居心地が良い場所





何となくホッとする

意味も無いのにそこに居たくなる

それは自分の一番の落ち着く場所



自分の家でも居心地の良い所が存在する。
我が家のカルピンも、自由奔放ながら好きな場所が何個か存在するし、駄目親父はよく家の縁側で新聞片手にダラダラしてるか、寺のテニスコートに意味も無くいる。
それはまぁ〜居心地が良いって事なんだと思う。

自分の部屋が有るけど、リビングが何となく落ち着いて、ダラダラと意味も無くいたりする。

俺にとってテニスコートと家のリビング…最近は学校の部室が割と居心地が良い場所だったりする。

人付き合いがお世辞にも得意とは言えない俺。帰国子女だとか抜きにして、俺という存在自体が人付き合い下手で会話下手、仕舞いには面倒ぐさがり、ハッキリ言って日本の部活に向いて無い。

それでも、俺は何だかんだ青学テニス部が居心地が良い。

(本当に変だよね。こんなに他人何てどうでも良いって、テニスさえできれば良いって思っていたのにさ)

不意に思いながら、浮かぶのは部活の先輩方。
変わり種が多い先輩方のおかげなのか、口下手でもコミュニケーション下手でも、嫌な気分にならず好きなテニスが出来る。


テニスは好き。けどダブルスは苦手。
ダブルス無理そうな桃先輩なんか、気が付けばちゃんとダブルスしてるんだから世も末だ。
しかもよりにもよって、犬猿の仲の海堂先輩とダブルス何だから不思議すぎる。
七不思議に上げても良いかもね。


何となく気分転換にブラブラ歩けば、桃先輩と訪れたことのあるダブルス専用のテニスコート。
はっきり言ってシングルス専門の俺には、場違いな場所だった。

(何でよりにもよってダブルス専用なんだろう?)

テニスコートを恨めしそうに眺めながら俺はそう思う。
だってそうだろ?
普通ってシングルスがもっぱらなんだしさ。

けど何度眺めた所で、現実は変わることもなく。
ダブルス専用のコートはダブル専用のまま。

(見てたって仕方がないし…やっぱり家でカルピンと遊ぶかな)

そんな事をぼんやりと考えていた。
そこに…。

「あれ?青学の越前じゃないか。どうしたんだ見てるだけで、テニスやらないのか?」

大石先輩に似た雰囲気を持つ、和みオーラのツンツン頭の白ランの人が声をかけてきた。

(どこかで見たことが…白ラン…山吹…ちょっぴり地味そうな…嗚呼地味!)

「あっ…山吹の地味な人」

思わず失礼ながら、浮かんでしまった言葉を紡げば、その人は大きな溜息と苦笑いを浮かべた。

「…南健太郎…一応山吹部長何だけど。地味地味言わないでくれると願うんだけどな」

諦め半分な口調で言う南さんに申し訳無い気持ちになり、珍しく謝った。

「あっ…すんません」

そんな俺に南さんは、苦笑を浮かべながら微妙な表情で言葉を返す。

「悲しい事に、慣れてるしな。せめて名前ぐらい覚えてくれれば良いって」

「ッス。じゃぁ南さん?南先輩?」

「年上である事には変わらないけどな…直接的な先輩じゃないからな…越前が呼びやすい呼び名で良いぞ」

「じゃぁ南さんで」

「ああ。で…越前はテニスをしないのか?」

頷きながら冒頭の質問を投げかける南さんに、俺は苦笑を浮かべる。

「ん?どっか調子悪いのか。太一もだけど越前もそうとうテニスが好きだと思うんだが…大丈夫か?」

心配そうに尋ねるその人に、すまなさを感じて俺はボソリと呟いた。

「ここ…ダブルス専用何ス」

罰悪そうに呟けば、南さんは驚いたように目を大きく開いた。

(そんなに驚く事なのかな…)

あまりの驚きように俺は俺でビックリした。
そんな俺にお構いなしに、南さんは考えるように言葉を紡ぐ。

「んー。越前ってダブルス嫌いなのか?同じテニスなんだが」

頬を軽く掻きながら…擬音をつけるならポリポリと掻きながら南さんは言う。
それに対して俺は、珍しく言葉を素直に言った。

「ダブルスあんまりやった事無くて。やったらやったで全然向いてなかったス」

「成る程。組む人間との相性というものも有るからな」

始めから否定するのでは無く、あっさりとそう言い切る南さんに俺は唖然とする。

(だって…仮にも…つーかダブルスプレーヤーがそれで良いんだろうか?)

そんな気持ちもあって、俺は疑問を投げてみた。

「そんなあっさりと、相性で判断出来ちゃうんですか?つーか相性明らかに悪い、桃先輩と海堂先輩がダブルス組んで上手くいってるんスよ」

「相性って言うのは一つの基準だけどな。でも桃城と海堂の場合はライバルだからお互いを分かってるって面が強いんじゃないのかな。それだけ相手を見てる訳だし…だからどう動くのか分かるってもんじゃないのか」

「そんなもんスかね」

「そんなもんだぞ。と言うか去年の桃城と海堂だったら無理だったろうけど…お互い少し理性的考えられるようになったから上手くいくんじゃないかな」

「他校の部長の南さんが分かるってのもどうなんだろう。手塚部長気がついてるのかな?」

ポロリと呟けば「分かってるさ。分かって無くても分かってる奴がいるだろう?」と柔らかく笑ってそう言った。
そんな柔らかな雰囲気のこの人と同じ部長である眉に皺が定着した自分の所の部長を思いだし顔を顰めた。

「同じ部長なのに全然違うスね」

「手塚は手塚。俺は俺…いろんな奴が部長やってるから…それぞれの学校に特色があるんだと思うぞ」

「まぁそうスけど」

「越前南次郎の息子って言うのは変えられない事実だけど…越前リョーマは越前一人だ。ダブルスが苦手…テニスが…青学のテニスが好きな越前で良いんじゃないか?それと同じだって」

ポンポンと軽く頭を叩かれる俺。

(何か子供扱い?と言うか何か悟りきってる大人みたいだなぁ南さんって親父と大違い)

そう思っていた所為か、心の言葉がそのまま口に出ていた。

「親父さんはどうだか知らないけどさ。思えるようになったんだよ。つい最近だけど…だから人のことは言えないけどさ」

「それでもウチの馬鹿親父よりずーっと大人だよ。それに何か凄くホッとするし南さんの側」

「青学のエースにそう言って貰えて俺も嬉しいよ」

「と言うか南さんが青学に…いややっぱりいいや」

「ん?どうした?」

「何でも無いス」

そう言って俺は言葉を一旦切ることにした。
その所為だろうか…先程までこぎみよく会話が弾んでいたキャッチボールが何だか途切れてしまった。

そんな沈黙に人の良いこの先輩が耐えられる筈もなく。
申し訳ない感じの表情で言葉を紡ぎだした。

「悪かったな、折角の休みに俺と会話何てつまらなかっただろ?」

少し不安そうにそう切り出すその人に、俺は盛大に首を横に振った。

「俺は少なくても今日南さんと話が出来て良かったと思うス」

「ありがとうな」

「それに…南さんにならダブルス習っても良いかもって思ったしね」

「お?本気にするぞ」

「本気にして良いスよ。でも俺駄目生徒スけどね」

「そんな事無いだろう。越前はテニスのセンスはあるし…あっという間に追い越されそうだよ」

「それは無いスよ」

「そうでも無いと思うけどな〜」

「そうでも有るス。あ…そうだ。南さん携帯番号とメアド教えてくださいよ。ダブルス教えてくれるんスよね」

「ああ良いぞ。俺じゃなくても大石とか教えてくれそうだけど…越前が気が向いたら山吹においで」

「本気にしますからね南さん」

「五月蠅いのもいるけど、気軽に来いよ越前」

「あの不良が居る時点で十分普通じゃ無いと思うけど。南さんも地味に地味じゃないって分かったし…ああ…勿論良い意味スよ」

「ははは。地味はもう聞き慣れたよ」

軽く笑って流す南さんに俺も笑って返す。

「じゃ…本当に連絡するんで。宜しくス南・先・輩」

「ああ…越前こそ気をつけて帰れよ」

俺は手を振って南さんと別れ家路についた。



俺は居心地の良い場所を手に入れた。
携帯という…無機質の機械と言う連絡手段と共に。


おわし

2007.6.8.FROM:Koumi Sunohara


BACK