ルージュの伝言



ー神様、私が嫉妬深いのでしょうか?ー



彼氏で、大好きな翼先輩と監督に対して私は、嫉妬しています。
最初は、“監督と選手”だから、中が良いんだって言い聞かせていたけれど…。私の心が、限界を訴え始めた。
“翼先輩の彼女”という重さにも…。
選抜で、翼先輩の居ない今が、臨海点に達していて。
頭が、上手く働かない。
ピピピピー。
携帯の着メロがなる。
私は、ノロノロと動き電話に出る。

「はい」

「あっ… 、あたし有希だけどさ」

上水の女子サッカー部の、キャプテンをしている小島有希からだった。

「何?」

「あれ?元気ないみたいだけど、椎名と何かあったの?」

有希が心配気に、聞いてきた。

「平気だよ!有希こそ何?用事あったんでしょう?」

わざと強がって、カラ元気。
有希は、私の嘘に気がついているのか、言葉を詰まらせた。

「ほら、用事を言ってよ」

せかす私。

「ああ、ちょっとサッカー部の手伝いが足りなくて」

「やるよ、どうせ暇だから」

私は、即答した。黙っていたら、自分の中の闇に、捕らわれそうだったから。

「分かった、じゃ〜明日から来てくれる?あと…」

「後、何?」

「もしも、椎名の事で悩んでるだったら、…プチ家出してみたら」

有希は、用件を言うと電話を切った。

「家出か…良いかもしれない」

私は、早速決行することにした。
家出といっても、飛葉サッカー部からの家出。
黙って消えるのも、忍びないので私は、書き置きをして出てきた。
それは、私の中の淡い期待の込めたモノ。

“迎えに来てくれる”

“探しに来てくれる”

そんな、淡い期待を込めて。
ルージュの伝言みたいに、書き置きなんかしてみた。
翼先輩が追いかけてくるはずが無いのに。



上水に来て私は、のびのびと仕事をしていた。
仕事上私は、上水の制服を着ている。
上水のメンバーは、優しかった。
数日過ぎたある日。
選抜から、帰ってきたらしい翼先輩が現れた。

、何やってたんだよ!!連絡の一つもいれないで、どうゆうつもり!!!」

私を見つけた翼先輩は、開口一番にそう言った。
ビク。
私は、思わずその声に固まって、動けなくなった。
聞きたくてたまらなっかた、その声。
怒りを宿した、瞳。
目がそらせない…。
数秒なのに、長く感じてしまう。
ポン。
私の肩を、シゲさんが叩いた。

…固まとらんと、俺の話をようきくんやで〜」

私に聞こえるぐらいの、小さな声でシゲさんは、言った。
私は、“はっきり”しない頭でその声を聞いていた。

ええこと、思いついたさかい、協力し〜や」

悪戯ぽくウインクして、笑うシゲさん。
まだ、言葉の意味が分からない私を、無視してシゲさんは、翼先輩に話しかけた。

「姫さん悪いな〜、 な〜上水に入ることになったんね」

その言葉に、嘲笑うような表情の翼先輩。

「はぁ?何言っての。馬鹿じゃないの? が、上水に行くはずないんだよ!頭悪いね、あんた」

「ほ〜、自信満々やな〜。けどな、あんたの居なかったこの数日間、 が何しとったか…姫さん知とるか?」

ニャリ。
不敵に笑い、シゲさんは翼先輩を見ていた。
翼先輩の顔から、余裕が消えた。
空気が、急に張りつめた。

「知らない…」

歯切れ悪そうに、呟く翼先輩。

「何やって?」

わざと、煽るように聞き返すシゲさん。

「だから…知らないていっての」

「ほらな、知らんかったやんけ♪ほんなら、上水の生徒になっとても、不思議はないわな〜」

楽しそうな声音の、シゲさん。

「後な…例えば、俺と がつき合うとっても、不思議わないわけや♪」

「怖い顔せんといて〜な。軽い〜ジョークやねん」

まだ、鋭い目でシゲさんを見据える翼先輩。

「俺が言いたいのはな〜、サッカーばっかりで、 を放っておいたら、こないコトになるちゅー話」

クシャ。
翼先輩の頭をわざと、撫でる。
今にも、掴みかかりそうな翼先輩。

「俺ってば、女の子と可愛い子の味方やさかい、姫さんのコトも気に入っておるんやで。だから、早よう仲直りしたってや♪」

手をヒラヒラさせて、立ち去ろうとするシゲさん。

「あっ…あの…」

心細くなって、呼び止める私。
くるりと、振り返るシゲさん。

「礼は、 と姫さんのLOVELOVEで、まけとくわ。ほんなら、お邪魔虫は、退散でもしとくわ♪」

と言うやいなや、シゲさんは、本当に去っていった。
私と翼先輩との間に、長いようで短い沈黙が流れる。

は、俺に何か言うことあるんじゃないの?」

言葉はあくまで、丁寧だけど…翼先輩の言葉は、命令を含んでいた。

「…」

私は、言いたくて仕方がない負の感情を噛み殺して、押し黙った。
少しでも出せば、私のは止められないから。

ーナンテ、ミニクイノダロウ?ー

きっと、この想いを知られたら…貴方は軽蔑するから。

「何を、言っても言い訳みたい…聞こえるから」

俯く私に、冷たい一言。

「ふ〜ん、分かってじゃない」

ズキ。
胸に大きな棘が、刺さる。
翼先輩の目から、逃れるようにそらした。
このまま見ていたら、間違いなく動けなくなる。
メデューサの首に、魅入られたように…。
だから…。
コレって、逃げかな?
自嘲と苦笑の入り交じった、表情になるのが自分でも分かった。

「急に物わかり良くなったんだね〜。上水の連中のおかげかな?」

嫌味のたっぷり、含んだ言葉。

「…」

ーアナタノコトバガ、コンナニイタイナッテー

刺さる痛みに、遠のきそうな意識。
遠のいてしまえれば、どんなにらくだろうか…。
翼先輩は、それを許さず言葉を続けた。

「言い訳ぐらい、させてやるよ…言ってみなよ」

「…」

あくまで黙秘を続ける私に、翼先輩は追い打ちをかける。

「耳まで、聞こえなくなったの?」

悲しさと、悔しさが広がる。
私の中で、何かが弾けた。

「な…何なんですか…翼先輩…」

ーアァ、モウトマラナイー

吹き出すように醜い私の感情が、流れ出す。

「翼先輩が、サッカーが大切なの知ってます…でも、私子供だからその事にも嫉妬しちゃうし、それに
…翼先輩は監督と仲良いし、人並み以下の私なんかいらないし、邪魔だし…」

言ってしまってから、とてつもない後悔の想いでいっぱいで。

ーモウ、キラワレルー

私は、固く目をつぶる。
目を開けるのが怖かった。

「へ〜玲に嫉妬してたの?…以外だな」

目を開くと、本当に以外と言った、表情の翼先輩。
私には、それすら苦しく感じて。

「ええ、嫉妬してましたよ!しっかり、バッチリ!!あんなに仲良いし…私なんかお呼びじゃ無いって感じたのよ!!」

無我夢中で、叫んでいた。
頬を伝う冷たい、モノに気がつく。
それを、乱暴に拭う。
私を、“じーっ”と見つめる翼先輩。

「だからってね、家でみたいな真似は、止めなよね!…本当に心配したんだかさ」
先程の声音とは、違う少し困ったような声音。

「俺だって、嫉妬してたんだからな…」

「へ?」

間抜けな声で、見上げたら、以外にあったのは翼先輩の照れた顔。
私、夢を見ているの?

「帰ってきたら、 居ないし…探してて、出てきたのは置き手紙一つ。どっかの映画みたいことに、なってるんだからな…」

言って欲しいことばかり、が私に聞こえる。

ーカミサマ、コレハ、ユメデスカ?ー

「本当に焦った、上水の制服着てるし…彼奴の言葉にも…。何より、 が俺から離れていくていく不安で、狂いそうだった…」

(嘘だ…きっと、コレハ夢)

嬉しさのあまり、私は知らない内にまた、涙がでていた。
とめどなく流れる涙を、優しく指でぬぐい取る翼先輩。
夢じゃないのだと、分かった瞬間。

「卑怯だな俺… のこと確認ばっかしてさ…自分の事ばかり棚に上げてんだから」

苦しそうに翼先輩は、呟き私を、“ぎゅ”と抱きしめた。
づーっと帰りたくて、てたまらなかった場所。
私の安心できる、居場所。
すごく、“ほっ”とした。

「安心してよ。俺、 じゃなきゃ駄目だからさ」

声が頭に、直接響く。

「それにね、“椎名翼”をこんなに取り乱させるのは、 だけなんだから…自信もってよね」

一見、自意識過剰かと思える科白だけど、翼先輩が言うと納得してしまう。
それだけで、心の靄が晴れる。
魔法のような、言葉。
翼先輩は、続けるように言った。

「俺は、 が大好きだよ。だから…浮気するなよ」

自信に満ちた、“椎名翼”じゃない“私の彼氏の翼先輩”がそこにいた。
だから、私は嬉しくなる。
私だけの、特権だから。

「うんv翼先輩も、浮気しないでくださいね…私、嫉妬深いんですから」

悪戯ぽく、言ったら翼先輩は眉の端をもちあげた。

…誰に聞いてるの?それに、俺の方が独占欲強いんだから…ちゃんと注意してほしね!」

何時どうりの、毒舌で返ってくる。

「そうですね、肝に免じます」

笑って返す、私に翼先輩は、優しい微笑みを向ける。

「良くできたね。 にしては、上出来だよ」

嬉しそうに私の手を取る、翼先輩。

「さぁ、帰るよ

飛葉に向かって、私達は歩き始めた。
“たまには、家でも悪くない”
そんな、事を翼先輩に言ったら怒られそうだから…私の中の秘密にしておく。


ー神様、どうやら私だけが嫉妬深いわけじゃないようですー

END

2001.4.23. From:Koumi sunohara







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