花ふる道
− 始まりの坂 −



春が来て季節は進みやがて冬がやってきて…また春になる。
巡りゆく季節…繰り返される日常生活。
そして…私は今年、二度目の三年生になります。


だから知ってる友達は居ないのです。
そう考えると不安ばかりが募りますが、お父さんが笑いながら私を送り出してくれました。


「渚よ。お前は今日転校してきた転校生だ。だから気楽に行ってこい」


と…そんな助言を私にくれて。
私を勇気づけたのです。

なので私は、お父さんの言葉に後押しされるように学校に向かいました。
心配もかけたくないのも有りましたが、お父さんの言葉が何だか妙に納得できたから私は初めの一歩を出すことが出来たのかもしれません。


そうして歩き出した私の新しい学校生活のスタートを切る日は本当に良い天気でした。
だから学校に行く道のりは快適です。


目に映る世界は優しい色に包まれていましたし…暖かな日差しがアスファルトを照り返し、歩いている足下も何だか暖かい気分。
時たま吹く風が春の香りを運んでくれている。
そんなスタートを切ったのです。


(もうすっかり暖かいです。花や土の香りが心地よいです)


大きく空気を吸って私はしみじみとそう思います。
本当に春の日差しはこんな私にも優しいのだとしみじみと感じました。

ヒラリヒラリ舞う桜の花。
その中を歩きながら私は不意に思い浮かびます。


(まるで雪の中を歩いている気分になります)


フーッと小さく溜息を吐いて私は学校に続く坂道を見やりました。長い長い坂の先に小さくのぞむ建物が私の目指す場所です。
だけどその場所は私にとってとてもとても遠くに感じるのです。


(この坂を登りきれば学校なんです)


言い聞かすように心で何度も言葉を繰り返し、真っ直ぐ学校を見据えて私は歩き出しました。
ですが…一歩一歩重い足取りで学校に続く坂に近づきますが、私の足は魔法がかかった様にピタリと動かなくなってしまったのです。

私はそんな自分を勇気づけようと小さく言葉を呟きました。


「この学校は、好きですか」


自分で自分に言ってるわけですから、答えなんて返ってくるはずもありません。
ですが私は構わずに、自分自身に問いかけたのです。


「わたしはとってもとっても好きです。でも、何もかも…変わらずにはいられないです。楽しいこととか、嬉しいこととか、全部。…全部、変わらずにはいられないです…それでも、この場所が好きでいられますか?私は…」


自分に言い聞かす様に思わず言葉を紡ぎ出しました。
意気地のない私には、そんな方法しか思いつかなかったのです。

ですが返ってくる筈のない答えが何処からともなく聞こえたのです。


「見つければいいだけだろ」


不意に自分以外の男の子の声に私は驚きました。
何故なら私は私一人だけしか此処に居ないと思っていたからです。

そんな驚きと戸惑いいっぱいの私に構わずその人は、私の為に言葉を続けてくれたのです。


「次の楽しいこととか、 うれしいことを見つければいいだけだろ。あんたの楽しいことや、うれしいことはひとつだけなのか? 違うだろ」


迷い無くまっすぐ紡がれたその言葉は、今朝お父さんがくれた言葉のように私の胸にストンと落ちてゆきました。
そして私は見ず知らずのその人に縋る思いで見上げたのです。

するとどうでしょう?
彼は少し表情を穏やかにして、足踏みしてる私を促すように学校を指さしました。


「ほら、いこうぜ」


そう言って見ず知らずの男の子は私の肩をポンと押して、長い坂道に一歩を踏み出しました。
不思議なことに、固まって動かなかった私の足は彼の後押しの御陰か…その人を追うように動いたのでした。


「見つければいいだけだろ」


今はその言葉を信じて、桜が舞い散るこの坂道を…ゆっくりとした歩みでその男の子と歩き始めたのです。

長い、長い坂道を…。


おわし


2004.9.25. From:Koumi Sunohara


★後書き+言い訳★
しずかでやわらかい和のお題20番よりCLANNAD小話です。
ゲームでは岡崎君視点で始まるこの場面を、渚で書いてみたくなり突発的に出来たもの何ですけどね…。
いまいち渚ちゃんの言葉遣いなど掴めないまま終わりました。
修行不足ですね…第三者で書けば良かったと今更思いますが…私の文才ではさして変わらないかな。

ともあれ…こんなお話ですが、楽しんで頂けたら嬉しい限りです。


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