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俺の通う山吹は、スポーツ特待生制度を設ける程、運動系の部活に力を入れている学校だ。

基本的に私立校は、部活や学業に力を入れ学校をアピールする事が多い訳で、別に可笑しい所など何も無い。

そんな訳で、割と俺の通う学校は平均的に部活関係は全国大会まで行っている学校だったりする。

例にも漏れず、俺の所属するテニス部も全国区と呼ばれる部活動の一つであったりするのだ。と言っても、テニスの全国区、古豪山吹と言われては居るが、これといったスター選手が居ない。

プロ野球の様に、おいそれスター選手が沢山いたらびっくりするが、そこまでいかなくてものスター選手がいなかったりする。全国大会に行くが、凄い成績を残している訳では無い。全国に行けるわけだから、そりゃー弱い訳では無いけれど。

一言で言うと無難な全国区。

特に山吹ではダブルスが強く、シングルスがあまり強いイメージが無いと言われていて、そんな中で俺は珍しくシングルスでそこそこの力があったらしい。自分ではすごいと感じた事が無いのであくまでらしいと言わせてもらいたい。

伴爺を始め、周りが山吹のエースだと言うだけで、俺にはそんな風には思えない。身長が高いとも言えない、平均的な身長。武器となる大技があるわけでは無く、人よりすこしばかり良い動体視力と運の良さ。俺の持っているものなんてそんなものだ。

それなのに、切り札と言う意味のエースだと言われる事に正直プレッシャーを感じるのは当然の事だと思う。

第一、同世代に凄いシングルスの選手が大いにいるから余計に感じる。

青学の手塚君、氷帝の跡部君、立海の幸村君に真田君、柳君数えればきりのないの強豪ぞろい。そんな連中を見てしまったら、自分の凡人ぶりがまざまざと突きつけられる。

もし自分が井の中の蛙であれば、自分が強いと信じ自信に満ちていた事だろう。
でも、そんな風に思えるほど能天気では無いわけで。

(まぁ…周りには、能天気でお調子者だと思われてるから、俺がこんな事を思っているなんて思わないだろうけれどね)

独り歩きした外キャラというかイメージと言うのかな、そんな所為で、悲観を大ぴらに出来ない。別に気にせずに、ネガティブになれば良いんだけど、今更路線変更して、幻滅されるのも怖いと感じてしまう。

よくあるでしょ?改革だ変革だと言いながら、いざ変化になると今までいいと感じることってさ。そんな感じでさ、俺はラッキー千石で居たいと何処かで思ってるんだ。矛盾と不毛なのは従順承知なんだけど。

それとやっぱり、ラッキー千石で無いと俺っていう存在が必要無いというか…俺の存在が否定されそうで怖い様な気がするのが地味に大きいんだと思う。


それでもさ、やっぱり俺も人の子な訳で、何時からか忘れたけど、自分にかかる期待が大きくなりすぎてさ、ネガティブな気分に落ちいた事があった。

(何時だったかな…ああ…先輩の引退がかかった試合の前だったけ)

俺の勝敗で全て引退か続投が決まる試合。そんな時に、俺は色んなもんが押し寄せてきて柄にも無く胃痛なんてものが起きてグルグルしてる俺に、ダブルスの試合を終えた南が目ざとく俺に声をかけてきたと思う。

「千石…具合悪いのか?」

実にストレートな物言いで、一見いつもと変わらない俺に対して南はそんな言葉を口にした。

正直この時の俺は、胃痛が酷くて立ってるのも正直しんどい状態だった。けれども、見栄張りな俺は何時もの表情を浮かべていて居たから、周りに居た連中ですら俺の虚勢に気がつく人間は居なかった。

そんな中で、南がさも普通であるようにそんな言葉を紡いだのだから、吃驚するのは当然だ。

「なーに言ってるの南。俺は何時も通りだよ」

お調子者の千石君を気取って、そう言葉を紡いで南に返しても南は居たって冷静な面持ちで、寧ろ呆れた様子で俺を見る。

「嘘つけ。顔色悪すぎだぞ」

「そんな事ないって。南は心配性だな〜…あんまり心配しすぎると剥げるよ」

あくまで、おどける俺に南は少しため息を吐いた。

そして、溜息一つ吐いた後に、ゆっくり言葉を紡いだ。まるで独りごとの様に…。

「具合悪くなければそれで良い。兎も角千石はさ、千石のしたい試合をすればいい」

「え?」

「押しつぶされそうで、逃げたいなら逃げればいい。千石がレギュラーになって文句言ってる連中に押し付けてやればいい。一人に負担をかけて一人を非難する奴を俺は仲間だとかチームメイトだとか思わない。例え最後の一人が勝ち負けを決める場面であっても、そいつに負担をかけなければいけない状況下にしたのがチームなのに非難をすること事態が変だと俺は思う。それが嫌なら、全員がもっと頑張れば良かった話だろ?だから、気にしなくていい」

そう言って、南は俺の言葉を待たずにクールダウンのランニングに出かけた。


後にあまりの俺のだらけぶりに、南が俺に言った言葉を後悔したのは言うまでもない。

それでも、俺は救いに似た南の言葉に感謝している。
漢らしく「黙って俺についてこい」と言う訳では無い、ごく普通に「千石のしたい試合をすればいい」と言ってくれた南や仲間に俺は凄く有難いと思っている。


おわし


2010.3.21. From:Koumi Sunohara

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