寮生活をする学生の娯楽は少ないもの。
自宅とは違い、周りのことも気にしながら私生活を送らなければならない。
だからちょっとした事でも、娯楽に変えてしまおうと言う感覚が自然に生まれてくるらしい。
らしい…と言うのは…実際は公に出されていないので…あくまで…言葉を濁させてもらおう。
取りあえずこの武蔵森の寮では…ソレが至極当たり前の事であった。
そして…ココにもそんな娯楽に興じる者達が居るのであった。
【撃って…討って…打ちまくれ】
普通は静かなはずの部屋の一室で、楽しげな曲と共に…楽しげな声が響き渡った。
ちなみに、楽しそうな声で笑っている人物の名前は。
武蔵森の3年生で帰宅部の娘さんである。
「ヘヘン♪また私の勝ちだね藤代」
そのは、後輩にあたる2年生の藤代にそう言った。
「グオオオオオオ〜ッ。ま…負けた〜っ」
悲痛な叫びと共に、後輩君…もとい…藤代はカタリとコントローラーを落とした。
ガクリと肩を落とす藤代。
大袈裟にリアクションしているが、ちなみに現在先輩と後輩藤代は楽しくTVゲーム対決に興じていたのである。
その周りには、どちらが勝かなどジュースを賭けたりしている渋沢や笠井、三上というギャラリーが遠巻きに…2人を見守っているという構図である。
で…負けた藤代は?と言うと…ショックが隠しきれないのか…ブチブチ言っている。
「しかも俺の得意な格ゲーで負けるなんて…しかも…しかも…10連敗…」
「幾ら藤代がゲームが得意って言ったて、ヤリ込んでいる年期が違ってよ」
「ははははは帰宅部だからな〜。ゲームだってやり放題って訳か」
「そうそう。だってさ、帰宅部って暇なんだもん。ゲームぐらいやってないと埒が明かない訳よ」
「だったら、部活にでも入れば良いだろう」
至極当たり前の正論を渋沢はに提案する。
「えええええ。だって私運動苦手だしさ。音楽ったって、リコーダーの腕前…騒音クラスなの渋沢だって知ってるでしょ?」
少々大袈裟なリアクションを付けて、は切り返した。
その切り返しに、今度は渋沢とは違った正論を提案しながら2年生とは思えない物怖じしない態度で笠井が言葉を発した。
「別に吹奏楽に入れとは、言ってませんよ渋沢先輩わ。それに、先輩だったらマネとか如何ですか?」
「や〜ね笠井。私病弱じゃないからマネ出来無いわ」
何処かで井の端会議をしているおばちゃんの様な口調で、手をパタパタさせては返す。
「ええええ良いじゃ無いスカ!!マネ」
「何で病弱じゃなきゃマネ出来ないと言う発想になるんだ?」
騒ぎ立てる藤代を軽く無視して渋沢は、に尋ねる。
「よくぞ聞いてくれたわ。渋沢よ」
まるでRPGの勇者に、王様が有り難い言葉を授けるような口調で渋沢に向かってそう言った。
「、何やら口調が可笑しくなっているが…」
冷静な渋沢もの大暴走ぷりに、たじろぎながらもツッコミを入れる。
「ノープロブレム。問題ないわ。さて、何故私がマネが出来ないかと言いますと」
両手をバット素早く結んで開いてをして、言葉を紡いでゆく。
もはや…の独演会と化している…。
「「言いますと?」」
「“はい先輩〜タオルです〜”“ありがとう。君は心のオアシスさ”“先輩…(フラリ…)スイマセン眩暈
が…”“大丈夫かい?さぁ木陰に行こう”てな感じで、恋が生まれるのだよ、皆の衆!!!」
の普段とは考えられない暴走ブリに…全員の心境は同じであった。
「「…(先輩)、ソレって?」」
「ん?何って、マネージャのお仕事風景の再現ブイをコント風にアレンジしてみたんだけど…問題でも?」
((問題でも?って問題では無いし…。一昔前のコユイ…少女漫画かよ?))と以外は心底思った。
「先輩…ソレって何だか違うと思いますが」
冷や汗タラタラと流しながら、かなり暴走してしまった先輩に向けて笠井がツッコミを入れるのだが…。
「何を言うか笠井。可愛い色白の女の子、柔らかい声音で労いの言葉とタオル、日射病で倒れる。これぞ少女漫画の王道のマネージャの姿!すなわち男の浪漫だろうが!!」
ウットリと自分のMYワールドにトリップするように、は力説した。
「少女漫画の王道と…男の浪漫は関係無いと思いますが。それ以前に先輩は、女の子でしょ…男の
浪漫は関係無いと思いますよ」
「そうだな…確かにはどう見ても、女の子だな」
「それでも君らは、武蔵森のサッカー部の1軍レギュラーかね?」
大袈裟に溜息なんかついてみたりして、はそう3人に尋ねた。
「何言ってるんですか先輩。先輩なら、素敵なマネージャになれますよ」
「主語が見えないぞ藤代。まぁ藤代の話はともかく…。…、他のマネはどうだか知らないが…武蔵森サッカー部のマネは、ハードすぎて…お前の求めてるマネだったら1日も持たないぞ」
藤代にツッコミを入れながらも、渋沢もさりげなくをマネに勧誘する。
勿論笠井も考えは渋沢と同じのようで…続いて言葉を紡いだ。
「先輩の理想のマネ像はともかくとして、先輩なら…立派なマネになること間違いないと思いますよ俺。だから、暇ならマネやってくれませんか?」
藤代とは対照的に笠井は、遠慮がちながらもをヨイショしてそう言った。
対してと言うと…。
「皆褒め上手だね〜。でもも、ゲームの方が好きだし駄目さ」
にょほにょほと笑いながら、照れくさそうには3人に返す。
「冗談じゃなくて本気スよ…。じゃじゃ。俺がゲームに先輩に勝ったら〜マネやってくださいよ」
猫なで声を出しながら、藤代はに提案する。
「ははん。藤代ソレは、私に一度でもゲームに勝ってからお言いなさい」
勝ち誇った様にが言うと、藤代は頭を抱えてを見て言葉を紡いだ。
「ああああ痛い所を〜ッ」
また先ほど負けたショックがぶり返したのか…藤代は意気消沈していた。
「そんなに自信があるんだったら、俺と勝負するか?勿論賭け勝負で」
の頭上から三上のそんな声がやけに響いた。
「何で三上はそんなに偉そうなのさ」
ふいに話に参入してきた三上に好戦的態度で迎え撃つ。
臨戦態勢はバッチリだ…。
の態度にも三上は何処吹く風だった。
「そりゃー三上様だからじゃね〜の?」
小馬鹿にした態度の三上に額に青筋数本浮かべてはギロリと三上を見て口を開く。
「ギャフンと言わせてヤルンダカラ!!」
「返り討ちにしてやるよ」
鼻であしらう様な態度で三上はに言い切った。
「くあぁぁぁぁぁぁ。滅茶苦茶ムカツクわ。絶対負けないんだからね」
地団駄踏んでは三上に食ってかかる。
「そうだな〜俺に勝ったら…の言うこと何でもきいてやるぜ」
ニヤリと独特な毒気たっぷり含ませた笑顔で三上は、悪魔の囁きののようにに賭をもちかける。
血の気盛んな若者で有るは、この申し出を断る筈もなく…。
「乗った!!!」
その辺に有った机を叩いて、卸売りで買い付けるおっちゃんの如く…は高らかと言ったのであった。
そんなこんなで戦いは始まったのである。
三上との勝負では、2人だけに任すと大変になるだろうとのことで…中立的立場で、渋沢が場を取り仕切る事となった。
その渋沢は先手を打つようにして言葉を三上に投げかけた。
「三上…非人道的なソフトは駄目だぞ」
「ほう〜渋沢…非人道的ってどんなソフトを言うんだ?」
何処かのヤンキーみたいな座り方で、下から上に視線を上げた三上が渋沢に言った。
(三上…お前チンピラみたいだぞ…)何という言葉は心の中で吐きながら、渋沢は三上に向かって溜息一つ。
一方三上はと言うと、相変わらずニヤニヤ笑って渋沢にからかうような口調のまま口に出す。実に命知らずである。
「言えないような…お恥ずかしいソフトか?キャプテン様」
「三上…お前の想像にまかせよう」
ヤレヤレといった様子で、渋沢は眉間に手を置いて疲れたようにそう返した。
完全に呆れているご様子である。
「それはそうと…明日の朝練が楽しみにしてろよ三上」
「ってめ〜!!職権乱用じゃね〜かソレ!!」
「監督は…息子さんに甘いからな〜三上。俺の味方をしてくれるだろうよ」
夜空を仰ぎ見るようなポーズをとって渋沢は、遠い目をして三上にそう言った。
口調は実に穏やかであったが…まるでソレは、裁判で判決を言い渡す裁判長の如く冷たい目だった。
そんなショートコントもしくは、ミニドラマを遠巻きに観察していたがおもむろに口を挟んだ。
「あのさ〜先から私の存在かなり無視してない?」
「「悪い、忘れてた」」
悪びれる事無く、渋沢…三上両名は声をハモらせてそう口にした。
(やっぱりゝゝゝゝゝゝ)
ハモった声に少しだけ肩を落とす。
「そうスよ先輩方〜」
もう1人抗議の声を上げる。
勿論藤代その人である。
「居たのかバカ代」
冷たい視線とともに、三上は藤代に言い切った。
ビュ〜ッ。
その瞬間なにやら、ブリザードが吹き荒れたように場の空気が凍ったと後日藤代の友人笠井は語っていたとか…。
まぁ〜それは、さておいて…。
「の存在だって、忘れかけていたんだ…藤代。お前が忘れられていても不思議はないだろうに」
と凍った空気のさなか、止めの一撃とばかりに渋沢までもが藤代に言う。
流石に固まっていた藤代だったが、渋沢の一言に我に返り(止めは刺されなかったようだ)…口を開く。
「キャプテンまで…俺って凄く不幸じゃないですか」
ヨヨヨヨヨヨと泣き真似をする藤代。
一同は(お前何時の時代の人間だよ)とか思っていたらしい。
明らかに変な空気になってきている。
場の空気なんぞ藤代は無視して…に泣きつく。
「先輩〜俺って可哀想な後輩スよね」
「いや…私の方が可哀想だろう…。先ほどまで話していたのに…、忘れられていたんだし」
わざと臭い泣き真似の藤代に、は少し引きながら…ボソボソと言った。
「え〜俺の方が可哀想です。絶対。気分は、マッチ売りの少女も真っ青…人魚姫だって裸足で逃げ出します!」
突然元気よく立ち上がり、藤代はたからかに宣言した。
「そんな事力一杯言われても…寧ろ…自慢気に言われても困るのだけれど…(それ以前に例えが間違っているのだけど…寧ろ変だぞ)」
ちょっと引きつりながら、は藤代に真面目に答えてみたり。
そんなを可哀想だと思ったのか?どういった気まぐれなのか…武蔵森の常識人(?)笠井がふいに動いた。
「ハイ誠二そこまでだよ」
スパコン。
なかなか良い音を立てて…笠井は何処から取り出したのか分かりかねる…ハリセンで藤代にツッコミを入れた。
「なんだよ〜竹巳。痛いじゃん(涙)」
藤代は笠井を恨めしそうに眺めながら…ブチブチと抗議の言葉を紡いだ。
「はいはい…俺は明日無事に生活したいからね。いくら誠二の頼みでもきけないよ。それにハリセンだから痛くないだろ」
“いつも誠二は大袈裟だからイヤになるよ全く”と付け足しながら笠井は藤代に言う。
かなりクールな笠井の科白に、は苦笑を浮かべて見守っていた。
実に他から見ると、面白いど突き漫才ショータイムである。
しばらく、笠井&藤代ど突き漫才(苦笑)ショーを堪能していただったが、周りのの様子を見て少しだけ溜息をついた。
(コレを見ているのも面白いのだけど…このままじゃ〜埒が明かないよな〜)としみじみとは思った。
後輩Sのど突き漫才から目を離し…は本来の目的であった三上に目を向けた。
が当人三上の姿が部屋の中に見受けることが出来ない。
(はて?三上は何処に消えたのか?)
は推理探偵(本人の想像内の)のように、小難しい顔を作り顎に手をあてて考え込む素振りをみせる。
(藤代があんまりにも五月蠅くて逃げたか…?はたまた、渋沢の言う非人道的なソフトの調達に暗黒街に出向いたか…)
「三上、暗黒街に行って来たの?」
開口一番にが口にしたのは、先程自分が考えていた謎めいた推理の内の一つを口にした。
「…」
案の定三上は、“はぁ?お前何言ってんだ。ついに藤代菌が移ったか?”的表情でを見た。
さらにの言葉は黙殺されたのである。
ヒュルリラー。
謎の効果音と小さな落ち葉が謎の風と共に吹き抜けた。
あくまでの心の中でだが…。
(嗚呼今木枯らしが吹いていったわね。あまりにも三上がノリが悪いから。気分は大喜利前の前座を務めた若手芸人さんが笑いを取れなかった時の心境ね…って今はそんな事を考えている場合では無かったわねヤレヤレ)
と数十秒の間には思っていたりした。
コホン。
咳払い一つついては気を取り直して、三上に声をかけた。
「で…三上は何のソフトで勝負するの?」
の先程の言葉を気にした様子を微塵にも見せずに三上は面倒くさげに口を開く。
「ん?俺?」
気のない返事には少し拍子抜けしそうになったが、目の前に居る相手が相手なだけに訝しいそうな視線を送った。
「実は持ってきてませんなんてオチ無いよね」
三上のすっと呆けた態度には半ば呆れながら、そう口にした。
(わざわざ…一旦部屋に戻ったのに…持ってこないとかって…サザエさんもビックリだもの…)
はサザエさんのオープニングを思いだしながら、ぼんやりと三上の答えを待った。
「俺を誰だと思ってるんだ」
何時ものようにシニカルな笑みを浮かべて、三上は言った。
「チンピラ…イヤ…ホスト?」
は間髪入れずに短くそう三上に返す。
ビューッ。
そうすると、何だか良く分からないが…微妙な空気が流れる。
北の寂れた居酒屋に吹く…北風のような冷たさである。
その風の…否…間から、三上は立ち直り言葉を紡ぐ。
「本当に可愛気無いな」
かなり呆れた感じの声音の三上だが、変な間を作り出した自信は飄々としたものだった。
「有り難う最高の褒め言葉だわ」
三上の真似のように、シニカルな笑み浮かべてはサラリと言い切った。
「褒めてない!!」
ベシ。
三上は、裏拳でにツッコミを入れる。
「っぅ〜痛いじゃないのよ三上!!大体、アンタがまともな褒め方しないからイケナイんでしょ。それより、本気の裏拳入れること無いじゃないのさ」
見事に裏拳が額に当たったのか…は軽く手で、額を押えながら空いている拳をフルフルさせて叫んだ。
そんなエキサイティングしまくりのの背後が急に暗くなる。が本人は全然気にする様子もないようで、未だに拳を振るわせている。
三上との距離がもう少し短ければ、殴りかかっている確率はググ〜ンと上がること間違いないだろう。
だが…。
拳を納めるように後ろから影の主…渋沢は、の手を下げる。
「まぁまぁ、そうカッカするもんじゃ無いぞ。折角の美人が台無しじゃないか。だが…三上の場合天の邪鬼だからな…褒め言葉だろう」
の泣きの言葉に、渋沢は爽やかに微笑むと…サラリと言った。
しかも、大変恥ずかしい科白あっさりと。
そんな渋沢を顧みて、と三上は一瞬固まるしかないようだった。
((渋沢ってナチュラルに鳥肌モノの科白言うよな…侮れん))
鳥肌立てた三上、が呆然と渋沢を見る。
「え?じゃ〜俺何時も褒めれてるんスね♪」
先まで笠井のツッコミで意気消沈していた藤代が突如復活して…話に参入もとい乱入してきた。
それはもう、満面な笑顔で…。
「「イヤ…ソレは無い!!」」
0.2秒の否定でバッサリ切り捨てられる藤代。
しかも全員声を合わせて、一斉に。
実に見事なハモぷり。
「そんな〜酷いスよ〜。先輩まで〜断言すること無いじゃないですか〜」
半べそになりながら…藤代はに泣きついた。
というと、そんな藤代の頭を木魚のようにペシペシ叩きながら言葉を紡いだ。
「はいはい藤代よ。バカな子程可愛いって言うじゃない」
「先輩…ホローになってないですよ。でも可愛いっていうのは、有り難く貰っておきますね」
半べそ気味な藤代だったが、
「あらま。悪気無いんだよね…(しても…可愛いを貰っておくなんて…結構図太いのかしら?藤代ったら)」
そんな図太さ全開の藤代には乾いた笑いを浮かべて、短く返す。
「それ以前に字間違って居るぞ藤代…ホローじゃなくて…フォローだ」
「キャプテン…論点はそこでは、無いと思います」
三者三様の言葉に言い合っていた者全ての動きが止まった。
シーン。
おかげさまで、何とも言えない微妙な空気が流れる。
「「「はははははは。まぁ良いか」」」
一度静まり返る場が、乾いた笑いと共に動き出す。
気を取り直して…一歩三上は、というと…。
鼻歌混じりに三上は、CDROMをパソコンに入れてゲームを始めるべく起動させた。
そんな三上の様子を見て、は何となく嫌な予感が胸を過ぎった。
(三上が鼻歌…ヤバイ…絶対何か有るよきっとm(__)m)
そう感じる。
思わず先程までバトルしていた、藤代と傍観者を決めこんんでいた笠井に目をやった。
すると…。
三上を見てプルプル小刻みに振るえ…何やらこの世の終わりが来るかのようにブツブツ譫言を口にする藤代。
それとは逆に、平然な顔の中に冷や汗をタラリと流す笠井の姿が目につく。
それによく見ると…笠井に至っては、ほんのわずかだけだが…引きつている。
(うわぁ〜後輩Sも怯えた感じだよ…。あの笠井君が…顔引き攣らせているし…三上は何を?)
後輩二人を見て、は益々不安が募ったのは言うまでも無い。
野生の勘全開に危機を感じたは、三上に向かって口を開いた。
「三上…」
「♪…」
声をかけただったが、三上の鼻歌に…出すべきはずの言葉を引っ込めた。
(で…出来ない…私には出来ない…こんなに楽しそう…というか…デビスマなのにやけに楽しそうな三上に…聞けないわ)
背中にダラダラと冷や汗を流したは切実にそう思った。
そんなの代わりに、この状態を打破した人物が約1名程。
勿論キャプテン渋沢である。
「三上、やけに楽しいそうだな。そんなに楽しいゲームなのか?」
渋沢が楽し気な三上を見て、何となく気になったのか尋ねて居た。
を含めた三人は、渋沢のふいな質問に固唾を呑んで見守っていた。
(流石渋沢だわ。三上のその姿に動揺しない何て…流石武蔵森の守護神(?)て感じかしら)
とか
(キャプテ〜!流石ス。三上先輩にそんな事平気で聞けるのはキャプテンいがい居ないス。本当凄いな〜)
とか
(色々な意味で最強なのはキャプテンだろうな〜…伊達に3年間三上先輩の子守をしていた訳じゃないと言う事なんだろうな〜)
と三者三用な答えの中にも、失礼な事が混じりながら…心の声はひっそりと、響いた。
「楽しい?まぁ〜楽しいんじゃね〜の」
「何だよ〜三上。やってないの?クソゲーだったらどったらどうするのさ?」
「イヤ…コレは新作だから分からないって事だ。ゲーセンとかでは結構人気有るらしいし。ちなみにコレは景品で貰ったもんだがな。互いにやったこと無いソフトで、勝負した方が良いだろ?」
“バカ代辺りは、やったこと有るんじゃね〜のか”とご丁寧に藤代を見ながら三上はそう言い切った。
思わず其処にいた、人物は藤代に目線を向ける。
本人である藤代ですら、“俺スカ?”と指を指している。
「お前以外に“バカ代”って呼べる奴いるかよ」
「いやだな〜三上先輩ボケちゃって、俺は藤代誠二…武蔵森のサッカー部で先輩の可愛い後輩君です…ゲフン」
最後まで言葉を紡ぎきれないまま…見事な音が響き渡る。
スパコーン。
良い音を立てて藤代が地に沈む。
「そう言う所が、バカって言われるんだよ誠二」
と言いながら笠井は持っていたスリッパ(何処から出したのだろうか?)で地に沈めていた。
「やるな〜笠井」
見事なツッコミに(未来のキャプテンは笠井で決まりだな)等と思いながら、渋沢は感嘆の声を上げる。
そんなやりとりを見て、勝負するは独り溜息をつく。
「結局どんなソフトか聞けなかったよ」
カーペットの上に沈む藤代を見て、困ったようには呟いた。
−数分後−
「三上…アンタ…このゲームで練習してたでしょ!!」
地団駄を踏みながらは、三上に指を向けながらそう言う。
そう言われた三上は、ヤレヤレと肩を竦めてを見て口を開いた。
「何で俺がわざわざ練習するんだよ」
溜息を1つついて、三上が一旦言葉を切った後また…言葉を紡いだ。
「ブラインドタッチをしっかり出来れば、見なくてもキーボード何座叩けるものだろ」
「うっ…」
苦虫を噛み潰した顔をして、はキリっと三上を見る。
その悔しそうな顔を見た三上は、少しだけ表情を緩めて言葉を紡ぐ。
「…お前、俺の趣味知ってるか?」
「はぁ?三上の趣味?」
“プリンが好きなのは知ってるけど”と漏らしながら、は小首を傾げた。
「もしかして…パソコン?」
自信なさ気には呟くように口にする。
そんなに三上は不敵に笑う。
「そっ…ご名答」
「何よ!私だってパソコンで遊ぶの好きなんだよ〜」
三上の科白にはムッとした表情でそう詰め寄った。
三上を絞め殺すような勢いで…。
の詰め寄りに、やや冷や汗を流しつつ三上は短く答える。
「知るかよ」
どうやら、その言葉を出すので精一杯だったようだ。
それ程の気迫がから流れ出ていた。
「授業中なんて、普通の速度で打ってるじゃない!!しかも、かなり怠そうに」
「ああアレな…アレ授業の課題終わって、ちょっとした手伝いをしていただけだ」
「部活のミーティングで使う資料の清書を、三上にパソコンでやってもらっていたんだよ」
「そりゃ〜怠そうに打っていても、可笑しくないんじゃね〜のちゃん」
嫌味タップリ含ませた声音で三上はにそう言った。
(いや〜の悔しがる顔)
「ああああ何ちゃん付けで呼んでるのよ三上。ソレ凄くムカツクわ!!!第一あんた等…授業をなんだと思ってるのよ!!それに…渋沢まで…笑顔で言うんじゃない!笑顔で!!それでもキャプテンなの!!」
悔し紛れにわめき散らすの言葉に、渋沢はタップリ間を空けてから…サラリと言葉を吐いた。
「残念ながらキャプテンだな」
その言葉を聞きいたは、明日のジョーの如く燃え尽きたように固まって動かなくなった。
そんなをよそに、三上とギャラリーは口々に言葉を発し始めた。
「さぁ〜て、約束だよな瑠姫ちゃん」
「約束は、約束だな。安心しろ、うちのサッカー部のマネをするには体力勝負だから…瑠姫で問題ないさ」
「約束ですよね瑠姫先輩」
「わ〜い!!瑠姫先輩マネ決定!!」
三上の表情はよく読みとれないが、心なしか嬉しそうなサッカー小僧共。
それをよそに、三上は少し悩んだ表情。
「藤代が喜ぶのって詰まんね〜な…しゃーね期間を2週間にしてやるよ。うんで、リベンジうけてやろうじゃね〜か」
完全に勝ち誇った顔で、三上は敗者であるを楽しげに眺めながらそう言った。
「チッ…」
は舌打ちをして、忌々しげに三上を見た。
(くっそ〜ムカツク…。飲み物に何か混ぜてやるんだからな…。それにしてもムカツク)と心の中やさぐれ全開で、言いたい言葉を飲み込む。
そんな恐ろしいことをが考えてると露知らず…渋沢は珍しい三上の申し出に不思議そうに言葉を紡いだ。
「珍しいな三上はが妥協策を出すとは…」
明日は雨か?と言いたげに、渋沢はマジマジと三上をのぞき見た。
「俺だって人の子だしな」
ニャリと悪戯っ子のような笑顔で三上は楽しそうに言い切った。
((よっぽど藤代(誠二)を喜ばせたく無いんだな))
三上の言葉に、渋沢と笠井はすかさずそう思わずにはいられなかった。
「そりゃ無いスよ三上先輩〜!!」
「くそ〜次は絶対勝ってやるんだから〜!!!」
夜も更けかける武蔵森の寮の一室での雄叫びと藤代の悲痛な叫び声だけが、大きく響いたという。
ゲーセンに毎日のように通う、の姿が有ったとか…無かったとか…。
三上にリベンジする日は、そう遠くないかもしれない。
おわし
2003.4.19 From:koumi sunohara
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