<16900HITで桐島様からの頂き物>




2月上旬




立春を迎え、肌寒い日から日当たりの良い季節に移り変わろうとしている時期




此処、世界中のちょっと変わった美青年を集めた暗殺集団ガンマ団では




「心は真冬だーーー!」




と叫ぶ団員達が後を絶たない・・・・




そして最も男の子達が騒ぎ出す日




2月14日はやってきた・・・・・・



『St.Valentine』




「おーいおい」




「何だよその呼び方;」





青年ハーレムは、中庭で呼び止められ立ち止まった

此処は昼食の休憩時間には人で埋め尽くされるが、今はめっきりといない

呆れた顔で振り向くと、そこには思った通りの人物が



ガンマ団では珍しい女性士官だ

今は日本支部でハーレムとチームを組んでいる

主に情報処理義務を行っていて、頭の切れはピカイチだ

将来的には教授の資格を取り、教諭として勤めたいという夢も持っている





「まぁ、おいでおいで」





と、 は手招きする

「俺は犬か・・・」と思いながらハーレムは怠そうに近寄る

ハーレムが首を軽く傾げると、 は後ろに回していた腕を前に移動した

その手には綺麗にラッピングされた箱が・・・





「誕生日兼バレンタイン。日本のしきたりに倣ってお菓子会社の陰謀に乗ってみた」




「愛が籠もってないな」




「愛は数字には表せないよ。とりあえずオメデトウ。今日からキミも20歳の仲間入りさ」





言祝ぎの割には妙に棒読み・・・・

幸か不幸か、ちょうど20年前のこの日、聖バレンタインの記念日に生まれたハーレム

一見覚えやすいように思えるが、大きなイベントでそれどころじゃない周りに忘れられることの方が多いかったりする・・・

今日だって起きてからこれまで、何かを貰ったり「おめでとう」の一つだって言われてない

そんなこともあってすっかり自分自身忘れていたハーレムは差し出された箱を受け取る





「祝って貰っている気がしない・・・・」




「気のせいだ」




「そうか」




「そうだ」





淡々と語るのは昔からの癖であって故意ではない

は胡散臭いが心から祝っているつもりだ

それはハーレムも重々承知の上だし、言葉ではああ言っているが実はかなり嬉しかったりする





「まっ、サンキュ」




「よろしい」





これでもチームメイト

お互い相手の性格はちゃんと把握している

ハーレムと は近くにあったベンチに座った

そして早速ラッピングを破るハーレム

綺麗にセロハンテープを剥がさず、一気に剥ぎ取る所は彼らしい





「おっ」





箱を開けると中には均等に並んでいるチョコレート

一つ一つデザインが凝っていて見るからに高そうだ

実は数日前、お得意の情報収集でこの時期最も人気のある店を調べた@@

そこの限定品は評判が良く、朝早くから店頭に並び手に入れたのがこれだ

いつもだったら絶対にそんなことはしない

彼女は毎年、手っ取り早い方法をいつも使っていた

しかし、今日は特別・・・・・

そんなことはつゆ知らず、一つ手に取り口に放り込むハーレム

彼にとってはブランド物の高級チョコも駄菓子屋の5円チョコも同じような物なのだろう





「ん、上手い」





ビターチョコが口の中に広がる





「ホントだ」




「だろ・・・・Σって、何食ってんだよ!!?」





ハーレムが知らぬ間に、盗み食いを働いていた

怒鳴るハーレムに対し、 はあっけらかんと





「私が買ってきたんだ。食べようが食べまいが勝手だろう」





と、自分に非はない主張




「俺が貰ったんだから所有権は俺にあんだよ。そう法律でも決まってんだ!」




「最初から私も食べる前提で買ったんだ。大体常識はずれの人間が法律を語るな!」




「何でだよ」




「何でもだ」





どっちが正しいかは、ハッキリ言って書き手にも分からない;

しばし睨み合いが続き、こんな美味しい物をハーレム一人に食べさせてたまるかと は隙を見てチョコを取ろうとする

しかし、ハーレムはヒョイッと箱をどかし、それを阻止する

が取ろうとすればハーレムがどけるの繰り返し繰り返し

そのお互い大人げない、長い攻防戦が続く

埒があかない は一瞬諦めたように見せかけ、ハーレムが油断した隙に





「あっ!」




「あ?」





二時の方向に指を向ける

古典的な作戦だが、それにハーレムは面白いほど引っかかった





「隙有りッ!」





バシッ





ハーレムの気が紛れたのを見て、 はどこから出したのかハリセンを振り下ろした

気持ち良いくらい、いい音を立てるハリセンの音

どうやら打ち所が良かったのだろう

いや、本人にしてみれば悪いのだが、展開的には良い

「くあっ!」と、頭を抱えハーレムは飛んでく意識を無理矢理引き戻した





「悪い・・・力の加減が・・・」




「ホントに悪いと思ってるか?」




「いや」





あっさりと否定した

の態度にハーレムは眉間にしわを寄せる





「そう嫌な顔するな。お詫びに食べさせてやろう(にやにや)」




「は?」





素っ頓狂な声を上げるハーレム

は箱から一つチョコを取り、ハーレムの口元まで持ってくる





「ほら、口開けろ」




「あ?んなことしなくても自分で食える・・・」




「照れるな照れるな」




「照れてねぇッ!!」







本当は恥ずかしくてたまらない

が自分をからかっているのは分かってる

必要以上に接近する に、こんな所を誰かに見られたらという焦り

それを誤魔化すために声を張り上げるが、それも見透かされているようでホント嫌になる





「早く食べないと、体温でどんどん溶けるぞ」




「じゃあ自分で食えよ」




「私は糖分を十分接種した。ごちそうさま」




「・・・・・・」




「口を開けないなら腹部に一発入れて無理矢理開けさせるという方法もあるんだが・・・」




「食べます」




「良い子だ」





どうも自分は子供扱いをされているように感じる

タメなのに・・・・

渋々口を開けるハーレム

ほのかに頬が紅潮している





「ん・・・・・」




「美味しいか?」




「・・・あぁ」




「ははっ、やっぱり渡し甲斐があった」




「?・・・・・」





ハーレムの反応に満足したのか、 は笑顔を見せる





「あっ・・・そういやサービスにもこれ渡したのか?」





ハーレムはふと思い出したように、自分の双子の弟サービスの名を上げる

当然の事ながらサービスも2月24日に生まれた男

あげていてもおかしくない





「サービスがチョコレートを貰って喜ぶとは思わなかったんで、朝のティータイム時に顔を出したんだ。その時、愛情たっぷりのお茶を一杯注いでやった」




「それだけか?」




「うん。サービスも「ありがとう」と言ってたし、十分だろう。それにあいつなら何も言わなくって他にくれる人がいるだろう」





此処で「俺にだってプレゼントの一つや二つ、くれる奴は五万といる!」とは言えないハーレム

悲しいがこれが現実

双子の扱いはよく分かっている

サービスには金で買った物より行為で示した方が効果的だ

それに彼なら自分で欲しい物は、自分で買えるだろう

むしろ欲しい物なんてあるのかと聞きたい

「ん?・・・」とハーレムはあることに気がつく

からチョコを貰ったのは俺だけか?

だとしたらかなり嬉しいが・・・・その証拠は何処にもない

もしかしたら高松や他の誰かにあげてるのかもしれない

でもバレンタインデーに日本では義理チョコという物を上げる習慣があるらしいが、ハーレムや の故郷イギリスでは本命の人だけに贈り物を贈る

もし がその事を知っていれば話は別だが・・・・

ハーレムの中にちょっとした期待が生まれた





「あっ」





中庭の中心にある時計塔の時刻を見て は立ち上がる





「レポートし上げないとな・・・・明日までのが残ってるんだ」




「ふぅん・・・大変だな」




「大変だなって余裕だな。ハーレムはもう終わったんだ」




「え・・・・・って俺もか;」





とハーレムは同じチームな訳だから任務時に出る課題も同じだ

その事をすっかり忘れていて、余裕綽々だったハーレム

実は一枚も仕上げてない・・・・





「今日は徹夜だな。チョコには脳が活性化させるブドウ糖が含まれているからちょうど良いぞ」


























「はぁ・・・全くしつこい奴だ」





あれから「写させてくれ」とハーレムにしつこくつきまとわれた

それから何とか逃れ、やっと宿舎に戻ってきた





「ん?・・・・」





部屋の鍵を取り出そうとして、足下にある何かに気づいた





「薔薇?・・・・」





そこには真紅の薔薇の花束がドアの前に置いてあった

他の部屋からは離れてるし、自分宛には間違いない

もしかしたら届け間違いという事もあるかもしれないが・・・・

は花束を手に取った

そして、メッセージカードが挟まっていることに気がつく





「『From someone who loves you』・・・・・」





イギリスではバレンタインに名前を明かさず、イニシャルや匿名で贈るのが一般的だ

こんな事をするのは・・・・・





「気障な奴・・・・・」





そう言った の顔は、いつになく嬉しそうだった


















おまけ





「大変そうですね・・・・くくっ」




「・・・・・・・(怒)」





ハーレムは腹立たしい気持ちを抑え、ペンを走らせる

高松はルームメイトが苦労している姿が愉快で仕方がない

言うまでもなく高松はとっくに課題が終わっていて、あとは提出のみ

彼が見せてくれるとはハーレムもはなから期待などせず、自力で何とかやっていた





「色惚けている暇があるならやることやってしまいなさい」




「!!・・・・・高松ッ!」




「あんな公共の場でイチャイチャしてれば目立つのは当然でしょう」




「〜〜〜〜〜〜〜」




「4万で手を打ちますよ」





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