「正直他人の為に頑張れる自分なって想像がつかなかったんだ」
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俺岡崎朋也の生きてきた十数年。実に短いものだと思う。 それなのに俺は何処か爺臭いと言うか…悟りを開いた僧侶の様に何処か冷めた人間だった。
何に対してもやる気の無い…今時の若者。 他から見れば馬鹿者かもしれないが…。
兎にも角にも俺はそんな人間だった。 それには、それに至る経緯と言うものが存在するが…思い出すだけでも後ろ向きになるので宜しくない。
一言で言うなら、家庭環境と…何となく歯車がズレが…こんな後ろ向きな俺を生み出した要因なのかもしれないが…。
そう言った訳で、俺は何に対してもやる気もなく…投げやりな高校生だったりするのだ。
だからかもしれな諦め癖ばかりついているのは。 それだけが一番手っ取り早い逃避方だったからかもしれない。 何せ諦める事は簡単だ。
卑怯で…小さな人間だと思うが…結局思いつく逃げ道は、諦めと自暴自棄になることぐらい。 俺はそのどちらもしている本当にちっぽけな人間なんだと思う。
何となく学校を辞めずに…ダラダラと通い続ける。 同じ日常…遅刻何て毎度のことで、教師からの説教も有る意味日常に組み込まれる一旦。 家に帰れば、血の分けた他人の様な父親。
それでも救われるのは…何だかんだ言いながらつき合ってくれる親友って言うのか…相棒って言ったら良いのか枠組みに困るが…相方の春原の存在も大きいと思う。
彼奴も俺も、有る意味似ている。諦めと…運のなさ加減とか…微妙にリンクする境遇とかが…よく似てる。 でも似ているだけ何だ。
何故なら春原には、どうにかして駄目な兄を更生させようと必死になって頑張る妹の芽衣ちゃんと言う存在が居るんだから。 自分がどんな非道い目に有っても兄を見捨てない健気な妹が…。
その時に思った。
(俺は人の為にそこまでする事は出来ないだろう…)
そう思ったんだ。 実際に芽衣ちゃんが大変な目に遭ってるのを…助けることの出来る位置に居ながら…見守ることしか出来なかったんだから。 “出来ないだろう”じゃなく出来ないのだろうが。
そう言った訳で、俺と春原は似てるが違うんだ。 だけど、そんな事を芽衣ちゃんにポロリと零してしまった時…。 彼女は笑ってこう言った。
「似てるかもしれませんけど。岡崎さんは、兄よりしっかりしてますから…でも似てますよ…だから惹かれあうのかもしれないですね」
「惹かれ合うって…何か微妙な言い回しだね芽衣ちゃん」
苦笑混じりにそう言えば、芽衣ちゃんは「そうですか?」と首を傾げた。 そして…。
「でも私は岡崎さんが兄の友達で良かったって思ってるんです。だって私は何時も兄のそばに居れる訳じゃ無いですし…ああやって馬鹿な事をして笑いあえる場所が有るって幸せなことだと思うから」
「そうだな。俺も実は感謝してる…でも本人には言ってやらないけどな」
芽衣ちゃんの言葉に俺はニッと笑ってそう返す。 彼女は目をパチクリさせて、俺を見返す。
「ふふふ。そうですね…兄には言わない方が良いかも。お調子者ですから」
可笑しそうに笑って芽衣ちゃんが言う。 妹である彼女がそう言うのだから、まぁそうなのだろう。 兎も角、俺達はその後も他愛もない話を続けたりした。
そんな中別れ間際に芽衣ちゃんは嬉しい科白を俺にくれた。
「私も岡崎さんに会えたこと…本当に良かったと思ってるんです。妹が出来たみたいだって言ってくれたの嬉しかったんですよ」
ふわり笑って彼女はそう言った。 「何時か覆してみせますけどね」と本気か冗談とも判別しにくい言葉を残して、芽衣ちゃんは帰っていったのだが。
そう言った事もあって、春原共々芽衣ちゃんと時々連絡をとったりしてる。 まぁ寧ろ、イベント毎に芽衣ちゃんが色々とイベントに見合ったモノを送ってくれたりしてるんだが。
そして今回も彼女は律儀に俺の所にも小包を送ってくれた。 いわゆるバレンタインデーのチョコだ。 しかも有名なチョコ屋のチョコ。 凄い大奮発である。
芽衣ちゃんが大奮発してくれた、チョコと一緒に入った紙を見て。 俺は思わず笑ってしまった。
そのチョコって言うのがあの有名なゴディバのチョコレート。 別段笑う所では無いだろうが…俺は社名に使われたその由来…レディーゴディバの気高い自己犠牲の精神が…何だか芽衣ちゃんとリンクした所為だろう。
(まぁ芽衣ちゃん本人はそんな意図など狙っては居ないだろうけどな。春原何て、この紙にすら気がつかなさそうだしな)
不意に説明書きの紙を見て、俺は苦笑を漏らす。 そして、口にほどよく溶けるチョコレートを一粒入れて味わった。
「さてさて。今年のホワイトデーは大奮発しないと不味いよな」
俺は誰も答えること無い部屋の中で、思わずポツリと呟いた。 外はまだ北からの冷たい風が吹いていた。
END
2004.9.13. From:Koumi Sunohara
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