みとめる事から始めよう(3)
喉に刺さる小骨
感じる違和感
認めてしまえば丸く収まる
実に簡単な事だった
監督に言われた言葉を踏まえて、俺は山吹中テニス部の情報を再度洗い直した。
正確には、南健太郎が関わったであろう時期からの山吹テニス部なのだが…。
分かった事は山吹の狸爺もとい伴田監督の古狸ぶりと、うまく纏まっているチーム結束。
不動峰の統括ぶりに似ているが、一人の統治では無く手と手をとったら丸くなるといった感じの纏まり方だった。
ソレを冷静に考えてみた…。
山吹のテニス部の部長を様々な部長に当てはめた。
けれど俺が山吹の部長代行をしたとしても、丸くならない。
他の連中もそうだ。
青学には手塚。
不動峰には橘。
聖ルドルフには赤澤とブレーン観月。
立海大には幸村、真田…参謀の柳。
各校に必要な人材が纏めてる。
これが違う人間ならけして上手く起動はしない。
達した結論はその言葉に尽きた。
が…不安定なものが集まった纏まりを維持できる…南という可能性には未知数でしか無い。
(南がもし…ふらりとやって来て、指導をするとしたらどうだろう?)
不意に浮かぶ考え。
押しつける訳でも無い…かといってそんなに甘くない真面目な人間…時間がかかったとしても意外に上手くいくのかもしれない。
我を通す訳でもない人間なら…じわじわと浸食していく水の様に、気が付けば知らない内に馴染んでしまってるかもしれない。
人工添加物が自然と体内に蓄積されてゆくように。
(ネジに油を馴染ませる如く…些細な事の重要性か…。マネーゲームと同じってか…つったく俺様の眼力も焼きが回ったか)
頭のシュミレーションを経て、俺は自嘲気味にそう思った。
昔の俺なら、小さい可能性だろうが見える視野が有った…だが同じ力量の連中とばかり居た所為か…少し眼力が曇っていたようだ。
その曇りを…違和感を…そして南を認めてしまえば、嘘のように前のように周りが見えるようになった。
だからこそ…そんな些細な可能性が今の俺には面白くて仕方がなかった。
「別に氷帝に痛手になる訳でもねぇ…南の可能性とやらを試してみるのも悪くは無いか…」
天を仰ぎ見て誰に言う訳でもなく一人呟く。
(ふん…本当に俺様の眼力をすり抜けていた…人材だったら…有る意味他の部長連中より逸材なんだろうよ。良い意味での裏切りは楽しいもんじゃねぇか)
心なしか足取り軽く、部会をする会議室の中に俺は誰よりも早く足を踏み入れた。
此処にそろそろ来るであろう南という可能性が来ることを願いながら。
おわし
2008.1.31. From:Koumi Sunohara