『わさび』





天気は晴、絶好のテニス日和。
こんな日は、勿論気分も自然と浮かれてくる。
そんな日に…珍しくスクリーング無しで、部活の方に顔を出している補強組の面々(柳沢、木更津、裕太)は金田とテニスコートで汗を流した。
そうすれば、必然的にお腹も減るモノで…誰というわけでもなく「腹減った」と言いだした。
と言う訳で部室に戻って一同は、お菓子など広げ…何やら和気藹々と話しに花を咲かせていた。



初めは勿論テニスに関する話しをしていた。
過去の試合のビデオでの事や、テニス雑誌に書かれている事など…。
だが、メンバーに楽しいことが大好きな…青学桃城にアヒル呼ばわりされているあのお方…柳沢慎也が居る訳で…。
どうでも良い話しに発展したのは、自然の流れ以外の何ものでも無いだろう…。



「裕太は本当に甘いモノが好きだぁ〜ね」

新作のお菓子を机の上に広げている不二裕太を見ながら、柳沢は感心したようにそう言った。
裕太は柳沢の言葉に、首を傾げながらお菓子と先輩の顔を見比べた。

「ん〜まぁ、そうスね。確かに甘いモノ好きですけど…どうかしたんスカ?」

手に持っていたチョコレートをポーンと口に入れながら、裕太は柳沢にそう返した。
満足そうにチョコを食べる裕太の姿を見た柳沢は、“ふむふむ”と納得しながら、言葉を紡ぐべく口を開く。

「別に何も問題は無いだぁ〜ね。俺も結構お菓子好きだぁ〜ね…甘いモノ食べると幸せになるだぁ〜ね。でも…辛い物をあんあまり食べてる所見たこと無いだぁ〜ね」

“実は食べれないんじゃ無いだぁ〜ね?”とニヤリと不敵に笑って柳沢がそう言う。
裕太は「そんな事無いスよ〜。一般的な辛いモノなら食べれるスよ〜」と即座に柳沢に返した。
柳沢は、そんな裕太の言葉を信用してなさ気に…ジト〜っと裕太を見る。

「妖しいだぁ〜ね…。やっぱり食べられないに違いないだぁ〜ね」

悪酔いした会社員よろしく、柳沢が裕太に絡む。
この時場に居た全員が(タチ悪い酔っぱらいだよな〜)と心の中で思ったのは言うまでも無いだろう。
そんな事を思われている何て、思ってもいない柳沢は相変わらずハイテンションだ。
だが…羽目を外す者が居れば、窘める者が居るのが世の常で…。
相方木更津が、ヤレヤレと肩を軽く竦めて柳沢に向き合った。

「クスクス慎也、流石に其れは裕太に失礼なんじゃ無い?裕太だって辛いモノ食べるじゃない。第一カレーって割と辛いしさ」

見かねた、木更津が柳沢にそう言うが…柳沢はアヒル口をさらにアヒルにして、木更津を見た。

「甘口かも知れないだぁ〜ね」

木更津の言葉に、柳沢は首を振って否定する。
そんな頑な相棒に、木更津は呆れきった目を向けて、後輩のフォローに入った。

「あのね〜慎也、考えすぎだよ。慎也だって、甘いお菓子好きだろ…幾ら何でも裕太に同情するよ俺」

ダブルスパートナーに同意を得られなかった柳沢は、クルリと辺りを見わたした。
そして、金田に標準を合わせて口を開く。

「じゃぁ〜淳以外に聞くだぁ〜ね。…金田お前はどう思うだぁ〜ね?」

「えっ…俺スカ?」

急に自分にフラレた金田は、危うく手に持っていたポッキーをとしそうになりながらも金田は何とか言葉を紡ぐ。

「金田何てお前しか居ないだぁ〜ね」

慌てた金田をジロリと見て、柳沢は短く返した。

((“何て”ってかなり酷い言われようじゃないか?))

金田と裕太は心の中でヤケにハイテンションな柳沢にそう思った。
だがココは腐っても体育会系の部活である、先輩
金田は何とも言えぬ気分になりながらも、先輩である柳沢に答えを返すべく口を開く。

「えっと…俺不二が、ビビンバ食ってるみましたよ。だから、食べれない訳じゃ無いと思いますけどね」

ん〜と唸りながら、金田は柳沢にそう返す。

「ほらみなよ慎也。裕太だって普通に辛いモノだって食べれるだろ」

木更津は相方に窘めるように、そう言うが…柳沢は全くもって認めようとしない。

「そ…それは、きっと…。そうだぁ〜ね…給食とかで出る甘いビビンバだぁ〜ね。そうに違いないだぁ〜ね」

相棒と後輩金田の言葉に現実逃避しながら、柳沢はそう叫んだ。
裕太は苛つきを通り越して…呆れた様子で、現実逃避した先輩を見て口を開く。

「柳沢先輩〜そんなに、俺が辛いも食べれない人間にしたいんスカ?」

流石に裕太もウンザリした顔で柳沢に言う。
余談であるが…裕太ネタで、かれこれ20分も堂々巡りな話が続いているのだ。
当事者じゃなくともウンザリするのは、当然のことで…。
それなのに柳沢は相変わらず、納得いかなそうにブーブー愚痴っている。
しまいには…。

「裕太の兄貴は、辛いモノ好きだと観月が言っていただぁ〜ね」

と…裕太にとってタブーで有る、兄の話題まで持ち出してくる。
もはや、柳沢は何を裕太に求めてるのか一同にもサッパリ分からない。
“兄”と言う言葉に、ピクリと米神が動いた裕太だったが…今はそれよりも、目の前の先輩の暴走に終止符を打つべくグッと我慢する裕太。
その裕太を感心したように眺める視線が二つ。
勿論、木更津と金田である。
両者は((不二…大人になったなぁ〜)(裕太も我慢出来るようになったんだね…感心感心))などと金田と木更津は心の中で思いながら、微妙な間を持ったままの柳沢と裕太を眺めていた。
そんな裕太が、柳沢より先に沈黙を破るように「その俺の兄貴ですけどね…」と…たっぷり間を空けて裕太は、言葉を紡ぎ始めた。
柳沢も珍しく茶々を入れずに黙って言葉を促していた。

「何て言って良いだろうな〜…。えっと…味覚障害か?と疑いたくなるぐらい、辛い物が好き何スよ」

紡がれた裕太の言葉に

「大袈裟だぁ〜ね、そんな事言うと裕太は皆が驚くぐらい甘いモノが好きだぁ〜ね」

「大袈裟じゃ無いスよ。第一シャリよりも多いワサビの寿司を平然と食べれますか?」

「「…」」

サラリととんでもない言葉を口にした裕太に一同は言葉を失った。
その一同の様子を気にせず裕太は言葉を続けた。

「それじゃー…具のないワサビ巻き…食べれるスカ?ちなみに兄貴は青学の乾さんの野菜汁美味いって飲むんですけど…それでも、味覚正常だって言えますか?」

「無理だぁ〜ね。つーか人間の食べる食べ物じゃ無いだぁ〜ね。乾汁を美味いという時点でヤバイだぁ〜ね…銀華中は倒れていただぁ〜ね」

柳沢は顔色をサーッと青くして、裕太に返した。

「そんな姿を目の辺りにしたら、余計辛いモノに手が伸びなくなったって訳か…。裕太って苦労してるんだね」

「そう…そうだぁ〜ね。俺もそんな食べ物見たら…食べたくないだぁ〜ね…。」

「そんな恐怖は、ココに無いんだしさ。安心して学食喰えよな…」

三者三様の言葉を紡ぐ。

「まぁ…分かって貰えれば俺的には良いんスけどね」

(やっぱり身内以外じゃ…免疫ねぇ〜もんな〜。やっぱり、この反応が正しいんだよな)と思いながら頬をポリポリ掻きながら少し面食らいながら裕太はそう返す。
柳沢は突然パンパンと仕切直しの様に手を叩いた。

「さぁ〜恐怖話は終わりにするだぁ〜ね。裕太…これはワビ変わりだぁ〜ね。たん〜と食べると良いだぁ〜ね」

柳沢はそう言うと、ロッカーにストックして有ったらしい…秘蔵のお菓子を裕太の前に出してそう言った。
裕太は促されるように、柳沢のお菓子に手を伸ばす。
それを合図のように…今までの話を無かった事にして、面々はテニスの話などに花を咲かせていった。
美味しそうに、甘いお菓子を食べている裕太を見て…一同は思った…「兄貴から離れられて良かったな裕太」と「ココは安全だから、安心して寿司なりカレー食えよ」と。
そして、ルドルフのある日の放課後はお菓子の甘い臭いに包まれ…過ぎていったのだった。

後日、金田経由でその話を聞いた赤澤が、ルドルフテニス部の寿司を全部ワサビ抜きにしたとか…。
真相は定かでは無い。





おわし

2003.11.28 From:Koumi Sunohara



★言訳と言う名の後書き★
テニプリの聖ルドルフの部活前の日常でした。
寧ろオチ無し…山無し…な気がします…。
言訳を言うなら…SSなので、メサメサ短めで…柳沢でこれ以上長く書くのが無理だったからって事で…。
ともかく、有る意味不二周助ファンに刺されるかもしれない、不当な扱いをしまくったお話が完成しました。
フォローになる話しが書ければよいなぁ〜と思いつつ、書き逃げします。
こんなお目汚し…読んで下さり有り難うございました。
最後に…周助兄さんは実は結構好きですよ…本当ですよ〜。


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