柊 挿 す
−魔よけ?魔王よけ?−



冬の寒さもいよいよ本番と言うにはちょっと違うかもしれない…何故なら立春を迎えているだから…。
まぁ暦の上では、冬というには語弊が有るけれど…体に感じる寒さは…本当に『冬本番』といった感じだった。

そんな春と言いながら寒い放課後に、部のミーティングの為にやって来た越前と桃城は寒さから逃げるようにドアに手をかけようとした。
すると、普段みかけない存在に越前は気をとめた。

訝しげに眺めてから、越前は声を発した。

「何で…部室のドアに“こんなモン”が有るスカ?」

訝しそうに見つめる越前に桃城は、首を傾げながら促されるまま顔を上げる。

「ん?どれどれ?」

言いながら桃城はドアに付けられた、越前の言う所の“こんなモン”に目を向けた。
ドアには柊に刺さった鰯が掛かっている。
一見すると、ちょと正月飾りに似ているも…下手するとイワシ臭く嫌がらせともとれそうである。

そんなイワシと柊を目にとめた桃城は、少し考えてから言葉を紡いだ。

「ああ。コレな…去年もこの時期になるとドアに付いていたぞ」

確認した桃城は越前にそう言うと、越前は不思議そうに首を傾げた。

「何でまた。イワシと葉っぱ?ウチのカルピンぐらいしか喜ばないんじゃないスカ?寧ろ臭いし…嫌がらせか何かスカ?」

「葉っぱつーか…アレは柊。何だっけ…鬼よけだか何か意味ある葉っぱの筈だぜ…嫌がらせとほど遠いぞ」

「そうスね…魔王も…恐怖の汁…部長も居る此処にそんな事する勇気のあるヤツ居ないスよね」

“ああ納得”と言いたげに越前は、ボソリと言葉を紡ぎながら納得気味に呟いた。
妙な納得の仕方をする後輩に、苦笑を浮かべながら桃城は言葉を返す。

「さぁな…そんな度胸がアル奴が居るかは分からねぇけどな。柊とイワシについては俺もイマイチよく分からない。去年は何か臭いぐらいしか思わなかったしな…つーかお前に言われて気づいたし今年は」


うーんと唸りながら桃城は越前にそう返すと、逆光が眩しく怪しい雰囲気満載の乾貞治その人が音もなく現れた。

「やぁ…イワシと柊というのは節分にとって…」

不意に上がる乾の声に顧みる越前と桃城は、彼の手にもっている物体を見て盛大に顔を顰めた。
何故なら、彼は禁断のイワシ水を持っていたのだ…。

そんな訳で…説明しようとする乾をさり気なく無視した桃城と越前は、青学の母コト大石の元に一目散にかけていった。

「やはりイワシ水は不味かったか…」

無視された乾はイワシ水を持ったまま途方にくれたという。



後日、部活での出来事を真似た越前だったが…。
鰯は見事カルピンの胃袋に納められたのは…言うまでも無いだろう。


おわし

2006.3.1. From:Koumi Sunohara


★後書き+言い訳★
web拍手にて2006.1.31.掲載作品。
テニプリ小話節分ネタでした。
最近は見かけないイワシと柊。


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