7)パフォーマンス |
−天才と常識人− |
沸き上がる歓声。
サッカースタジアムで沸き上がる熱気に似ているようでどこか違う。
どちらかというと、ここは格闘技会場か?
はたまたアイドルグループの掛け声かけか?
そんな錯覚さえも起きそうな程、場に似使わしくない大歓声。
だがここは、先程言い上げた、サッカースタジアムでも無ければ、コンサート会場でも・・・勿論、格闘技の大会の場でもない。
ごくごく普通の、学生達が青春を費やした成果を見せる、大会の場。ちなみに、テニスの大会である。
それも関東大会一回戦…青春学園VS氷帝学園。手塚対跡部と言う全国区部長対決…の好カード。
盛り上がるのは分かるが、はっきりいってコレはやりすぎである。
鳴りやまない跡部コールに、黄色い声援。
野郎共のかけ声に、のりのりで応えるコート上の跡部。
宗教団体の教祖よろしく、一体感をみせる氷帝ブース。
普通の神経を持った人間(跡部のファンないし…氷帝学園の生徒は入らない)ならとうの昔に理解を超えてるに違いないだろう。
そんな普通の学生の一人、山吹中の南健太郎は、巻き起こる不足事態に、鳩が豆鉄砲くらった表情でコートを見つめていた。
寧ろ放心状態と言っても良いかも知れない。
呆気に取られる南の姿を見た隣に居た千石は、パタパタと南の目の前で手を振りながら、「大丈夫?」って声をかけた。
そして…。
「あれ?南〜これ見るの初めてだっけ?」
「取りあえず無事だが…。コレを見ると言うか・・・こんな何の集まりだよ?って言う試合は初めてだ」
渦中の中に居るわけでは無いのに、南は疲れ気味に言葉を紡ぐ。
そんな南に、(他校の事でも気苦労耐えないね…ウチの南ちゃんわ)と胸中そんな思いにかられる千石が、説明の為に口を開いた。
「まぁ氷帝名物。跡部君の応援ならぬ登場コール。有る意味かなり有名なパフォーマンスだね」
肩を竦めて、「跡部君だからやって様になるけどね」と付け足して千石は南に言った。
「俺・・・サブイボ出てきたぜ」
両腕を摩りながら南は、コート上の跡部に目を向けない様にしてそう言った。
千石は南の反応を見て・・・。
「うんうん。流石南だね。期待通りの反応だよ…確かに初めて俺もアレ見たときは背筋に冷気が走ったもんね」
ニコニコ笑みを浮かべて満足そうな表情でそう言う。
南は…やっぱりか…と納得気味に、腕をさする。
だが両腕に出来たサブイボ…もとい鳥肌は、一向に引く気配がみられない。
そんなザラザラと触り心地が悪そうな腕をさすりつつ、南はポツリと言葉を漏らす。
「なぁ…千石。手塚・・・手塚は大丈夫だろうか?」
溜め息と共に南は心配そう口にする。
卓越としたテニスセンスを持っていても、やはり神経は普通の青少年であろう…同じ役職の手塚を南は心底心配になっていたのである。
(見てる俺が鳥肌だもんなぁ〜…間近で見てる方はもっと辛いはずだよな…)
千石は心配そうに口にする南に、相変わらずの笑顔を返す。
「大丈夫だと思うよ。何せ手塚君だから」
千石の何処から出てくるか分からない自信に、南は思わず首を捻った。
(手塚だと何で大丈夫なんだ?)
そんな思いにかられながらも、「俺だったら試合所じゃ無くなるけどなぁ・・・」しみじみとした口調で南は呟くと重い溜息を吐いた。
その南の何気ない一言に千石は突如食い付いてきた。
そりゃーもう…飛びつかん勢いで…。
「そうか!跡部君はソレを狙ってたんだぁ〜。やるね〜跡部君」
「いや…多分違うと思うぞ…」
控えめながら南は千石に否定の言葉を紡ぐ。
それに対して千石は「そう?まぁ確かに本人ノリノリだもんね。そっか、そうだよね」と返してくる。
南は千石の本気なのか冗談なのかつかない…ノリに着いてゆくことが出来ず、(俺って…本当に山吹の部長で良いのかなぁ〜…考えちゃうよな)などと少し意識を飛ばしかけた。
そんなおりに…南を追い込む一言が、千石の口から紡がれた。
「俺も跡部君みたいに登場しちゃおうかな」
ウキウキ気分で言葉にする千石は、本当に楽しげにそう呟く。
千石の言葉に、南は慌てて口を挟んだ。
「頼むから。それだけは止めてくれ」
心底嫌そうに南は首を横に振る。
「俺がやっても結構格好いいと思うんだけど」
「アレは…格好いい已然の問題だと俺は思う」
「そうかなぁ〜結構良いと思うんだけどね」
嫌がる南を楽しそうな表情で千石は見つめる。
南は、自分で遊び始めた千石に…呆れ口調で言葉を返すことにした。
「そんな事しなくたって。お前は十分格好いい男だよ」
「何?何?おっとこ前って事?」
「さぁ〜な」
そんな、はぐらかす言葉を千石に投げ南は(本当に千石が跡部みたいになったらどうしよう…)などと一抹の不安を胸に戴きながら、鳥肌が収まらない腕をさすりつつ…跡部と手塚の試合に目を向け直した。
先程のパフォーマンスよりも…白熱してる試合を眺めながら…。
取りあえず今は、(鳥肌が早く収まれば良いのに)と的はずれな思いを切に祈るばかりの南だった。
おわし
2004.4.6. From:Koumi Sunohara
★後書きという名の言い訳★ 千石と南で15のお題七番より…。 小話でパフォーマンスをお届けです。 別名『派手跡部を南視点で見解』って所でしょうか…。 私も初めて跡部様のパフォーマンスを見て…「どうしよう…」と思ったぐらいなので…。 常識人な南ならきっと、固まるだろうなぁ〜と。 別に跡部様に対して悪意は無いんですけどね。 こんなお話ですが楽しんで下されば幸いです。 |
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