Like asking for the moon
−原 涼香の場合−


女の子らしい可愛らしさ


標準の身長


女子特有のソプラノ


もしも、それが手に入ったなら世界はもう少し楽しいのだろうか?




一般的な女の子の様に、私は可愛いものが好きだったりするけれど、周りからはきっとらしくないと言われる違いない。

何故なら私は、女子としては高い身長と低い声。好きでなった訳では無いけれど、私の容姿と初対面のイメージはきっとその一言に尽きるのだから。

他人のイメージなど気にしなければ良いのだけど、子供は大人よりもストレートで残酷だ。本人の気付かない内に線引きをして、異質なものをより分ける。

そして、勝手なイメージというか役柄を押し付けるのだから堪らない。


「涼香ちゃんは、男の子なんか目じゃないぐらい格好良いわよね」


可愛らしいという形容詞がよく似あいう、クラスメートの女の子がキラキラした瞳でそんな言葉を口にする。それを皮切りに、口々とほかの子達も同意してくるから堪らない。

あれよあれよと言う内に、女の子なのに王子様扱い。宝塚の男役の様に、そんなイメージを求められる。


その時点で、嫌だとか拒否をできなかった私にも問題はあるとは思うけれど、それが嬉しかったなんて思ったことは一度も無い。これは声を大にして言わせてもらいたい。

自分のイメージが独り歩きして、沈殿物の様に少しづつ私に溜まってゆくにつれて、私も少しづつそれに毒されていくような、何かにからめ捕れるような気持ちになった。

自然と可愛い格好から遠ざかり、女の子らしさを隠す様なった。女の子が着用しなくてはいけない制服を着ることさえ、違和感を感じるようになった。

そんな折に私は、真田副部長に出会った。



女だとか男だとか…そんな事を抜きに、原涼香として見てくれる人に出会った。

例え一人の女の子として見てくれることなくても、原涼香として見てくれる人が居るだけで、私の心は軽くなった。運命という一言でかたずけるには陳腐に思えるけれど、当にその言葉が適切だと感じる。

その私を私と見てくれる真田副部長は、テニス部の全国制覇を目標にかかげていた。私はこの時自分が他人より運動能力が優れていたことに…コンプレックスである身長が武器になることを心の底から嬉しく思った。長身から繰り出すサーブの威力は、小柄な女の子が多い中学テニス界にとって有利に働く。

勿論、ポテンシャルだけに頼る事はできないし、テニスも昔からやっていた訳ではないから人以上の練習はしてきたつもりだ。


そして立海で手に入れた原涼香という人間の地位。

例え同性から憧れの対象とされても。

例え男子からのイメージが良いものではなくとも。


それで良いと思っていた。そんな矢先に、私の心を揺さぶる子に出会った。
奇しくも、ミスクドの学宿で。

ああ…これこそ理想だ…そう思わせる子に私は出会ってしまった。

大きな瞳に、大和撫子を思わせる控え目な雰囲気、可愛らしい声に小さな身長、見るからに保護欲にかられる、可愛らしい女の子。竜崎桜乃という少女に。

どうみてもテニス初心者で、おっちょこちょいで、甘い砂糖菓子に似た雰囲気を醸し出している子。同性から見ても、ほっとけなくて手を差し伸べてしまいそうなほど。

性格が悪ければ嫌いにだってなれるけど、素直で純粋で…出来ない自分に泣きそうになりながらも努力をしている姿を…誰が嫌いになれるだろう。

(自分が男だったら間違いなく、この子の様な子を好きになるだろう)

自嘲気味にそう思わせる程、竜崎さんは私の理想そのものだった。

けれども、その子は私や明らかに野生味溢れる赤月巴のようになりたいと思っているから、世の中上手くいかないものだと思う。

(良いじゃないの可愛い女の子なんだから)

そう心底そう思うのに、その子は一生懸命だった。内気な自分を変えようと…テニスを上手くなろうと。

似て異なるけれど、それはどこか自分と似ていて。
本当に他人の芝ほど良く見える。

もしかしたら、私もあの子だとしたら…同じ思いをするのかもしれない。
それは、本当の所自分以外は分からないけれど。

けれども、少しだけでも羨むし願ってしまう…甘い砂糖菓子に似た雰囲気を醸し出している子になりたいと思うことを…。



2009.7.2(web拍手掲載)  2005.1.19.(改訂) From:Koumi Sunohara





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