4.)たまにわ |
−キメ時は決めるもんです− |
今日は何時もと違う朝だった。
朝練で恒例となっている南の怒声と言うか掛け声が一度も聞こえなかった。
その時は…。
「今日は怒鳴られない何てラッキー」
何て室町君に言っていた程。
相変わらずクールな後輩君である室町君には、呆れた目で見られたけどね。
その時点でも可笑しいかな?って思っていたけど、この千石清純ともあろう男が…この時は南の不調に気が付かなかったんだよ。
だからね、何時もの様に、部活をサボろうとソロリソロリと南の動きを探っていたんだよ。
したらね…ちょっとばかし、アクシデントが起きてしまったんだよコレがまた。
「右良し!左良し!前方後方どちらもOK!よ〜し」
「何が良しだって…せ・ん・ご・く・君?」
「うげっ!南…南ちゃん!ど…どうして此処に」
言葉詰まらせ言う俺に、南は溜息混じりに言葉を紡ぐ。
「丸分かりだろ。何年のつき合いだと思ってるんだよ…それに、最近は太一から情報も有るしな、見つけれない方が難しいだろうが」
「いや〜流石南ちゃん。だけど、今日は清純は息抜きの日って決めちゃったんだよね。だって息抜きも必要でしょ」
さも正論ぽく言うと南は呆れ顔で俺を見た。
だから俺は、「南こそ、何処かで緩急つけないと倒れるよ」と付け足すように言った。
南は益々呆れ顔で俺を見て、小言を口にした。
「お前の場合は何時だって、サボってるじゃ…ない…かっ…」
言いかけた言葉が、続くことなく…先まで話していた南がバタリと倒れた。
(え?南?ええええ?)
俺の目の前でぶっ倒れてしまった南に正直信じること何て出来なくて、頭の中が真っ白になった。
南が唐突に倒れてしまった事で、俺はらしくもなくオロオロして…倒れて呻いている南の前でどうして良いのか分からないでいた。
頭では、南と俺の対格差も有って、担いで運ぶことが不可のであっても…南を保健室なり…何処かに移動させるなり…すれば良いって事は分かっているけれど、心と体がちぐはぐで…上手く動かない。
そしたら、思いがけない相手…亜久津が俺に声をかけてきた。
「何オロオロしてんだ千石。らしくねぇじゃねぇの?」
何時もの口調で、同じ調子で言う亜久津。
「亜久津…南が倒れちゃって…何かどうして良いか…パニってさ」
俺はパニった状態ながらも、何でか知らないけど亜久津に現状を告げていた。
「お前馬鹿か?倒れたなら、保健室運ぶなりすれば良いじゃねぇかよ」
俺の言葉に呆れ顔で亜久津は、さも当然にそう返す。
(亜久津に正論言われると変な感じだよね…)
何て少し失礼な事を考えながら、俺は対格差で無理なことを亜久津に言うと…。
「チッ。仕方がねぇなぁ…」
舌打ちして面倒くさそうにしながらも、亜久津が南の方に歩み寄る。
どうやら、俺の変りに南を運んでくれる気らしい。
(やっぱり悪ぶってるけど、亜久津って良いヤツだよね…照れ屋だけど)
そんな亜久津の良い奴ぶりに、少し笑いが込み上げそうに為った時…俺と亜久津の耳に、地獄からの呻きみたいな声が耳に入った。
「せんごく〜ぅ。ぶ…部活…に…出ろ…」
唸りながらも、俺への小言は健在の南。
そんなゾンビ状態で、文句を言う南に担ごうとしていた亜久津が呆れ顔で南を見た。
そして…。
「病人がウダウダ言ってるんじゃねぇ」
亜久津が一喝すると、南は実に驚いた表情で亜久津を見ていた。
「亜久津?」
「取りあえず静かにしやがれ」
そう口にすると亜久津は、軽々と南を担ぎ上げた。
南も割と大人しい。
その様子を見て、(ちょっとヤダなぁ〜)とふて腐れたい気分に成ったけど、南が辛そうだから…黙ってその様子を見ていた。
そしたら、亜久津が…。
「ちょっと考えれば、此奴が何を思って無理したか位分かるじゃねぇのか」
そんな言葉を俺に投げた亜久津は、恐らく南の家まで送って行く気なのだろう…通りかかりの東方を取った捕まえ、玄関の方へ消えていった。
俺はその姿を黙って見送ったのだ。
それからの俺は…。
サボルつもりだった部活だけど、南が辛い体に鞭打って部活の為に来ていたと思うと…そうする気にはなれなかった。
それに南が、何でそうまでして部活に来ていたのかも…分かる気がするから尚のこと。
しかも亜久津にまで、南が無理していた理由を臭わされたら…余計サボル気は湧いてこなかった。
何か悔しい気もしてって言うのが大きいんだけどね…。
(でもなぁ〜雅美ッチも不在となると…部活の運営が難しいかな…。だからといって…今日部活が急に無くなったら…喜ぶ面々も多いかも知れないけど…太一君残念がるよね…部員になったばっかりなんだしね…。でもどうしようかね〜部活…ん?そう言えば…俺って副部長じゃん)
不意にそんな事に気が付いた俺は、ニヤリと笑ってテニスコートに向かったのだ。
テニスコートに向かうと、一年生と二年生がチラホラ居て、忙しなく動いているのが見えた。
勿論あの元気者の太一君も、忙しなく動いている。
そんな様子も微笑ましい気持ちで眺めながら、俺は寡黙な後輩君の室町君の側に足を進めた。
「さぁーて室町君。今日も部活楽しく頑張りましょうか」
室町君の背後に回り、俺は肩を軽く叩いて言葉を放つ。
だけど、このクールな後輩は大したリアクションも無い表情で俺を見た。
「千石さん?…まぁ俺にこんなことする人間は千石さんぐらいしか居ませんけど…。それにしても、千石さんがこんな時間から部活に居るなんて珍しいですね」
「おや心外だなぁ室町君。俺は何時だって真面目な男ですよ」
相変わらず南とは又違う、手厳しい言葉を言う後輩に俺は、少し真面目ポイ顔で言った。
室町君は、サングラスで表情が見えないが…少し苦笑した様に俺は見えた。
気のせいかもしれないけどね。
「確かに真面目ですよ。ただし…゛楽しい事に真剣な゛が付きますけどね」
サラリと言葉に刺を含ませて、室町君は言う。
(まったくこの後輩は、ズバッと切り捨ててくるんだから)
そんな思いを抱きながら、少し苦笑を浮かべて…小さく溜息を吐く俺は、ついでとばかりに言葉を紡ぐ。
「強ち間違いでは無いけど…何だかなぁ〜。でも今日は、真面目にやるつもりなんだけどね〜」
溜息混じりに俺が言えば、室町君は…。
「まぁ張り切る事は良い事ですけどね。南部長も喜ぶんじゃないですか」
淡々とした口調で、喜怒哀楽も乏しい口調で室町君は言う。
「残念。南は居ないよ。居ないからこそ、俺の出番」
胸をポンと拳で軽く叩き、任せなさいと言いたげに、俺はそう室町君に言ったのに…室町君は相変わらずにツレナイ表情。
(少しは、太一君を見習って欲しいもんだよねぇ〜)
何て心の中で毒づいてしまう程、この後輩君は相変わらずクールと言うか…何というか。
ボンヤリ思う俺に、室町君はテンポ良く次の言葉を投げてくる。
「珍しいですね、普段は東方先輩に押しつけるじゃないですか。それなのにワザワザ千石さんが買って出る何て…何企んでるんです?」
「企むってね…それは酷いぞ室町君。まぁ雅美ッチも居ないんだよね、どちらも不在中だよ。南はちなみに風邪で倒れちゃって」
「そうですか…まぁ部長は無理しすぎですからね。それにしても東方先輩はどうしたんです?」
短く南への言葉を言ってから、尋ねてくる室町君に、俺は説明の為に言葉を紡ぎだす。
「雅美ッチなら南送迎係で居ないよ。ちなみに亜久津が運んで雅美ッチがお目付け役さ」
゛豪華だよね゛と付け足して俺が言う。
すると室町君は、呆れたように小さな溜息を吐くと、肩を竦めて言葉を紡ぐ。
「豪華と言うより血圧上がってかえって南部長の体に悪そうですね。悪化しなければ良いんですけど」
学校の校門の方角を眺めて、紡ぐ室町君の言葉は珍しく何だか心配そうだった。
そんな意外な一面に(クールな割に、人情味が有るんだよね〜室町君もね)と思いつつ、俺は言葉を紡ぎ出す。
「そうかな?亜久津が改心したって嬉しくなると俺は思うけど。第一南は、人を一片だけ見て判断するような男じゃないからね」
「まぁ南部長ですからね。で…だから、今日はそんな南部長に免じて…真面目な副部長ぶりを発揮するって事ですか」
「まぁね…きっと今日部活が無い何て言ったら…悲しむだろうしね」
室町君の言葉を曖昧に答えた。
すると室町君も俺の意図している事に、気が付いたのか…「ああ。そう言うことですか」と口にして「少しは手伝いますよ」と素っ気なく言うと、俺を置いて室町君は部活の準備に出向いて行った。
「分け隔て無く部員を見るお仕事ね…やっぱり俺には向いてないね…南」
南の居ないコートで俺は、誰に言う訳でも無く…小さくそんな言葉を零した。
南が一日でも早く、回復してくる事を願いながら。
おわし
2004.4.26. From:Koumi Sunohara
★後書き+言い訳★ 南が不在中の部活動って事で、書いてみましたが如何でしょう? 本当は千石さんが格好良く、部活を仕切る話に成る筈が…。 やっぱりヘタレ気味に…。 やはり南が居ないと駄目ですね…ウチの千石君。 15お題中に、1本は格好いい千石を目指して行こうと思ってますが…。 無理かな〜…書ければ良いなぁ。 何て思っております。 |
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