棚から牡丹餅ならぬチョコ菓子  


有難いことなのだが最近の俺はバレンタインデーになると、色々とチョコレートやプレゼントを貰う事が多くなった。

それは、一応サッカーでも名門である武蔵森の1軍でキャプテンなんかを努めていたり…選抜などに呼ばれたりして、普通の人よりは注目を集めている所為なのかもしれない。

実際、1年生の時はそういったものはあからさまに貰った事はなかったが、1軍でのレギュラーやキャプテンになったこと、選抜に選ばれる事などの転機からのように思う。



直接の手渡しのものは、受け取らない様にしたが相変わらず何処からともなくチョコが置かれる現状と、果敢に挑んでくる女子生徒を何とか振り切りながら迎えた放課後。

(黙って部活をしている方が楽な気がするな)

寡黙で厳しい顧問を思い出しながら、俺はプレゼントをくれる子に悪いがそんな気持ちでいっぱいだった。


そんな折、俺は偶然にもが放課後残っているのに出くわした。



彼女は友達同士でのチョコレートの交換等をしているようで、お昼休みにも手作りと思わしきチョコレートを和気あいあいと交換し合っていた。

それを見て…正直羨ましい気持ちでいっぱいだった。

その彼女が少しボーっとしながらもカバンの中から、昼に見かけたプラスチックの溶器を出して蓋を開けるのが目に入った。

(あれは?昼にが配っていたお菓子?)

それを目ざとく見つけた俺は、サッとの後ろに回り、プラスチックの溶器から目当てのお菓子を1つ指でつまんで手早く口に入れる。

「うん。旨い」

彼女の作ったチョコレート菓子『ブラウニー』を噛みしめて、味わった俺はそう一言口にする。

すると幽霊でも見たような表情で、驚いた顔になるに俺は、なるべく柔らかい口調で言葉を紡いだ。

、ご馳走様。俺としては、もう少し甘くても良いと思うぞ」

そう口にしながらも、驚いて目を大きくする彼女に不謹慎にも(小動物みたいで可愛いなわ)などと思いながら、彼女の出方を待った。

「そ…そっか。渋沢君アドバイスありがとう、参考にしてみるね」

「いや。そう言って貰えると助かるよ。何せ、の承諾も得ずに食べてしまったからな」

「いやいや。料理上手の渋沢君には恐れ多いって感じだし、寧ろ食べてくれて有難うって感じで」

支離滅裂になりながら、は慌てた様にそう口にした。

(そんなに恐縮しなくても良いのだが…それにしてえも、料理上手何てだれが言ったんだ?普通だと思うのだが)

そんな事を思いながら俺は、に言葉を返した。

「ははは。は奥ゆかしいな…。謙遜しなくても十分美味しいぞ。ただ先のは俺の好みの問題なだけさ」

「そっか。機会があればまた、アドバイスしてくれると嬉しいな」

俺の言葉に、少し照れながらそう返すについ俺は、馴れ馴れしくも頭を軽く撫でてしまった。

「ああ楽しみにしてるよ」

咄嗟に出たのはそんな言葉で、言い逃げするように俺はサッと足早にの前から姿を消した。

(少し馴れ馴れしいかったか?不快に思っていなければ良いんだが)

少し離れた場所で、そんな事を思いながら俺は少し嬉しい気持ちでいっぱいだった。

貰えないと思っていた彼女のチョコレートを食べる事が出来たからだ。

まぁ勝手に食べた彼女のチョコをバレンタインのチョコとしてカウントして良いものか?と思うが、手作りという付加価値のついた彼女のチョコは俺の心を踊らせた。

変な話、から貰えるチョコなら、お得用チョコでも嬉しい気持ちになる。

少しばかり、乙女の様な、恋は盲目といった様に嬉しくなるから不思議だ。

勝手に食べたものの、彼女の表情は驚きはあれど不快感は無かった事が唯一救いだった気がする。

(おもわず自分の好みを言ってしまったのは、まずかっただろうか?)

何度となくは、思い出して自問自答をする。まぁ結局答えは出せないままだが…俺は今までにないくらい満ち足りたバレンタインデーになった気がした。

(さて…さり気無くホワイトデーにお返しが出来れば良いんだが)

などと、ひと月先のイベントについつい思いを馳せるのはご愛敬とさせて欲しい。
嬉しい悩みで、俺の心はいっぱいになったのである。


おわし


2010.7.18.(WEB拍手掲載日→2011.4.2.) From:Koumi Sunohara

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