嵌められた計画


霊力が無い自分に何故賢人機関は選んだのか…それはきっと経済力の所為だったのかもしれないが。
幸か不幸か…現実的では無い、伝承やオカルト的な事が嫌いではなかった。
寧ろ自分に無い故に求めたのかもしえれない。

ともあれ、そういった流れから賢人機関の中に自分は入っていたのかもしれない。

しかしながら、実際の霊力を研究している人間に比べれば月とすっぽん。それに、自分に才能は無い…あるのは経験と万事に対応するための布石の用意。
大抵の事は、下準備をし策を張り巡らせれば、何とかなる。

自分には霊力や運の良さがある訳では無いのは従順承知だから、自分の出来る事をしてきたつもりだ。

だから、この度紐育に訪れるであろう驚異に対しても、万全の状態で対応するために、策を投じた。都市防衛のスペシャリストである日本の大神一郎を招き、紐育星組を強化をするそう言う計画だった。

霊子甲冑もバージョンを上げ、飛行できるように改良し、すぐに敵を解析できるようにシステムも高度を上げた。

そう都市の防衛のスペシャリストいればすべては完ぺきだった。
否、呼ぶ事は決定事項だと言うことが正しい。

日本、里巴そして我ら、紐育。順番としても申し分無く、都市防衛のスペシャリストである大神一郎が来るべきはず、それが、何故か彼は来なかった。

頼んだ荷を開いたら、違うものが出てきたよう喪失感である。

(何故、紐育に来ない?巴里には赴任したというのに)

二都市の隊長であり、日本の総指令である大神の多忙は認めよう。日本のみの隊長なら、諦めてやらない事は無い。
しかし、彼は里巴に赴任した経緯がある。

我が紐育だけ、例外とは些か納得できない。
紐育を除く、二都市は現在平穏と言って差し障りが無い。ならば、大神が来ない理由が解せない。

更に、大神の代わりと言って日本が送ってきたのは、年若い日本の少尉。よりにもよって、何の実績も無い日本の若き少尉を変わりに寄越すのは言語道断団と言える。

送られてきた大河新次郎は、人格は申し分無い、よい子ではある。確かに、やって来た大河君は霊力は申し分ない…戦力とするのは良い戦力となるだろう。

だが…欲しいのは指揮官…ラチェットを支え、星組を導く指導者が欲しいのだ。始まったばかりの新組織を導くそんな存在が必要なのだ。そうなると、大河君では荷が重い。

まぁ確かにミスター大神と僕とでは相性は悪そうだが…。
それを踏まえて、大河君とミスター大神が来るなら分かる、なのにこの騙し討ちは何だ?

はいそうですかと…引き下がれる筈もなかった。

そんな訳で僕は、帝都、巴里に通信を使って異議申し立てをしたのだった。


定例会議の場を設けた。

「ミスター大神。いったい全体どうゆう仕打ちですか?」

「サニーサイド指令、俺は騙し打ちなどしたつもりはありませんよ」

帝国軍人らしい、淡々とした表情でミスター大神は、そう返す。

「紐育からの要請は確かに俺との事でしたが、賢人機構としては俺でなくても良いとの見解でした。見ての通り俺は、帝都並びに巴里の隊長を務めていますしね…前指令より総司令の任を任されました。帝国軍人としてその任を投げ出す訳にはいきません、それはおわかりいただけるでしょう」

「分からない事は無いですがね」

下がりもしない眼鏡を少し持ち上げて僕は平静を装ってそう紡ぐ。

「大河新次郎は、俺と同等…霊力の持ち主です。それに若い、今後を担う者となる。そもそも俺も初めは、大河少尉と同じ状況下から始めました。帝都と側としても、これが最大の譲歩としているんですよ」

ミスター大神は軍人らしく冷静な声音でそう紡いだ。
そんなミスター大神に援護する様に、巴里のライラック婦人が静かに閉ざしていた口を開いた。

「そうだねムッシュ大神の言う通りだ。我ら巴里だって、ムッシュ大神の様な人材が自国に居れば、良かったと思うよ。それにね、巴里に赴任したムッシュ大神だって、最初は認めれれなかったけどね、今は無くては成らない存在さ。ムッシュ・サニーサイド。アメリカ合衆国は、開拓者の集まりなんだろ?それなら、新たな開拓者を育ててごらんよ」

幼子に言い聞かせる様に紡ぐ言葉に、恐らく偽りは無いであろう言葉。
けれど僕はそれに納得する訳にはいかなかった。

「時間がね…無いんですよお二方」

溜息を吐きながら紡ぐ言葉。
珍しく弱気な口調だった。

それでも若干の弱音を含む音が出ようとも、やさしい言葉など出ようはずもなかった。

「時間?そもそも、ムッシュの所には優秀な隊長が居たはずだよ。確かブロードウェイの女王、ラチェット・アルタイルが居るだろう?花組の雛形である欧州星組の隊長がね。そんな子が居るのにムッシュ大神を寄越せと言うのはおこがましいね」

鼻で笑うと様に、ライラック婦人は言葉を返す。

(確かに…ラチェットは優秀だ…だが彼女霊力は長くない…何時尽きるかもしれない…それならば保険は大いに必要なのだ。まぁ言える訳も無いけどね)

心の中に、そんな思いを抱きながら両者に返す。

「お言葉ですが、脅威は目の前に迫っているんですよ。ラチェットがいくら優秀であっても、補強と保険はいくらあっても良いぐらいだ。そうは思いませんか?」

「そう言われると思いまして。月組隊長である加山をそちらにお送りしてますよ。それで足りない補強は事足りるはずですが?」

僕の言葉の逆手をとるように紡ぐミスター大神。
確かに彼の言うミスター加山の腕前は認めるが…彼はあくまで諜報機関のスペシャリスト。
ラチェットの変わりにはなり得ない。

しかし彼は、僕らの台所事情を知らない…そう考えると最大の譲歩と言えるのだろう。

「へームッシュ加山を付けたのかい?それはまた。そうだね。ムッシュ加山も付けているんた、寧ろ多いぐらいだよ」

「確かにテーブルの理論でいえばそうかもしれませんがね。若い大河君が欧州星組の闇を支える事ができますかね?1年の経験その後に欧州星組と接触した大神には1年の経験がある。しかし彼には無い。隊長としてでは無い大河君の力は認めましょう。しかし、自国でも指揮を執ったことのない彼に任すには無謀といえると指令として考えるですよ」

ライラック伯爵夫人にそう言い返すと。夫人は大きなため息を吐いた。

「ふー。これでは、何時までたっても埒が明かないね。来れないものは来れないのだからあきらめたらどうだい?」

「諦められるものなら、このようにお二人方を話の舞台に上げませんよ。諦められないから、このような場をつくっているのです」

そう返すとミスター大神は、小さなため息を一つ吐いたかと思うと言葉を紡ぎだした。

「そうですか。サニー司令の言い分もわかります。では、俺と賭けをしましょう。もし大河新次郎が思うような戦果を上げれないのであれば、貴方の勝ち。そうなれば、俺がそちらに行きましょう。その逆なら俺の勝ち、俺は紐育に行かず大河少尉が隊長の任に就く。それまでに、あなたの目に適う他の隊長が出てくればそれでよし…これが俺から出せる最大の譲歩です」

キッパリと言い切るミスター大神。

「ムッシュ。そんな約束をして」

ミスター大神の言葉にライラック夫人も少々焦った声音だが、彼の意志は揺るがなかった。

「俺としても、新次郎…否大河少尉を紐育に送り出すにいたる経緯の中色々考えてきました。前司令である米田中将にも相談を繰り返しました。その経緯を踏まえて、あいつなら問題ないと判断をしています。甥である面を抜いても必ず大河新次郎は紐育になくてはならない存在になるでしょう。それができないのであれば、お望みとおり俺がそちらに向かいます」

射抜く様な目で、そう告げる。その姿勢を見た僕はそれ以上交渉しても無駄だと感じた。

(まったく、勝機のない勝負だとは思っていたが…ここまで予想通りだと何だか癪に障るものだね)

大きなため息を吐き、彼人物に言葉を返す。

「OK。乗りましょう…というより、それしか選択肢が無い。まぁ、大河君が問題なく隊長の器があればこちらとしてもも儲けものです。賢人機関としてもね。数度にわたって都市の防衛を果たしているミスター大神を信用するも悪くない。僕が他の紐育のメンバーに怒られるぐらい安いものですしね」

大げさに手を広げてそう言い返せば、彼の人物は頬を少しゆるめた。

「それでは、サニーサイド指令。大河新次郎をお願いします」

折り目正しく礼をする姿は、先ほど自分を言いくるめた人物とは思えない雰囲気があった。

「善処しましょう。まぁ…僕に託した時点で大河君がどのように成長しても苦情は聞かないですがね」

強がりの言葉を口にすると、ライラック夫人とミスター大神は何とも言えない苦笑を交えた表情になった。そんなことも構わずに僕は、彼らとの通信を終わらせたのであった。

「やっぱり無理か。まぁ、あの大神一郎から、賭けの話を持ち出せただけ良しとするかね」

通信を切った僕は、背もたれにだらしなく体重をかけながら、思わずそんな言葉をこぼした。

紐育にとって大河新次郎が無くてはならない存在になろうとは、正直この時の僕には想像だにできなかった。色んな意味でね…。



おわし


2009.3.17.FROM:Koumi Sunohara


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