2)乱入
−気になりますよ…多感なお年頃なんですから−




選抜合宿は娯楽が無い。
そりゃーテニスを練習しにきているから仕方がないと言えばそれまでなのだが…。
だが、大人でも缶詰状態で一つのモノに打ち込むのは結構忍耐力がいるわけで…。多感なお年頃な、少年達には少々暇である。
だから、些細な出来事も面白いモノが無いのか日々探すものだ。


勿論…堅い人間と思われている立海の皇帝真田に達人柳…氷帝の跡部も例に漏れず娯楽に飢えていた。
そんな折り…選抜合宿中の千石は、毎日決まった時間に誰かに電話をかけている。
そんな話を聞いたものだから、食い付かないわけも無い。
目下彼等の話題は、千石と電話の相手で話題が盛り上がっていたのである。


「千石の電話の相手誰なんだろうな」

「南ちゃんと言っていたぞ」

「名前なのか…」

「知らん」

「弦一朗…そうハッキリ否定しなくても良いじゃないか」

「この際名前なのか苗字でもどっちでも良いじゃねぇ〜か。さっさと千石捕まえて聞けば済む話だろう?」

“お前等だって気になるんじゃねぇ?”と付け足して跡部は言う。
跡部の言葉に真田は不機嫌そうな顔で言葉を紡ぐ。

「気になると言えば気になるが…しかし…」

口を濁す真田に、柳が揺さぶりをかけた。

「人目を避ける様に電話をする千石が、簡単に相手の事など話さないだろうが…コレをネタにしばらく暇が解消出来ることは間違い無いだろうな」

『暇が解消』その柳の言葉にピクリと眉が動く。
柳はその真田の些細な変化気が付き、(これは、承諾も得たも同じ事だな)と心の中でほくそ笑む。

そして…。

「さて、弦一朗も承諾したところだし…善は急げだな」

「ああ。さっさと千石の野郎を捕まえるに限るな」

何はともあれ、話がまとまった三人は話をするべく千石を捜しに歩き出した。




意気揚々と探し始めた三人は、以外にあっさりと千石の捕獲に成功した。

そして、聞きたくてたまらない電話の事を千石に尋ねたのである。
割らない口を割らす楽しみを抱いていた、三人に…答えを口にする千石は彼等にとって意外な言葉を紡いだのである。

「ああ電話ね。かけてるよ南ちゃんに」

“君らも知ってると思うけど、ウチの南ちゃん”と悪意も無い笑顔で千石はそう言い切った。
アッサリと口にしてしまった千石に拍子抜けしつつ、彼等は顔を見合わせた。

((知る筈無いだろう…お前の知り合いなど…))

内心そんな思いを抱きながら、「はぁ?何言ってるんだお前。知るわけ無いだろ南なんて奴」取り合えず跡部が、ごもっともな言葉で千石に切り返す事に成功した。
切り替えされた千石は、気にした様子も無くヘラリと笑って言葉を紡ぐ。

「酷いなぁ跡部君〜…知ってるよ君も。だってテニスやってるもん南ちゃん。ダブルスだけどね」

楽しそうに千石は言う。
跡部、真田、柳は首を捻る。
キーワードは[テニス/南ちゃん/ダブル/千石繋がり]それしか無い状態で、想像を膨らませるほど彼等はクリエーターでは無かった。
クリエーターに一番遠いであろう真田が盛大に顔を顰めるのを見て、千石はさらに言葉を続けた。

「結構有名だと思うんだけど。ダブルじゃ…全国区プレーヤーだしね南ちゃんわ」

自分の事のように、嬉しそうに千石は言う。
そんな千石に何だか悪い気がして、真田は思わず謝罪の言葉を口にしていた。

「悪い…女子はあまり詳しくないのでな」

淡々と謝罪と、分からないと言う言葉を告げる真田に千石は思わずキョトンとした表情になった。

「女子?」

聞き返す千石の言葉に、真田はコクリと首を振る。
勿論、柳も跡部も無言の頷きをした。

(もしかして…三人共…南の事勘違いしてる?)

真顔で頷く三人の表情に、千石は思わず笑いが込み上げてきた。
と言うか…笑いを留めることは出来ず、千石の口から零れていった。

「ははははは。違う違う」

手をパタパタさせて千石は笑いながら否定の言葉を紡ぐ。

「南ちゃんは俺の所の部長さんです」

そう言い切る千石の言葉に、益々困惑の色を強める三人。
お約束なリアクションをする彼等が可笑しくて仕方がない千石は、笑いを噛み殺しながら言葉を紡いだ。

「本当に面白いね。それとも俺が女の子に見えちゃう?」

“イヤーん。清純ドキドキ”おねぇ言葉でそう言えば、千石の頭上に間髪入れずに衝撃が走る。
ゴチっというかなり痛い音を発てた。
千石は咄嗟のことで涙目になる。
涙を堪えて、千石は自分を叩いた相手に向かって文句を言った。

「跡部君…グーで殴る事無いでしょ。グーで…。せめてチョップでツッコミだよ…常識でしょ」

千石らしいと言うべきか、少し的をはずす言葉を口にする。
その言葉を聞いた跡部は、呆れた様子で千石を見た。

「てめぇ…そう言う問題じゃねぇだろうがアーン?」

「そう言う問題だよ。喧嘩なら分かるけど、冗談でグーで殴られるのはちょっと辛いでしょ」

まったくもって低レベルな、小学生同士の口喧嘩が始まり出す。
それを呆れた様子で見つめる真田と柳は小さく溜息を吐いた。



そして…。

「コホン。それより千石、話が大分脱線している様に思うのだが…」

態とらしく咳払いして柳は千石にそう言う。
真田も無言のプレッーシャーを両者にかける。
だからと言う訳では無いかもしれないが、千石と跡部は取りあえず顔を見合わせ…臨戦態勢を解除した。

「あっ。柳君メンゴ!ついつい跡部君のペースに乗せられちゃったよ」

ちっとも悪びれる様子も無く千石は、にこやかに柳に言葉を返す。

「元はと言えばお前が…」

拳を振るわせおかんむりの跡部に、黙っていた真田が軽く肩を叩き窘めた。

「跡部…怒る気持ちはわからんでは無いが…。今は取りあえず脱線した話題が重要であろう」

真田のもっともな言葉に、跡部は小さな舌打ちをして「わかったよ」としぶしぶと引き下がる。
そんな滅多に見ることの無い跡部のふて腐れる様子を珍しいモノを見る目で千石は満足そうに見た。

(流石の跡部君も真田君にはたじたじなんだねぇ〜。これは良い土産話になるよね〜激写すれば良かったかな)

何て思いながらも、千石は今度はなるべく分かりやすい言葉を選んで説明を開始した。

「だから南ちゃんは…山吹の男テニの部長だよ。正式名は南健太郎、ちなみ相方は東方雅美ね。二人合わせて地味sって言えば分かるかな?」

チッチッチッと口を鳴らし片目を瞑り、人差し指を動かしながら千石は芝居ががかった口調でそう言う。
一同は((まさか?))という顔で千石を見るが、千石はニコニコ笑ってる。
仕舞いには…。

「んもーっ。そんなに疑うんだったら電話する?」

ポケットから携帯電話を出して千石は、三人にそういった。
そんな千石に静かだった真田が、不意に言葉を発したのである。

「それならばコレを使うと良い」

言いながら何処から出したのか…テレホンカードの束を出し…真田は、千石にそう言った。
千石は真田の突然の申し出に、驚きながらも言葉を返す。

「電話ボックス?」

「ああ。ちなみにコレはテレホンカードだ。断じてICカードでは無い」

どうでも良い説明をつけて真田は言う。

「いや…携帯で良いよ別に」

「しかし…我々の好奇心の為にかけてもらうのだ…。電話代を払うのが道理であろう」

そう言いながらズイっと出すテレホンカードに千石は苦笑を浮かべる。

(だからってテレホンカードって言うのは…微妙だよね…)

少し考えるように思案している千石に、柳が付け足すように言葉を紡ぐ。

「こうなると弦一朗は譲らないんだ。諦めた方が良い」

差し出して一歩も引く気配を見せない真田に、柳は千石に淡々とそう告げた。
柳の言葉に肩を竦めて、受け取ったテレホンカードを電話ボックスに差し込んだ千石は鼻歌交じりに軽快に南に繋がるボタンを押してゆく。
受話器を耳に当てて、しばらくすると…。
お決まりのコール音が千石の耳に入る。




数度にわたるコール音の後、待ちに待った電話の繋がる音がする。
そして…。

『もしもし南ですが』

(ビンゴ!一発で南ちゃん…俺ってやっぱりラッキーだよね)

速攻で南が出たことが嬉しかったのか、千石は弾む声を隠さずに…受話器に向かって声を放つ。

「ヤッホー南。一発で南なんて流石俺って感じだよね。ちなみに貴方の千石清純君ですよ」

『千石?何馬鹿な事言ってるんだよ。それより、どうした携帯じゃ無いみたいだけ…何か有ったのか?』

「別に〜今日はたまたまね」

『馬鹿やってないで、ちゃんと練習してるんだろうなぁ?』

千石の曖昧な答えに、南は頭痛を覚えながらも…千石にお決まりの言葉を投げる。
それに対して(まったく南は、どんな時でも俺の予想を裏切らない言葉を言うよね〜)などとしみじみ思いながら、電話先の南に返す言葉を紡ぐ。

「勿論真面目にやってますよ。世のため人のため…母校山吹の為。勿論、南ちゃんと俺の為に…汗水垂らして清純は頑張っているんだよ」

演技じみた口調で千石は南にそう返す。

『ハイハイ。部活の時も真面目にやれよ』

「そりゃーもちろん頑張るよ。そうそう今日は電話ボックスから南ちゃんへのラブコール中なんですよ。嬉しい?」

声を弾ませて千石が言葉を紡ぐと、南は電話越しで大きな溜息を吐いた。

『切って良いか…千石』

そして、低くした声でそう口にする。

「待って切らないでよ南〜。ちょっとしたお茶目な冗談だよ」

「でね。南ちゃんと話したい人達が居るんだ」

『何だそれ?』

「まぁまぁ…深く考えないで良いから。南は会話楽しんでね」

南の苦情も聞かぬまま千石はさっさと、後ろに控えて居るであろう人物に代わったようだった。
南は呆れながらも、しかたなしに電話口に声をかけた。

『もしもし…えっと…どちらさん?』

千石から違う人物に代わった事に、少なからず困惑を強くしながら南は電話口の人物に言葉をかける。

「立海の真田だ」

紡がれた言葉に南は(立海…選抜…って王者立海の皇帝真田だよな…。何で真田が俺に用があるんだ?)と思い、一番無難な言葉を南は紡いだ。

『何かウチの千石が真田に迷惑でもかけただろうか?』

「問題は起こしては居ないぞ。南が心配する問題では無い」

(“問題は”って…何やったんだよ千石…)

電話から聞こえる真田の言葉に、最悪の事態は無いようで…少しホッとしながらも南の中では不安は渦巻く。

『それなら良いんだけどな。で…俺に何か用なのか?』

そう切り出してきた南に真田は内心焦っていた。
流石に下世話ネタの上、南を女の子と勘違いしたとは言えない真面目な真田は、取りあえず当たり障りのない会話をしはじめた。
だが元来口下手人間である真田が、円滑に会話のキャッチボールが出来る筈もなく…柳が所々フォーローしながら南との会話を繰り広げた。

結局ネタが尽きたら、別な人間に代わる方式をとり代わる代わるに電話相手をかえて、三人は南と言葉を交わした。
南の方も、柳の的確な話術により(選抜合宿場って娯楽は無いから…きっと暇だったんだぁ〜)と納得させることに成功させ…。

何はともあれ、電話を無事に終らせた一同に…千石は楽しげに声をかけた。

「ねっ。俺嘘ついて無いだろ」

悪戯を成功させた子供のような笑顔を向ける千石に、一同は「紛らわしい事をするな」とニタニタ笑いの千石に各人のツッコミが見事に決まる。
勿論グーで頭を小突いたのは言うまでも無いだろう。
小突かれた千石は…。

「だから〜ツッコミはグーは駄目だって言ってるのに〜」

やはり…かなりズレタ言葉を叫ぶ千石だった。
こうして、退屈な夜は…少しの娯楽と共に過ぎていった。

コレはジュニア選抜での夜での一コマである。

おわし

2004.4.9. From:Koumi Sunohara 



★言い訳★
千石と南で15のお題二番より…。
Jr.選抜中の千石君とメンバー達の一コマです。
このくらいの年のこなら、こんな馬鹿な事をよくやりそうなので…。
つい…真田も巻き込んでみました。
何だか凄く千石が、アホな子に…。
本当は格好良い千石を…と思っていたのですけどね…。
ついつい…面白可笑しい彼になってしまうのです。
南ちゃんは何処にいても、結局千石のお世話をする宿命ですね。
海外だろうが、何処だろうと…。
そんな南が大好きです(えっ?)。
何時か千石君を格好良く書けることを願って…今回はこれにて御免。


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