小 春 日 和 


休みが続くと、色々な所に行けたり…普段出来ないことが出来るから楽しいと思う。
最近出来た、ショッピングモールとか…目新しいお店とか…リニューアールしたと言う大きな本屋さんとか…。
行ってみたいって思うけれど…。

大抵、新しい場所は人だらけで見た気がしない。
そんなに急ぎで行くようなものでは無い時は、空いた頃に行けば良いと思ってしまう。
言うなれば…人混みは、人酔いがするから好きじゃないからって言うのも有るのだろうけど…ちょっぴり、もっともらしい言訳なんか付けてみたりして。
空くまで行く気なんて、実は無かったりする。
混んでいる所にワザワザ足を向ける気にもならないからだ。

そんな訳で、この連休は家の中でボーっとしたり…ゲーム三昧と洒落こもうとか企てていたりする私。
自分でも実に我侭な性格だこと…と思うけど…だからって…こんな時に体の調子を崩す何て思いもよらなかった。これも、我侭な考え方で折角の連休をボーっと過ごそうと思っていたツケが回ってきたのだろうか?
時期は桜がもう散りかけている…世の言うところのGWというこの時期に…。



バイトも学校生活も絶好調で、全てが快調に過ごしていた。
春休み明けだったから余計に、新鮮さを感じて楽しく過ごしていた…筈だったのだが…。
今日は春の暖かな陽気でウキウキ気分だったと思えば、前日が夏日だったのに、急に春の初めの頃の少し冷えた風が吹いたり…。

めまぐるしく変わる温度変化に戸惑う日々だった。
お陰様で…今年の春はやけに、温度の起伏が激しくて…着る物の選択も頭が痛い思いをした。
面倒だと思って、適当に服を選んでいたツケが回ってきたの…はたまた運が無かったのか…今更、どれが原因かと言い難いが…。

私は見事に風邪をこじらせていた。
それも春の木洩れ日が柔らかで…良い具合の散歩日和の日に…。



「ウーン。ウーン」

ベットの上で横たわり、熱の所為で寝苦しくて…思わずうなり声を上げてしまう私。

(嗚呼何て情けないな〜)

何て、熱に魘されながらも…心の中で冷ややかに突っ込む自分が居るのに…少しまだ余裕が有るのだと我ながら感心していまった。
実際はそんな余裕何て無いんだけど…。
39度前後の熱が常時続いている。

(ああ…でも普通ならまだ余裕が有るのかしら?私って平熱低いからな…35℃ジャストだもの…)

心の中で、分析しながら熱によって働かない頭を無理矢理動かして気を紛らわせるけれど…まったく、質の悪い風邪を…我ながらタイミング悪くこじらせたものだ。
世の中はGWという事も有り、我が家…渋沢家の人間…父&母は仲睦まじく温泉旅行に出かけており居ず。

もう一人、できの良い私の自慢の弟殿の克朗が居るのだけど…。
生憎彼は、寮暮らしをしているので…此方には居ない。

休みが続いたとしても、あまり家に帰って来ることが少ないのだけど…。
それは、大好きなサッカーをやりたい故にわざわざ寮に入っているので仕方がない。

(きっと今頃は、大好きなサッカーを休みの日まで頑張ってやっている事だろう)

働かない頭でぼんやりと私は思う。

(休みの日だというのに、何て真面目な良い子だろうか…)

私は何時も弟の克朗を見ていると、そう思わずにはいられないのである。
まぁ〜そんな事はさて置いてだ…。

そんな訳で、我が家には渋沢家の不肖の姉…コト私しか居ないのだ。
その時だった…。
バタリ。
扉が急に閉まったような音が、下の階から聞こえてくる。

(何だ何だ…鍵閉めてるのに、扉が閉まる音がしたぞ)

私はベットから起きあがりながら、眉をしかめる。
でも、このままココに居ても何が起きたのか把握出来ないので、すぐに1階に降りてみることにした。
その間にも、音のした方へ意識を集中させながら。

(さてと、この辺から音が聞こえた気がするんだけど…)

音と気配を殺して、私は物音の方に向かう。
そこには、ぼんやりと人影らしい物体が目に入った。

(こんな時に物取りか…まったく厄日だわ)

私は舌打ち一つして、物音がした方にゆっくりと足を向ける。
そして距離が詰まった事を確認すると、バンと壁を叩いた。
音に驚き相手が振り向くのと同時に、私は迷うことなく腕を振り上げた。

「チェストー!!」

ビュン。
かけ声と共に、空を切る音を立てて、私は先々攻撃と言わんばかりに正拳突きをくり出した。
ちなみに、家族や親戚が来たと言う項目は私の中から綺麗に削除されているので、かなり本気で拳をくり出す。
が…。
パシッ。
良い音を立てて、私の拳は意外な人間に受け止められたのである。

「たまの休みに帰ってきた弟に対する挨拶が正拳突きって言うのは、どうかと思うよ姉さん」

呆れ顔で我が弟克朗は、私のくり出した正拳突きを受け止めながらそう言ってきた。
そんな克朗の姿を認めた私は(流石、ゴールキーパー…受け止め方がプロってるわ)などと意味不明な気持ちになった。

もはや、熱は完全に回っているらしい。
それでも、帰ってきた弟へ一言言うべく口を開いた私。

「あれ?克朗だったんだ…私はてっきり物取りが入ったのか…と…」

言い終わらない内に、グラリと視界が歪み…私の意識はブラックアウトした。

「ちょっと…姉さん?」

何やら克朗が、慌てたような声が凄い遠くから聞こえた様な気がしたが…。
気のせいだったろうか…。
だがブラックアウトした、私には曖昧なものでしかなかった。




次に目が覚めたのはベットの上だった。
ゲームのような主人公のごとく、私は本当に自分のベットの上に居た。
意識がハッキリした私は、先程起きたことを整理するべくボンヤリと思考を巡らせた。

(ん?玄関付近に居たはずだが…)

上手く働かない、頭で巡らせる思考。
そんな事をしていた、私に何やら視線が感じた。

(視線?確か…両親は旅行中だけど…)

何て思いながら視線の先に目を向けると、仁王立した克朗が私を見ていた。
しかも…心なしか、怒った感じの表情で…。

「あれ?克朗…。もしかして、克朗が運んでくれたの?」

私は恐る恐る、そう口にした。
現状を考えれば、克朗が運んだのは…一目瞭然なのだが…それでも、何となく間が持たない感じがしたそう言った。
克郎は黙って、短く頷くだけで…何も言わない。

(ヤバイ…かなり不機嫌そうだぞ…)

「そりゃーゴメンね。重かったでしょ」

私は熱で出る汗とは違う、冷や汗に焦りながらも…礼の言葉を口にした。

「そうでも無かったよ」

今度は短くとも言葉が返された。
でも、凄く不機嫌そうな克朗の言葉に益々冷や汗が背を伝う。

「もしもし〜克朗君。君、凄く怒ってる?」

手をヒラヒラさせて、克朗の方を向いて分かり切った言葉を紡ぐ私。
普段お目にかかれない、弟殿の不機嫌そうな顔がそこに有ったのだから。

「ああ怒ってるよ」

案の定、克郎はお決まりの言葉を言ったのである。

「やっぱし…」

私は克朗の声を聞いて、項垂れたように下を向いた。
ちょっぴり情けない気分になったからだ。
そんな私の気分なんぞ知らない克朗が溜息一つ吐いて私の方を真っ直ぐ見てきた。

姉さんは、何時も無理をしすぎだ」

完全に溜息混じりに克朗はそう口にした。

「スイマセン」
思わす克朗の言葉に、間髪入れずに謝りの言葉を紡ぐ私。

「俺は…姉さんに謝って欲しくて…言ったんじゃ無いんだ」

(ん〜ソレは、分かるのだけどね…)

私は克朗の言葉を聞きながら、そう思ったが言葉には出さずに閉まっておく。

「でもね…克朗に迷惑かけちゃったでしょ…」

思った事の2番目の言葉を取りあえず、克朗に告げる。
実際、そう思っていたので嘘では無いから…きっと克朗には気づかれないだろうと…思っての事だが。
それは見事に当たったようだった。私を見る克朗の目は先程の厳しい眼差しから、柔らかものに変化していたのだから。

「迷惑じゃ無いよ。俺…弟だから、何時も姉さんに心配ばかりかけてるし…こんな時じゃないと頼って貰えないからな」

照れくさそうに…はにかみながら克朗は、私にそう言ってくる。
私はそんな克朗の言葉が、何とも意外な気がしてならかった。

(何せ不肖の姉だからな〜結構克朗に頼りぱなしが多い気がするんだけど…。よく逆に見られる程に…)

自分の過去の出来事を振り返りながら、私はそう思った。
寧ろ、私の方が頼られることが少ない。
その結論が早々に出た私は、すぐに克朗に言い返した。

「そんな事無いと思うけど、ほとんど克朗に迷惑かけて生きてる気がするわ私」

「それこそまさに、考えすぎだよ。俺は迷惑なことされた覚えは無いからね」

サラリと言い返される私。
何だか妙に、悔しい気分になる。
姉として、弟に足下を見られる訳には…。
何て訳の分からない事を思った私は、克朗を一泡吹かせようと考えながら口を開いた。

「まぁいいや。そうだ迷惑をかけたお礼に〜直ったら、克朗の学校に乗り込んで黄色い声援を克朗に向けて、差し入れを持っていってあげようか?」

ニヤリと不敵に笑って私はそう言った。
我ながらアホな考えだが、普通このくらいの歳の子なら恥ずかしいはずだ。
なので私は、どうだ!はずかしかろう!という感じで克朗に言ってみれば…。

「期待しないで待ってるよ。第一、そんなに簡単に直ったら…お医者さんの立場が無いと思うよ姉さん」

笑いを堪えた感じで克朗が私に返してくる。
しかも、かなり普通の答えで。
ボケた私が何だか馬鹿みたいに思えて、(それにしても、もう少し照れたりしてみないもんかしらね?)心の中でボヤいてみたり。

「本当に冷静だね克朗わ…」

克朗の様子に悪態混じりに、言うけれど…。
克朗は益々、ケロリとして此方を見ていた。

「一応、大世帯のキャプテンやってるからね。少しは冷静に判断出来ると思うけど…姉さんに言われる程でもないよ」

「謙遜しすぎね克朗は…」

“それに…今日以外にも…色々…と思い当たることは沢山有るし”と言う言葉は、飲み込みながら私は先程から気になっていることを、尋ねて見ることにした。
何というか、桜餅のような…臭いが微かに感じたからだ。

「そう言えば克朗から桜の花の臭いがするのだけど…気のせいかな?」

「桜?ああ、気のせいじゃ無いよ」

「そっか、鼻まではイカレテ無いみたいで安心したわ。でも何で、桜の臭いがするんだろう」

私は独り言のように、呟きながら克朗の周りをクルリと見わたした。

(実は桜餅隠していたりして…)

馬鹿みたいな考えが頭に浮かびながら、私は不思議そうな表情で克朗を見た。

「外はポカポカだからね。本当は、姉さんと散歩でもと思っていたけど…寝込んでるからさ…気分だけでも満喫してもらえれば良いと思って持ってきたんだ」

柔らかく笑いながら、克朗は後ろ手に持っていた枝を私のベットの側のサイドテーブルに置いた。
薄紅色が可愛らしい、桜の花が付いた枝が1本そこに置かれた。

(ああ成る程…桜か…そら〜桜餅の臭いもするさね)

私は臭いの発生源の正体を思わずジーッと見つめていた。
そんな私の様子に、克朗は何を思ったのか急に言葉を紡いできた。

「ちゃんと許可もらって、1本だけ貰ってきたから安心してくれよ姉さん」

私が黙って枝を見ているものだから、克朗は…妙な心配をかけまいとそう言ってきた。

(ププププ。心配しすぎ…本当に良い子だなぁ〜私の弟わ。こんな可愛い反応見せるのに…先程のボケ殺しは何だろうね…)

別に、克朗が盗んできた何て最初から思っていない私は何だから可笑し気持ちに成った。
でもこのまま、克朗が勘違いしたままなのも可哀想に思ったので、私は笑いを堪えて言葉を紡ぎ出していった。

「克朗が勝手に持ってきたりする子じゃないのは、知ってるよ…有り難う。桜か…部屋の中に春が来た感じだね」

桜の枝と克朗を交互に見比べながら私はそう言った。

「お礼言うぐらいだったら、しっかり風邪直してくれよ。ともかく、俺がご飯持ってくるまでちゃんと寝てること!約束してくれるよな」

私の言葉に照れたのか、克朗はそう言いきると私から背を向けた。

「へいへい。克朗のご飯を期待しながら、黙って寝てるから安心してよ」

モゾモゾと布団に潜り込み、手だけ出して克朗にそう言う。
そんな私様子に、克朗は笑って応えた。

「期待に応えるように、頑張るよ」

克朗はそう言い残すと、私のご飯を作るべく…リビングへ降りていった。
本当に姉想いの良い弟だ…としみじみと思う。



克朗が部屋から出て行った後、私は約束通りベットで横になっていた。
ベットの側のサイドテーブルには、一枝の桜が置かれている。
その桜から、小春和を部屋で感じれるような雰囲気を漂わせているように思えた。
そんな弟の些細な気配りが嬉しくなった。

(友達に休み中の話をしたら、きっとブラコンって言われるんだろうな〜)

心の中で苦笑をしながら私は…(風邪で寝込む羽目になったけど…たまにしか会えない弟と過ごすGWもたまにわ悪くないかな…)と私は人知れず思ったのだった。
何時か、本当に応援に行ってやろうか…と言う野望を胸に秘めて。



END

2003.10.21. From:Koumi Sunohara


★言訳と言う名の後書き★
あんまりお題と関係ない気もするのですが…。
季節がらって事で…。
サブタイトルは『連休と風邪ぴき』って感じですかね。
コレを書きながら、本当にその時期に、風邪ピキだった事を思い出しました。
しかもコノ話(タイトル未定で)を書いている途中で…。
んでもって、中断しましたね。
それから再開させて、気が付けば10月…。
要は私が不甲斐ない所為なんですが。
こんな事を書きましたが、さんの設定としては、『さくら茶』と一緒って感じで読んで下さると良いかも。
あんまり固定ヒロインじゃ無いから、気にせず読めると思いますが。
その方が、お楽しみ頂けると思います。


BACK