感を覚える。
(バスケって4部構成の試合なのに…最初っからアクセル全開…動力は無尽蔵じゃないし…何か、今後の展開が不安になる気がする…)
眉間に皺を寄せて、試合を見守っている同様、相田も難しい顔をして試合を見ていた。
「リコさん…何かアクセル全開すぎだけど…大丈夫なのかな?」
「え?…大丈夫では無いわね…体力的には完全にウチが不利だわ」
相手側のベンチを一瞥して相田は言う。
「ああ…確かに、ウチは人数的にカツカツだものね…それに比べてアチラさんは控えも相当やり手と見えるし…」
「けど手を緩めれば、完全に終わり」
「全力でやるより他ないって事なんだね」
相田の言葉にはそう答えた。
「そって…ん?さん、もしかしてバスケットいける口?」
の先程からの言動に対して相田はふと疑問をぶつけた。
「いえ。バスケは…まぁTVでたまに観戦したり、体育の知識だけど」
「んー。それにしては、何か違和感が…」
の答えに相田は、腕を組みをジーッと見つめながらそう口にする。
(うっ…ちょっと調子に乗ってしゃべりすぎた…バスケは経験ないけど…実は他の競技の経験あり何てリコさんに知れたら…色々面倒だし…これ以上はボロ出さないようにしなくちゃ)
訝しげに見る相田には心底そう感じていた。
「それより…試合を観て指示出さなきゃでしょリコ監督」
話を反らすには無理がある雰囲気ではあるが、はそう口にした。
(こんな事で気がそれるかは…微妙だけど…監督なら試合優先するでしょ多分)
「そ…そうよね。ひとまずタイムアウトを取って…一旦流れを変えないとダメだわ」
若干動揺しながらも、相田はの望み通り試合の方に集中することに決めたのだった。
そんな相田を見ながら、内心ほっとして事の成り行きをは見守っていた。
相田によってとられたタイムアウトでは、黒子のミスディレクションの使用限度がある事が発覚して作戦と言うよりも黒子をシバクという時間に残念ながら費やされてしまった。傍観していた、はその様子をなんとも言えない様子で見ていた。
(まぁ…凄い技には制約があるのは世の常だし…そもそも、黒子君体力ないしね…初めて会った時、バスケやってるってしって驚いたもの…。と言うかリコさん動揺しすぎな気が…)
はそんな事を心で思いながら、黒子をシバイてガックリ肩を落とす相田を見てしみじみ思った。
(あ…そういえば、私全然伊月君にねぎらいの言葉かけてない…)
ハッと気づくが…すでに伊月はコートの中。
(そもそも、バスケの考察しに来た訳じゃないじゃない…いやーいかんいかん)
は首を軽く横に振って、思考を切り替えようと努める。
そんな先輩に、降旗がおずおずと声をかける。
「先輩どうかしましたか?」
「え?あああ…何でもないよ。ただ、伊月君達応援しに来たのに声かけれなかったなぁ〜と思って」
乾いた笑いを浮かべながらそう口にするに降旗は言葉を返した。
「何となく分かります。何か、おいそれ応援の言葉を口にできない空気がある感じしますよね」
「おいおい。は兎も角、降旗や1年生はしっかり声出して応援しないとだろ?俺やツッチー見習ってさ」
最初は戒めるように、後半は柔らかい口調で小金が降旗にそう言った。
「すすす…スイマセン」
「いや…あの…そこまで動揺しなくても良いって」
小金井がパタパタ手を振りながら、あわててそう返す。
そんな二人を見たは小さく笑って、小金井に言葉をかける。
「そっか…うん。小金井君の言うとおり、わざわざ個人に言わなくても…ここで皆と一緒に応援すれば良いんだよね」
「そうそう。あんまり深く考えない、考えない」
小金井とは笑いあって、土田も巻き込んで応援を始めた。
その様子を、茫然として降旗をはじめとする1年生が見ていた。
「ほら、降旗君も福田君も河原君も一緒に応援するよ」
がそうやって1年生に声をかけると、1年生Sは金縛りから解けたようにハッとして返事を返した。
「「はい」」
元気のよい返事に、を始めバスケ部2年生Sは満足気に見つめた。
ベンチは程よく暖まるが、戦況としてはあまり良いモノとは言えない状況が未だに続いていた。
ミスディレクションが切れかかっている黒子が隙をついて、ボールをカットして火神が決めると言うスタイルと2年先輩Sの攻撃を織り交ぜるが点差としてはギリギリのラインで誠凛が相変わらず劣っている状況だった。
点数を追う側としては常に広がるか…詰まるかの繰り返しの状況にかなり精神的に削られる。尚且つ、最初からアクセル全開の状況に疲労もはかりしれない。
そんな状況の中で、思わぬハプニングが起きた。
ゴスッ。
バスケと…否スポーツではあまり聞くことのない擬音が体育館に響く。
力なくこぼれるボールの音と共に。
音の発生源は、黒子と黄瀬の接触で発生した音だった。
スポーツをしていれば、わざとでなくとも大なり小なり接触による怪我がつきものである。
今回も残念ながらそんな接触であった。
黒子の影の薄さが災いして、黄瀬の手が黒子の頭というかこめかみに当たり黒子が吹っ飛びこめかみ部分から流血したのである。
勿論コレはラフプレイでは無く、不慮の事故である。その証拠に、黄瀬はこの事態に茫然としていた。
審判がすぐに試合を止め、選手の治療にあてる時間を与えた。すぐに黒子に駆け寄り、ベンチに連れ出し処置をする。
(頭だからな〜これ以上は黒子君は無理かな?って…それにしても、黄瀬君だっけ…動揺しすぎだ。スポーツしてればこういう事態は良くあるのに)
黒子の処置を見ながら、未だに茫然としている黄瀬を見たはそう感じた。
(まぁ…自分が怪我させちゃった事は仕方がないけど…それにしても異常だわ)
黄瀬が一方的に黒子に対して懐いている事を知っただったが、それでも黄瀬の様子には違和感を覚えていた。
「ねぇ降旗君…何か黄瀬君変じゃ無い?」
「え?黄瀬ですか…変と言うか…。ああ、きっと黒子の事凄く執着って言うんですかねしてたからスかね」
「ん?だって普通に友達でしょ」
「まぁ…そうなんですけど。来て早々、黒子っち下さいとか言いだすぐらい黒子大好きみたいですよ」
の質問にサラリと答える降旗。
(ん?黒子君頂戴って…ああ…成程ね…伊月君がオブラートに包んでいた実態が…黒子君下さい発言にって訳か…)
降旗の言葉には、少し眉を寄せて数日前に伊月から聞いた内容を照らし合わせながら、そう思った。
若干から、負のオーラが漂ってきた事に降旗は不味いと顔を顰めた。
(あちゃー…あんなに先輩には言わないでって言われてたのに…)
あわあわと慌てながら、降旗は伊月を探す。
そんな降旗の様子に、伊月は何となく悟った…黄瀬による乱入事件の内容がにバレタと…。
(あ…アレは確実にバレタ…から負のオーラが出てる。でも…それだけじゃ無いかな…)
そう考えながら、伊月は降旗に気にするなとジェスチャーで合図する。降旗はホッとした表情を浮かべた。
伊月はと黄瀬を見比べて考える。
(多分…黄瀬絡みだけど。あんだけのビックマウスが一転茫然自失になっている所が…きっとの気にいらない所って感じかな?)
一見大人しそうな雰囲気を出すの隠された一面。地味に好戦的で、仲間思いで男前な彼女の性格を考えた上で伊月はそう思った。
(このまま…黄瀬が機能しなければ楽になるかもだけど…黒子が居ない以上辛さは変わらない…けど…の性格上、尻叩いてでも黄瀬を復活させそうだ…多分黄瀬泣く事になると思うけど…)
試合の行く末と、普段温厚で怒ると怖いを浮かべながら伊月は心の中でそう思わずにはいられなかったのである。
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2013.1.1. From:Koumi Sunohara