大切な主君
私の只一人の主
私を照らすそんな…唯一の君主
あの方の為ならば…何も厭わない…
そう思う剣に誓った唯一人のあの方
大事な姫様
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本当は分かっていた。 お優しく聡明なギネヴィア様ならば、騎士である私の為に…こっそりと出て行った事ぐらい。
それでも私は、悲しかった。 結局自分は、ギネヴィア様に信用が無かったのかと…。 自分の忠誠がその程度に過ぎなかったのかと言うことが…何よりも悲しかった。
ギネヴィア様だけ居なくなったらそれはそれで、大問題であるが…姫の選んだ相手が姫付きのシスターのエレンだった事に私は嫉妬すら覚えた。
そんな最中、行方不明だったギネヴィア様が敵国の魔導将軍と共に居ることを聞きつけた。 勿論我が王…
それは一つの賭けだったのかもしれない。 姫様が剣を持って、必死の形相で私を見たあの瞬間私の取った行動は…
「な なにをなさいます!剣など持たれては あぶのうございます!」
「ミレディ お願い私を見逃して!」
そう言われた瞬間私の中で、姫のしたい事が瞬時に分かった。 ゼフィール王に背を向けても、せねばならない事をしようとしていると言う事に。 だからこそ私は慎重に言葉を選び姫に言葉を紡いだ。
「!! もし・・・ 見逃したとしたらこれから どうなさるのです?」
本当はこの疑問の答えなど知っている筈なのに私は慎重な言葉で姫の様子をうかがった。
「・・・リキア同盟軍の ロイ様が近くまで来られていると聞きます・・・」
控えめながらギネヴィア様は私の予想通りにそうお答えになった。
「敵に走られるというのですか!」
戒めるように言葉を紡げば、姫は今度は迷いのない意志の強い瞳のまま私の言葉に反論すべく言葉を紡ぎ出す。
「このままでは世界が・・・ベルンの・・・お兄さまの軍に飲みこまれてしまうわ。どのような理屈をつけようとも今 兄のしていることは 力による支配です。そのようなものの行きつく先が良いものであるなどとは・・・とても思えないのです。お願いです ミレディ私を見逃して・・・ここから逃して」
切迫する気持を込めるように、姫の言葉は悲しさを帯びていた。 痛いほど分かる彼女の決意と自分自身ではどうすることも出来ない歯がゆさ。 それでも…巻き込まれてしまう弱き者を守りたい…。
(貴方は…どこまでもお優しく気高いお方です)
「ですから 私に願いなどなさらず一言 「ここから逃がせ」とお命じになれば私はよろこんでギネヴィア様の命令に従いましょう」
剣を姫から遠ざけながら、私はそう言葉を紡ぐ。
「ミレディありがとう・・・」
「姫…お願いが御座います」
私は膝をついた状態で姫様にそう述べた。 王妹殿下は、不思議そうに顔をかしげ私を見返した。
「例えベルンと争うことになろうとも。それが肉親や誰であろうとも…唯一人の貴方を守る事と忠誠を誓うことを…お許し下さいませ」
「それではミレディが不利な条件に…」
言いかける姫様の言葉を遮る様に言葉を紡いだ。
「幼き日に貴方に忠義を誓ったあの瞬間から。私の命と忠誠はギネヴィア王妹殿下に捧げております。誰かに刃を向けるのに躊躇したり苦しむよりも…王妹殿下に信頼されぬ方が苦しく悲しく思うのです。ですから、どうか…この忠誠にお応え頂きたく存じます」
姫が私に…真剣に思いを伝えてくれたように…真っすぐ目を背けずに私は姫様にそう告げる。 姫はコクリと頷いた。
私はそんな姫を促すために言葉を紡ぐ事にした。このままこの場に留まっても良いことが無いからである。
「さぁ急ぎましょう。ぐずぐずしては、不審に思った者がでるやもしれませぬ」
「有り難う…有り難うミレディ」
思わず泣きだしそうな顔の姫に私も少し泣きそうに感極まったが、それを止め今言うべき言葉を紡いだ。
「姫…急がねば…本当に他の者に気づかれてしまいます」
そう急かす私の言葉に、ギネヴィア様は戸惑っていた表情から…凛とした表情で私の瞳を見据えて言葉を紡がれた。
「どうか私を信じて付いてきて…。私に出来る事は少ないでしょうが…それでもミレディには信じてもらいたいの」
欲しかった…たった一言。
いままで心の奥に堪ったドロドロした感情は…綺麗に消えていた。
私は今度こそ姫を背に、姫が希望だという…リキアの将の元へ竜を急がせた。
おわし
2005.3.8. From:Koumi Sunohara
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