西都
−別名を知るよりも重要なのは…別なコト−




バタバタ、ドタドタ。

そんな擬音が静かな越前家に響きわたる。
ムーの移動か?はたまたゲルマン民族の大移動か?何て思うわさせる揺れと音に、自室に籠もって居たリョーマはヤレヤレと肩を竦めて溜息を吐いた。

そして…。


(こんなに落ち着きのない奴は一人しか思い当たらないよな。嗚呼今度は何をしでかしたわけ?)


同居人、 赤月 巴の突拍子のない行動力に…イヤな予感全開にリョーマは思う。
そのリョーマの予感ならぬ予想は、ノックなしに壊れるんじゃないの?と思えるほどの勢いであけはなたれた。


(普通はノックして入るんじゃ無いの?って…此奴に常識は通じないもんな…)


心の中で一人呆け突っ込みをするリョーマ。
そんな事を思われているなど露知らずの 巴は、赤穂浪士討ち入りよろしく凄い形相でリョーマの所までやって来た。
来ることは予想していたリョーマだが、 巴の迫力に少しビビッたのか少し逃げ腰である。


逃げ腰のリョーマを逃がすまいと言った様子の 巴は、彼の肩に手を伸ばしながら言葉を紡いだ。


「リョーマ君!西都に手塚部長が流されるって本当」


リョーマの肩をガシリと掴み、揺さぶりそうな勢いで巴はリョーマに尋ねた。
否尋ねると言うには謙虚さは皆無なのだが…。
兎も角、そんな 巴の言葉に捕まれているリョーマは少し表情を引きつらせながら彼女を見る。


「はっ?西都?何処そこ」


巴の言葉に心底分からないと言った調子でリョーマは彼女を見た。
すると 巴は意外な表情をしながら口を開いた。


「西都って言ったら一つしかないでしょ。リョーマ君日本人のくせに分からないの?」


「あのさ…俺帰国子女だし…あんまり日本の事詳しく無いんだけど」


「あっ。そっか」


ポムと手を打って納得気味にそう言った。
そんな彼女に小さく溜め息を吐いたリョーマは「で?其処は何処な訳?」と 巴を促した。
そのリョーマの促しの御陰か巴は、ボソリと言葉を発したのだった。


「えっと…そうそう確か九州の事だよ。西都は…そう九州だよ」


「ふーん九州ね…まぁ九州には行くよね部長」


「そうだよね行くよね…じゃ無い!」


リョーマの言葉に納得しかけた 巴だったが、突然一人呆け突っ込みの様に声を張り上げた。
まぁリョーマは何時もの 赤月節だという事に慣れているのか、動じずに淡々と言葉を続けた。


「あのさ大げさに言ってるけど。お前だって聞いていたじゃん部長の九州行き」


その言葉に 巴は、過剰に反応を示す。
リョーマに掴みかかり、ユサユサと揺さぶる 巴。


「嘘〜聞いて無い、聞いてないよ…リョーマ君は手塚部長のお気に入りだから知ってるんでしょ。私は知らなもん」


前後にスイングするリョーマにお構いなしに、 巴は理不尽な言葉をぶつけながら尚も揺すり続ける。
リョーマはクラクラする頭をどうにか堪えながら、 巴から何とか間を置いて言葉を紡ぐ。


「部員全員の前で、先生と部長が言っていたけど。つーか 巴だって居たじゃん」


疲れ切った表情のままリョーマがそう言えば、 巴は少し顔を引きつらせた。


「そうだったけ?いや〜覚えが無いなぁ〜ははははは」


わざとらしい笑いのオプションを付けて、 巴はリョーマに返す。
リョーマは、そんな 巴の笑いに益々呆れた様子で言葉を紡ぐ。


「間違いなく言ったし。何なら竜崎とかにも聞いて見れば。恥かくのお前だし」


“俺関係ないし”と付け足してリョーマは言う。
キッパリと言い切られたリョーマに 巴は、少し焦りながら言葉を紡ぐ。


「いや其処までわ…。恥は此処で止めておかなきゃでしょ…」


そして…。
“それでは、お騒がせしました”語尾も弱気にそう言って、入ってきたドアからこっそりと出て行った。


足早に去っていた同居人の居なくなった後を確認したリョーマは、深い溜め息を一つ吐いた。


「痴呆に走るにはまだ早いと思うけどね」


まるで台風一家が去っていた後のように、静かになった部屋でリョーマは小さく呟いたのだった。


その後リョーマが巴のあの発言が乾先輩の入れ知恵が発端だという事を知るのは、もう少し先の話だった。
ともあれ、巴の西都騒動は呆気無い幕切りで終えたのだ。


おわし


2004.9.29. From:Koumi Sunohara







★後書き+言い訳★
今更ながら、手塚部長の九州ネタ。
モエりんなら、案外聞き逃して慌てそうだと失礼ながらこっそり思ったのでこんなお話になりました。
しかし相変わらず我が家のとモエりんは、リョーマ君相手に凄いことしてますね(汗)。
はたして余所様の巴嬢は、どうなのかな?とちょっぴり気になりますが…私の書くこの子はきっと変わらないだろうな(笑)。

ともあれ…こんなお話ですが、楽しんで頂けたら嬉しい限りです。


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