大事なモノはすぐ側に(南部会編)

  絶対無理は案外難しい  


南がこない部会から時間は過ぎ、樺地との会話でしばらく出方を待つこと決めたある日。

普段通りの部活。綿密に組まれた、トレーニングをこなし…監督のアドバイスを受けて一日の部活が終わる。
今日もそうやって終わりを告げ、部長の雑務をこなせば帰れると頭の中でスケジュール確認をしていた。

けれど、一体なんの因果なのか俺は珍しく監督に呼び止められていた。

「跡部」

不意に呼び止めれれた監督の声に、俺はやや不信感じながらもポーカフェースで返事を返す。

「何でしょうか、監督」

紡ぐ言葉の先に居る、彼人は相変わらず読めない表情で俺を見る。

「最近何か変わった事があったと聞いたのだが?」

声を荒げる訳でも、訝し気という訳でもない淡々とした口調で監督は言葉だった。

「まぁ大きな変化はありませんよ。監督がお気になさる問題じゃ無いですね」

尋ねられた言葉にそう返せば、監督は「そうか」と一旦言葉を切った。

「大きな問題では無いが問題があると言う訳だな。成る程」

一人納得気味の監督に、俺は表情を崩さないように言葉を紡ぐ。

「何か気になる事でもありましたか?」

ポーカフェースの裏では(この人は何処まで気が付いているのだろうと?)思いながら、何でもないふりをする。
そんな俺の心情を知ってるか知らないのか…監督は気にせずに言葉を繋げた。

「いやな…ただ。山吹の判田先生からは特に何も無いのだが…部会に南君が来ていないと竜崎先生から聞いているのだが…何か問題でもあったのかと思ってな」

「監督が気になさるような事では無いですよ」

即答で、これ以上の話を無ししようと切り捨てる。まぁ上手くいけば儲け物と言う感じの出方なのだが…。

「だが実際、部会は実りあるものでは無くなった…違うか?」

案の定監督の興味は殺がれる事も無く、話はやはり続いていた。
しかも痛い言葉と共に…。

「そうですが…」

口を濁す俺に監督は「まぁ…跡部も気が付いてるだろうが」とそう言った。

(チッ痛いところを突いてくる…流石と言うか。だがこの口振りからすると南が重要なのは確実何だか…わざわざ言うって事は、待っているだけでは事は好転しねぇと言うことか)

浮かぶ嫌な気持ちを胸に俺は、白々しくも監督に言葉を投げかけた。

「そんなに南が重要ですかね?」

「ああ重要だ。そうそう居ないだろうな彼のような人物は」

「青学の大石辺りも似たような感じに思えるのですが」

「確かに大石君と南君は似ている…ダブルプレーヤーであり他人のフォローが上手い。けれど大石君は、かなり自分の意志を曲げない面を持っている…それは良い意味でも悪い面もあるが…そこが彼らの違いだ。別に南君に確たる意志がないとは言わないが…彼程柔軟に物事考え、気が付いたら意見をまとめれる人材は稀な存在だと言えるな」

少し悩んでから監督はそう言葉を綴った。
俺はその言葉の意味を計りかねながらも、その綴られた言葉に俺なりに返した。

「柔軟ですか…。と言うより無難なような気がしますが」

南健太郎と言う人物像を様々浮かべながら俺は一番浮かぶ言葉を継げる。

(目立った悪いところも無い…かといって凄い才能がある様には見えない。何処にでもいる平凡な男としか言いようが無い…だが樺地とも話した様に彼奴が居れば話は円滑に進むのも事実だ…。監督が気にかけるほどのものなのか?)

心の中でぼんやりと思いながら、俺は監督の言葉を待った。

「無難というものは案外少ないものだ。基本基本といっても気が付けば、その形は大なり小なり変わるものだ」

「無理だと決めつけて…諦めた時点で輝きは無くすかもしれない。けれど…それでも絶対無理と証明しろと…その証明通りにいくことは完全には無い。犯罪を犯し心理学者が大まかに判定するが…みなたどり着く道筋が違う…それと同じ様に…無理と言う事を証明する事ははるかに難しいだろう。まぁ…よい例が我が学園にも居るだろう」

「宍戸ですか…」

不意に浮かぶのは、レギュラー落ちから返り咲いた人物を思い浮かべる。
無理を可能に変えたのはつい最近の新しい記憶だ…。
だからと言って、宍戸と南を繋げるにはあまりにも違いすぎたのだ。

それ故に俺は、監督の言葉にピンとこなかったのかもしれない。

「そうだ。無理だと分かっていても…前例が無くても…宍戸は諦めずに無理と言われたレギュラー入りを再度果たした。己を信じ仲間を信じる力で不可のを可能にした。それが何よりの証明では無いか跡部」

「そうかもしれませんが…」

「確かに南と宍戸は人間性にしても何もかも違うだろう。だが、彼もまた個性が強い古豪山吹をまとめ上げている…いや…大きな懐でのびやかに結束させている人物なのだよ。彼は…南健太郎と言う生徒は君たち全国区レベルのシングルスの部長に無いモノを確実に持っている。それだけは断言出来る」

「…」

監督と言う顔というよりは、一教師として生徒を見る目で言い切る監督の言葉に俺は納得がいきながらも、納得できなく無言になった。
それが表情にありありと出ていたのだろう。監督はそんな俺に言葉を続けた。

「納得できないか…跡部」

「いえ…ですが…少し解せないとは思います監督」

「そうか…だが跡部。優しさだけでは花は咲かない…厳しさだけでは成長はしない…ハードもソフトもバランスが取れなくては良いものが出来ない。合唱がよく響くのは…一人一人の声がバランスよく調和されるからだ…宍戸を信じたように、信じてみてはどうだ?南健太郎と言う一つの可能性に」

「可能性ですか?」

「ああそうだ。教師は生徒の可能性を信じ、伸ばしてゆく…部長であるお前とてそうでは無いか?そうだ跡部…機会があれば、彼とダブルスを組んでみると良い。まぁ…私が言えるのはここまでだがな」

そう謎めいた言葉を残し、監督は何時もの様に立ち去った。
その監督の言葉と共に俺は益々南健太郎と言う男の事への、考え方を見直す事となる。
南健太郎と言う可能性を…。


おわし

2007.12.2. From:Koumi Sunohara

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