バレンタインの賑わいだ日々が過ぎた、聖ルドルフ学院はすっかり何時もの日常に戻っていた。
そんな中、男子テニス部だけが何やらやけに騒然としていたのだった。
ある一人を除いては、だが…。
まぁその一人というのは、追い追い分かることので、今は触れないでおこうと思う。
兎も角彼等は、テニス部の部室で何やら熱い話し合いを繰り広げていたのである。
「何としても、不二周助よりも裕太君に楽しんで貰う誕生会にしますよ」
何でも良いから打倒不二周助に燃えている、ルドルフの頭脳観月はじめが机を力強く叩きながらそんな言葉を口にした。
何時もの観月の病気に、話を聞いていた赤澤、木更津、柳沢は半ば呆れながらも観月の話を聞き流した。
別に裕太の誕生祝いをしたくない訳では無く、観月の偏った思想に賛同できぬといった意味である。
「そんなに意気込まなくても良いだぁ〜ね。誕生日祝うのに、そんなに構える何てナンセスだぁ〜ね」
柳沢は、観月にそう言葉を紡ぐ。
観月は何も言わずに鋭い眼差しを、柳沢に返した。
「おお怖…。観月は短気すぎるだぁ〜ね」
柳沢は、肩を竦めて観月に聞こえない程度の小さな声でそう言葉を紡ぐ。
「柳沢…何か言いました?」
「聞き間違いだぁ〜ね。俺は別に何も言ってないだぁ〜ね…それよりも今は裕太の誕生会の話しだぁ〜ね」
乾いた笑みを浮かべながら柳沢はサラリと、話題を反らした。
「んふ。まぁ〜良いでしょう。確かに無駄話は時間の無駄ですからね」
独特な鼻にかけたような笑いを漏らし、観月はそう言い切った。
一同は(何が時間の無駄だよ…つ〜かそりゃ〜お前じゃねぇ〜か)とこっそり心の中で毒を吐きながら、観月の言葉を待った。
「さて、本題といきましょうかね…」
そう言うと観月は一旦言葉を切り、三人にB5のコピー用紙を配りながら、再度言葉を紡ぐ。
「裕太君の誕生日をヤツよりも派手に祝うには、やはり企画は必要だと思いますので…僕がシナリオを用意しておきましたよ。ちなみにコノ紙です。裕太君の誕生日の企画書ですので…汚したり、無くしたりしないで下さいね」
言いたいことだけ言って観月は「じゃ。渡すモノ渡したので、僕はコレで…」と言ってその場を後にしようとした。
流石にソレには、黙っていた赤澤も待ったをかける。
それに対して観月は、首だけ其方に向けて…面倒くさそうに言葉を紡いだ。
「何です?僕は別件で用が有るんです。ですから、貴方達はその企画書にそって後動いて下さいね」
本当に好き勝手言ってのけた観月は、赤澤達を背にサッサと何処かに行ってしまった。
残った彼等は…観月から渡された紙には、PCで清書された企画内容が書かれていた。
それを見た三人は…。
((大方…野村に打たせたんだろうな…本当に観月は何もしないよな))
受け取った紙にかかれた、裕太の誕生日企画書の分担を眺めた三人は心底そう思ったのだった。
この後観月の渡した、『この紙』が後に波紋を起こすとは…。
この時誰も想像なんて出来なかった。
2月18日当日。
ルドルフ寮の食堂は、裕太の誕生会の為に貸し切り状態になっていた。
ちなみに観月プロデュースの誕生会は、手作り料理でもてなすと言う内容である。
彼の好物で祝ってやろうという粋な演出(観月的に)なのだそうだ。
勿論裕太本人には、この事実は秘密にしてある。
同学年で有る金田が、後から裕太を連れてくる手はずになっていると言う訳なのだ。
そんな中…総合プロデューサーである観月は裕太の誕生日企画の最終チエックするべく…アヒルとハチマキ事、木更津、柳沢ペアーの元を訪れた。
「柳沢…木更津…コレは…何ですか?」
「何って見たまんまだよ観月」
木更津は柔和な表情を浮かべて観月に言葉を返す。
「ミルクレープだぁ〜ね」
相方の柳沢は、補足を付け足すように言葉を紡いだのだった。
「どうしてミルクレープ何て…作ってるんですアンタ等わ」
呆れ口調で言葉を紡ぐ観月に、柳沢は心外だと言わんばかりに言葉を紡ぐ。
「観月が苺クレープケーキって紙に書いただぁ〜ね。俺達は忠実にソレを再現したに過ぎないだぁ〜ね。お店ではパットしたのが無かったから、淳と一緒に作ったんだぁ〜ね
」
「お菓子作り何て、普段しないから結構苦労したよね」
しみじみとした口調で、木更津も柳沢同様にそう観月に返した。
「おう、柳沢に木更津お前等話し込んでるが…出来たのか?」
そんな最中…カレー担当の赤澤が不意に、会話に参加してきた。
「勿論完璧だぁ〜ね。お前こそ準備はどうだぁ〜ね?」
柳沢は、木更津との共同作品を示しつつ赤澤にそう切り返した。
切り返された赤澤は、“ふん”と鼻で笑いながら言葉を紡ぐ。
「俺だって抜かりはねぇ〜ぞ。勿論出来てるに決まってるだろうが」
一旦そう言い切った赤澤は、少し間をあけてから再び口を開いた。
「俺の渾身のカレーだ」
何処か満足気に赤澤は、観月に作りたてのカレーを見せた。
それはまるで、大きな仕事を終えた男の様に…彼の表情は満足気だった。
そんな赤澤とカレーを眺めていた観月が、口をわなつかせながら言葉を紡いだ。
「赤澤…コレはいったいどういう事です?」
米神をピクピク痙攣させながら、かなりの低いトーンで観月は尋ねる。
「カボチャinカレーだろ」
アッサリ、キッパリそう言い切った。
そして赤澤の宣言通り、カボチャの器に入ったカレーが彼の後ろに控えてある。
「器も食べれるんだぜ。流石、不二家…モダンだよな〜」
(モダン何て言葉…今時使いませんよ…)
赤澤の言葉に観月はゲンナリとながら心の中でツッコミを入れながら、ボケ三人組(観月にとって)に苦情を言うべく言葉を紡ぐ。
「何であんた達はバカ何ですか!常識的に考えても、この料理はあり得ないでしょ」
「失礼だぁ〜ね。赤点何て、一つも取った事なんて無いだぁ〜ね…俺たちは指示通りに作ったにすぎんだぁ〜ね」
アヒル口を更にアヒルらしくさせて、柳沢は喰ってかかる。
観月も眉間に皺を寄せて、不機嫌全開に言葉を紡ぐ。
「だから、何処をどうやったら…『カボチャ入りカレー』と『苺、クレープ、ケーキ』が『カボチャinカレー』と『苺のミルクレープ』になるんです!!」
声を荒げて言う観月に、制作者側代表の柳沢が負けじと声を荒げて観月に返した。
「仕方がないだぁ〜ね。観月がくれた紙にはそう書かれてるんだぁ〜ね。第一、観月は全然準備なんてして無いだぁ〜ね…文句言える立場じゃ無いだぁ〜ね」
確かに其処には、『カボチャinカレー』と『苺クレープケーキ』とワープロ打で記されている。
観月はその紙を見て、唖然とする。
何度見ても、『カボチャinカレー』と『苺クレープケーキ』としか書かれていない。
そう…実は、この紙の文章を打ったのは…違う意味でルドルフ最強の三年生…野村だったのだ。
ルドルフテニス部の雑務王の彼は、仕事の腕はピカイチで有るが…誤字脱字が非常に多い男だった。
その事をすっかり頭から抜けていた観月が、確認せずに
結局の所観月にもかなりの非が有るのだが…。
如何せん観月は観月な訳で、(またやらかしましたね…野村君…)と心で毒づきながら
「確かに…野村君の打った文章は、コレですが…。常識的に考えてもですね…」
「常識的に考えても、こうなるよ。だって観月、指示通りにやらないと怒るじゃないか」
木更津は観月にそう返す。
相方である柳沢ももっともだと、首を縦に振る。
両者の見事なコンビプレーに、観月は苦虫を噛み潰したような表情になる。
そんな不機嫌な観月に、赤澤は部長らしい真面目な表情で観月を見る。
「そんな心配するなよ観月」
肩をポンポンと叩きながら、観月にそんな言葉をかけた。
「赤澤…。ですが…」
「第一このカボチャinカレーは…俺の渾身のカレーだしな。マズイ筈は無い。それに裕太に合わせて甘口にしてるんだぞ」
「そうそう生地なんて、一晩寝かせてから焼いてるし」
「苺も大奮発しただぁ〜ね。ちなみにクリームはカスタードじゃ無く、動物性+植物性の2:2の割合の生クリーム使用してるだぁ〜ね」
「だ〜か〜ら〜!僕が言いたいのわですね」
ブチブチ文句を口にしようとする観月の言葉を遮る様に「文句が有るなら野村に言え」一同は、観月にそう言いきった。
流石の観月も、それ以上言い返す言葉も見つからず…黙るしかなかったのである。
そんな半ば修羅場状態に成っている食堂に、元気で明るい声が響き渡る。
「先輩方〜不二を連れてきましたよ」
金田はそう言いながら、裕太の背中をグイグイ押しながら食堂に入ってきた。
「押すなよ金田」
「悪い悪い」
金田は両手を合わせて、短く裕太に謝罪の言葉をのべる。
そんな金田に、柳沢はすかさず助け船を出した。
「仕方がないだぁ〜ね。金田も裕太に早く中を見て貰いたかったんだから仕方が無いだぁ〜ね」
「え?何スか?」
「クワァッ。鈍い過ぎだぁ〜ね裕太…」
「え?だから何スか?」
裕太はサッパリ分からないといった表情で、周りを見て首を傾げた。
「クスクス。今日は裕太の誕生日でしょ…その事を言ってるんだけどね」
木更津が、ヤンワリとした口調で楽しげに言葉を紡ぐ。
裕太はまだ、状況が掴めないのかボーっとした様子だ。
そのあまりの鈍さに、金田はたまらず言葉を紡いだ。
「だから、先輩方が不二の為に色々用意してくれたんだよ。つーかお前に、朝プレゼントやったじゃ無いか」
金田は少し呆れたように言葉を紡ぐ。
金田と木更津の言葉に、合点がいったのか少し驚いた顔をした。
「ああ…埒が明かないだぁ〜ね。裕太来るだぁ〜ね」
そう言うや否や柳沢は、グイグイ裕太の腕を引っ張って…食堂の中央に導いた。
引っ張られるように連れてこられた、食堂の中央にには…普段見慣れない手の込んだ料理が湯気を上げて待ち受けていた。
裕太は、その光景に驚きながらも表情が明るくなった。
「へぇ〜苺のミルクレープにカボチャの器のカレーですか」
「良かったな不二。好きなモノばっかりじゃないか」
観月は蚊帳の外で、制作者と裕太と金田は実に楽しそうに会話を弾ませた。
「こんな手の込んだ手料理が寮で食える何て思って無かったスから…それに先輩達が作ってくれたなんて…感激っスよ」
裕太は、ご満悦といった表情で赤澤を始めとした制作者一同に向かってそう言った。
苦労して作った赤澤達も裕太のその言葉で、苦労が報われた気分になった。
「うっし!立ち話も何だ、座って宴といこうじゃ〜ねぇ〜か」
赤澤の言葉を合図に、裕太の誕生会は幕を開けたのであった。
和気藹々と食事と話しに花を咲かせながら、カボチャinカレーと苺のミルクレープを食べながら、裕太の頬は普段より弛みぱなしだった。
どうやら、本当に美味しいモノを彼らは作ったのは一目瞭然で。
裕太は思わず(今度帰るときにでも、母さんや姉さんに教えよう…)心の中でそう思ったのだった。
兎にも角にも、裕太の誕生日計画は…観月の計画とは異なるシナリオに陥ったが…。
意外にも…苺のミルクレープとカボチャinカレーが好評で無事に幕を降ろした。
ただ…観月だけが、複雑そうな表情で裕太の誕生日を祝った。
(まぁ…結果オーライって事何ですかねぇ…。ですが、取りあえず…野村君の練習量は3倍にしておきましょうかね)
苦笑を浮かべてそんな事をこっそり思ったのである。
コレは裕太の誕生日での一コマの話し。
おわし
2004.2.19. From:Koumi Sunohara
★後書き★ 笑えない小話でスイマセン。 やはり誕生日には間に合いませんでした…。 裕太と自分の誕生日だったのに…。 取りあえず一日遅れに留めたのが奇跡かな? 多くは語りませんが、こんなお話を何処か誰かが楽しめれば幸いだと思っております。 読んで下さり有り難う御座いました。 |
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