大事なモノはすぐ側に(南部会編)

  気づけば線は丸になる?  


人間驚くと、一瞬思考が止まると言うが本当らしい。
そして、目にした驚く現実を背けたくなる内容だったら…誰でも一度は思うだろう…。目の錯覚だと。
俺は見事例にも漏れずに、そんな人間だったらしかった。

(目の錯覚?それとも俺の目の錯覚?はたまた妄想だろうか?)

動き出した頭の中で次に思ったのはそんな言葉だった。

けれど、頬を軽く抓ろうとも、痛みはリアルに感じ自分が眠って無い上に妄想でも無い事が突き付けられる。

俺は…もしかしたら、俺以外の手塚や橘達もこの状態を見たら、目を疑っただろう。
何せ部会のやる部屋に南が戻ってきたのだから…。

しかも真田と跡部に挟まれて座ると言う、ちょっとばかし有り得ない取り合わせに和気藹々とした会話など…コレを見れば、きっとそう思うに違いない。

南が部会に戻ってきた。
遅かれ早かれ、そんな時はくるとは思っていたが、意外に早い事に地味に驚きを隠せない。

橘、それに手塚…らへんは元々南に対しての風当たりが無い連中だったからもしかしたら働きかけたのかもしれないが。

そして、どれだけボーッとしていたのだろうか…俺は不意にかけられた声に意識を引き戻されたのだ。

「おーい赤澤。どうしたんだ?ボーッとしてないで中に入れよ」

その人物は手を軽くあげて手招きしながらそんな言葉を口にした。
俺は軽く目をしばたき、声を発した。

「南?」

「何だよ赤澤、俺存在感薄いかもだけど、つい最近ルドルフでダブルス練習をやった奴の顔忘れるなんて酷いぞ」

冗談めいた口調と苦笑を上手い具合に合わせた南がそう口にする。

「忘れないぞ流石にボケ始めるには早いだろうが」

「いやーあまりにも、赤澤が不思議な顔で見てるから、まさか…顔を忘れちまったりしてと思ったんだよ。他意何て無いぞ」

至極真剣な顔でそんな事を紡ぐ南に、俺は(本当に南だよな〜)と不謹慎ながら思った。
すると、俺と南の会話に乱入する奴らに言葉を挟まれた。

「ふん。どうせ南が急に部会に来た事に驚いていれんだろうがよ」

「うむ。そうだな」

尊大な態度の跡部に負けず劣らずの真田の様子に俺は少し、顔が引きつる。
けれど、南一人が気にしないのか彼らと俺に言葉を返す。

「あ…そうか。そうだよな、悪い赤澤。ビックリしたよな」

跡部と真田の両者に言われた南は、申し訳無いと言った表情で俺に言う。

「いや…そう言うわけじゃねーんだ。ただちょっと、ボーッとしてただけだ。南が謝る必要は無いぞ」

(と言うより、お前二人が南と居る事にビックリしてんだよ)

と心の中でだけこっそり思う俺。

「そうか…でも。ルドルフの時に言ったけど…俺の我が儘で来なかったしな…急に来たり出し…やっぱり悪いと思うから言うよ。ゴメンな」

「だぁ〜!!だから一々気にするなよ南。世の中皆我が儘だぜ…うちの観月を全て見習えとは言わないが…少しぐらい自分のために我を通したって良いじゃだろ。大抵この部会の連中はそんなことぐらいで怒らないだろさ」

頭を掻きながら俺は、そう南に言う。

「赤澤もたまに良いこと言うじゃねぇの」

「ああ。同感だ」

相変わらず失礼な合いの手を入れる両者に俺は、溜息混じりに言葉を紡ぐ。

「と言うより…何でそんなに急に南にフレンドリー何だ?正直当たり厳しかっただろ?」

「「そんな事ねぇよ(無い)」」

綺麗に言葉をハモらせて、跡部と真田はそう言った。
南は何だか苦笑を浮かべている。

その様子を見たとき…先俺が言葉にした言葉を思い浮かべる。
“一々気にするな”

(この凡人の常識が通じない連中を一々気にしていたら神経衰弱になっちまうよな)

「あ…そうか。なら良いが」

そう言って俺はそこから先、この事には立ち入らなかった。
それにしても、意外なのが跡部と真田がこんなにも早くに折れる何て思わなかった。
別に奴らが他人の評価をしないとは思わんが…上に立つ人間にはかなり手厳しい奴らだ。

それがどうだ?何やら昔馴染みのように軽口が飛んでる。
都市伝説級のミステリーだ。

(何をきっかけに、奴らが折れたのか?)

不意に浮かんだのはそんな疑問。
けれど聞く勇気は無い

少し残念のような気もするが、これはこれで良かったのかもしれない。
部会の空気が善くなるのだろうから。


おわし


2008.3.24 From;Koumi Sunohara

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