空は雲一つ無い快晴ぶり。
夏特有の澄み切ったスカイブルーが広がる。
そんな爽やかな空の色とは裏腹に、真夏の太陽の日差しは大変厳しいものだった。
肌に当たれば、確実にジリジリと焼けるのでは無いか?と錯覚を起こしそうな気分になる。
こんな熱い日差しの中、青学副部長大石秀一郎は炎天下の中に居た。
(コートに立っていたり、練習中ならあんまり感じないのに…普通に過ごすときはこんなにも…熱い何て思うんだよなぁ〜)
大石は苦笑を浮かべながら、そんな事を思った。
ボーっと訳もなく空を見上げ、思考を飛ばす。
どのくら意識を飛ばしていたのだろう、大石は誰かに呼ばれたような…気になった大石は飛ばしていた意識を現実に戻した。
「大石」
不意に大石は自分を呼ぶ声に気が付いた。
至近距離では無く、やや離れた場所
声のする方向に大石は首を向ける。
(ん?この声は…何処かで聞き覚えが有るんだけど誰だったろう?)
振り返る最中そんな事を考える大石。
振り返った大石の目には、白い学ランを着た背の高い男が視界に捕らえられていた。
「大石だよな…良かった有ってたな…珍しいなこんな所で会うなんて」
白ランの男コト南健太郎は、ホッとした表情で大石にそう言ってきた。
大石もまた、声の主に少しホッとしながら南に言葉を返す。
「南か。どうしたんだ?山吹は今日は部活無いのかい?」
街中で出逢った相手に、大石はすぐに過ぎった疑問を口にした。
それは青学は関東ファイナルを控えているが…山吹にもコンソレーションが控えていると言う事が頭に有ったからだ。
南も大石の言葉の裏に隠された真意を読みとったのか、すぐに返事を大石に返した。
「いや部活はちゃんと有るよ。ちなみ部活は午後からだ…ココに居るのは、部活に必要な物品の買い出しだよ…皆に頼む前に俺が気が付いてしまってね…ってそう言う青学は今日は休みなのか?」
丁寧に状況説明をした南は、大石にそう切り返す。
大石は少し苦笑を浮かべて、腕に巻かれた包帯を示しながら言葉を紡いだ。
「俺は病院に寄ってね…ああ今日で医者からOKは出たんだ。ちなみにウチも部活はちゃんと有るぞ、何せ大きな試合前だからね」
そう言った大石を南は納得気味に頷いた。
「そうだよな、それより腕が完治して良かったな。…ん?…そう言えば大石浮かない顔してるが、何処か体の調子でも悪いのか?それとも日射病か?大丈夫なのか?」
「ああ大丈夫だよ」
「そうか…具合が悪い訳じゃないんなら良いんだが…。無理は良くないからさ…って俺が大きな声で言えた義理でも無いんじゃね〜けどな」
最後の方言葉は苦笑混じりに南は大石にそう言った。
「分かっているよ南はそんなヤツじゃ無い。山吹の連中を見ればソレはすぐに分かるし、試合を通してでも伝わるってくるからね」
迷いも無く真っ直ぐ言い切られた言葉に、南は少なからず驚きを覚えた。
そして「そっか…有り難うな」と大石に素直に返した。
大石もそんな南の言葉に「どういたしまして」と笑顔で返す。
しばらくそんなやり取りをしていた大石と南だったが、大石が何かを思い詰めた表情をして南を見て不意に言葉を紡いだ。
「あのさ、南さえ良かったらで良いんだけど」
「ん?何だよ畏まって…どうした?」
「南さえ迷惑じゃ無ければ…俺に少し付き合ってくれると有り難いんだけど…どうかな?」
「買い物も終ったし…部活までの時間も大分残っているし…。問題無いし、俺は一向に構わないけど…でも俺何かで良いのか?」
南は少し考えながら、大石にそう尋ねた。
言葉の裏には「青学の連中じゃなくて、俺なんかで良いのか?」と臭わせながら南は大石を見る。
「ああ南にお願いしたいんだ」
大石は真っ直ぐ南を見てそう口にしたのだった。
流石に炎天下の中で、話し込むのはマズイと思った2人は場所を少し涼しい公園に移していた。
そこで何故だか大石は南に不安や愚痴を零したのだった。
それはきっと同じようにダブルスプレーヤーでも有るし、何処か自分と同じような臭いというのだろうか…性質と言うのだろうか…それら故なのか…他校でも有りライバルでも有る南に大石は素直に弱音を口にしていた。
手塚が抜けた穴の大きさ
部長代理としての勤めが務まっているだろうか?
関東ファイナルが立海大付属で有る不安
勝率の低さ
重なりゆく不安の要素
次々と上げられた言葉に南は、時には頷き…そして大石の言葉を黙って聞いていた。
しばらく話していた大石だが、言葉が止まり何かを考えるように俯いた。
そんな大石を黙ってみていた南が、深呼吸一つ吐いた後、意を決して言葉を紡いだ。
「プラスに考えたら良いじゃ無いか?王者立海の胸を借りれる機会なんて…ましてや大舞台で何て無いんだしさ…。それに全国制覇を目指すなら確実に立ち向かわなきゃ行けない壁なら…尚更良い経験になると思う…勝敗は兎も角な。まぁ〜勝てない事が良いって言うんじゃ無いけどな。次に進むためには必要だろう?それにお前が不安がっている部長の代行だけどさ…十分代理以上の力を発揮していると俺は思うぞ」
南は大石の目を真っ直ぐ見返し、そう言いきった。
(まるで先の逆だな…)と内心思いながら大石は南を見てそう思う。
それに南の言っている事が強ち間違っていないとも大石は思った。
(立海戦の事は…南の言う通りだよな…でも…部長代行には正直不安ばかりだよ。南は大丈夫だと言ってくれるけどな)
浮かぶ不安の中大石は南に言葉を返す為に、口を開く。
「そうかな。何か、責任を持とうと思うと空回りしてる感じがするんだけどね…心理ゲームとか…」
苦笑混じりに呟く大石の言葉に、少しだけ南も苦笑を浮かべつつ言葉を紡ぐ。
「まぁ心理ゲームは兎も角として…よくまとめてるんじゃ無いか?元々手塚のサポートもしっかりしてたし。それとな大石…自分にしか出来ないものって言うものが、必ず有るだと俺は思う。「人には必ず自分にしか出来ない役割が有るんだ」ってコレは千石の受け売りだけどな。御陰で俺は、部長を辞めずに続ける事が出来てるよ。そうやってさ…俺にしか出来ない事が有るように、大石にしか出来ない事は必ず有るんだ」
南は一旦そこで言葉を句切り、深呼吸一つつくとまた言葉を紡いでいった。
「亜久津だってさ…太一…ってウチのマネやっていた1年生なんだけどな。そいつに、プレーヤーになる勇気を与えたんだ…それは俺は亜久津にしか出来なかった事だと思っている。それにな…お前だけじゃ無いよ、手塚と言う大きな穴を埋めようとしてるのはさ…」
ニッカと笑って南は大石を安心させるようにそう言葉を紡ぐ。
それを大石は何とも言えない表情で南を見かえすばかり…。
「南…」
思わず呟く言葉だが、大石は其処から先に繋げる言葉が見つからず…困った表情で南を見るばかり。
そんな大石に「一人で解決できないもんは…誰かと共有するのも一つの手だぜ」と意味ありげな表情を浮かべそうアドバイス。
そのアドバイスに大石は少し目を見張った表情をして、それから少し考えるような仕草をとった。
「俺一人悩んでも仕方が無いよな」
少し考えた仕草の後、大石は何かを吹っ切った表情で南を見かえし言葉を返した。
「そうそう。たまには吐き出せよ大石」
南は安心させるようにポンポンと大石の肩を叩きそう声をかけ「ん?もうこんな時間か…そろそろ行かなきゃな」と言葉を漏らす。
「そうだな、結構しゃべったな…。南…今日は有り難う。何だか心が軽くなった気分だよ」
礼をのべた大石が立ち去るべく“よっと”かけ声を入れ腰を上げた。
そこにタイミング良く…「待てよ大石」と南はそう言うと歩き出す大石にそう声をかけ、何をを大石の方に向けて投げた。
ポーンと南は大石に向けて何かを投げて寄こした。
物体は綺麗な放物線を描き、見事に大石の手の中に落ちる。
「MD?」
不思議そうに手に収まった小さなデスクを見て呟く大石に南は満足気に頷く。
「ああMDだ。それの3番目曲…きっとお前に役立つと思うんだ…良かったら聴いてみてくれ。それと…全国でお互いもう1度対戦しような」
そう言いきると南は颯爽と夏特有の熱気を帯びた風を切って走り去った。
それを大石は黙って見送ったのであった。
南と別れた大石は、手持ち愚さにMDを見つめ(何が入っているんだろう?)と少し気になりながらも、そっと鞄の中にしまい込んだ。
「そう言えば…俺MDデッキ無いんだけど…どうしよう」
ポツリと呟き大石もまた、午後からハジマル部活に向けて歩き出した。
午前に比べると幾分外気の温度が下がったのか…はたまた馴れてきたのか…その辺は不明だが、コートの中では部員達が元気よく練習前のUPをしている姿がチラホラ見受ける。
午後の部活を始める前に、大石はぼんやりと南が投げて寄こしたMDに視線を向けていた。
すると…部内一の曲者桃城が、大石の手の中に有るMDを目敏く見つけたのか声をかけてきた。
「あれ?大石先輩、MD何か握りしめちゃってどうかしたんスカ?」
そう言うと桃城は不意に背後から大石の手の中のMDを示してそう口にする。
「ああ桃か。MD貰ったんだけど…実はMDデッキ持って無かったりするんだよ。で…どうしたものかなぁ〜と思って居たところなんだ」
少し困り顔で大石は桃城にそう返した。
MDは相変わらず大石の手の中に収まっている。
「成程MDスもんね。CDデッキとかは安いスけど…MDデッキとかポータブルでも結構良い値段しますもんね」
“うんうん”と納得気味に頷いた桃城は不意に何かを思い出したように、「あっ」と小さく言葉を漏らし大石を見た。
「ん?桃どうしたんだ?」
「俺ポータブルMD持ってるんした…。コレで良ければ貸しますよ」
練習前だった御陰か…桃城はジャージのポケットからポータブルプレーヤーを出しながら、大石にそう提案する。
「え?桃良いのか?」
大石は驚いたように桃城を見て、そう言葉を紡ぐ。
桃城は少し苦笑を浮かべて大石を見た。
「良いスよ。越前何て勝手に俺のプレーヤー使いまくってますから。遠慮は無用ですって」
そう言うや否や桃城はポータブルMDを大石に差し出した。
大石は「じゃ〜」と短く桃城に礼を述べ、MDプレーヤーを受け取った。
桃城から借りたポータブルMDで南の言っていた曲番を早速かけた。
耳には前奏の小気味良い音が流れてくる。
(普段聴かない曲調だけど…嫌な感じはしないなぁ〜)
そんな事をボンヤリと感じながら大石は耳を傾ける。
すると…。
負けたくないと 叫んだ胸の 声が聞こえただろう
強がって 立ち向かうしか ないんだ
誰でもないさ 君の番だよ 逃げだしちゃいけない
手のひらを見つめて 強く握りしめたら
ココロに チカラが流れ出す
Get break up! to break up!
新しい Fighter 本当のハジマリさ
キミを キミを 越えてゆくんだ
この場所から
Get break up! to break up!
沸き上がる Power キミはもう気が付いている
夢を夢で ほっとけないよ 叶えなくちゃ
lt's time to go!!
(何かこの歌詞って今の俺等の状況に似ている気がする…だから南は俺にコレをくれたのだろうか?)
大石の心の中でそんな事が過ぎりながらも音楽に耳を傾けていた。
色々思い巡らせながら曲を聴いていると、問題の曲は終わりに近いのか
その曲が終ったのを見計らい大石はヘットフォンを外し、プレーヤーからMDを抜こうとした時だった…。
「どうでした?」
桃城が待っていたように大石に声をかけてきた。
大石は笑顔で桃城に返した。
「嗚呼…良かったよ。桃有り難うな」
「いえいえこのぐらいお安いご用ですよ。それより、俺も聴いても良いスか?」
桃城はMDプレーヤーを示して遠慮がちにそう口にした。
大石はそんな桃城に「ああ、別に構わないよ」と短く返し、プレーヤを受け渡す。
それを楽し気に受け取りながら、桃城はさっそくヘットホンを装着しMDプレーヤーを再生させた。
少しのノイズの後に流れる軽快なリズムにノリノリで音楽に耳を傾ける桃城を大石は黙って見守って居た。
その間にも先聴いた音楽のことや南とのやりとりを大石は考える
(やっぱり考えて俺にくれたんだよなぁ〜。やっぱり南って良い奴だよなぁ〜)
そんな事を考えている間にも、桃城の聴いている音楽は終わりに近づいているらしく…ヘットホンを外しながら、桃城は曲の感想を返すべく口を開いた。
「でも、この曲どうしたんスカ?何つーか…大石先輩が聴く系の曲のジャンルとちっとばかし違う気がするんですけど」
“うむ〜”と少しだけ唸りながら、桃城は大石にそう言った。
大石はそんな桃城に「もらい物だからな」と笑って返す。
「ちなみにソレ…南がさ…南って山吹中の部長で…俺と英二が戦った山吹D1の選手何だけど…覚えてるか?」
「地味sの片割れさんがねぇ〜。まぁ人は良さそうな人でしたよね…何となく覚えてますよ」
「地味sって…桃…ソレは本人の前で言ってくれるなよ」
「ははは…善処します」
「本当に頼むぞ桃。…でだ…その南に部活に来る前に会ってね…」
そう切り出し大石は、MDを受け取った経緯を桃城に語り出した。
勿論、大石自体が漠然と抱いている不安の話は出さず…当たり障りのない話題の範囲をだが…。
それを聞いた桃城は、思わず感嘆の声をあげた。
「大石先輩も良い人ですけど…南さんも大概人の良い人スね」
桃城の率直な意見に、大石は少し苦笑を浮かべながらも同意の言葉をのべた。
「そうだな。そうじゃ無ければ、あの濃い山吹の面々をまとめることは出来ないだろうさ」
「不良の亜久津とか…千石さんとか…濃いスもんね。後芽が頭に生えた人とか渦巻き…グラサン…確かに濃いスね」
「いや…着目すべき点は其処では無いだろう桃」
困り顔で大石は桃城にツッコミを入れる。
「はははは…そうスね。えっと…そうだ!このMD…折角南さんがくれたし…良い曲スから、部室で流すっていうのはどうスカね?」
無理矢理話を反らすように桃城はそう言葉を紡ぐ。
大石もソレに攣られるように、頭を捻る。
「アレ?部室にデッキ有ったか?」
「無いスよ。でもポータブルとスピーカー繋げれば皆で聴く事出来ますからね」
「きっと乾先輩辺りが持ってますよ。それに、大石先輩の事だから…遠慮してその曲しか聴いて無いじゃ無いスか?」
「はははは…桃にはお見通しか…こりゃまいったまいった」
頬をポリポリ掻きながら、大石はそう口にした。
「気配りの人スからね…そう考えると似たもの同士スよね南さんと…だから良いライバル何スね。全国での再戦楽しみですね大石先輩」
楽しげに桃城はさり気ない言葉と共に、大石にそう言った。
「全国で対戦…か…そうだよな」
桃城言葉が南の別れ際に言った科白と重なった大石は…ボソリと独り言のように呟いた。
「あり?大石先輩何か言いました?俺よく聞こえなかったんスけど」
無意識に漏らした大石の言葉に、桃城は大石にそう尋ねた。
その言葉に(声に出ていたのか…まいったなぁ〜)と思いながら、大石は話題を変えるべく普段通りの声音で桃城に言葉を返した。
「気のせいじゃ無いのか?俺は言った覚えは無いぞ」
「そうスカ〜ぁ?ん〜気のせいスカね」
軽く唸りながら桃城は大石を見た。
「気のせい気のせい。さ〜て桃、今日は海堂とダブルス組んで…俺と英二の練習にミッチリつき合って貰うからな、覚悟しろよ!」
「ちょっと大石先輩〜待って下さいよ〜」
言うだけ言って立ち去っていく大石に桃城は情けない声を出しながら、追いかけたのだった。
熱風と澄み切った青が映える…真夏の中。
立海大付属との試合はもう間近。
不安ばかりだった大石の表情は、他から見ても良い変化をしていた。
END
2004.1.30. From:Koumi Sunohara
★後書きと言う名の言い訳★ さてさて珍しく曲を使ったお話に挑戦してみましたが、如何だったでしょうか? デジモンをご存じの方は、知っている曲だと思います。 デジモン02の挿入歌だったものを使わせてもらいました(無断でですが…<汗>)。 N,Saitou様とBBSでコノ曲が立海に挑む青学ポイとお話になり、では書いてみよう!ってな訳で書いたお話です。 大石がメインのはずが…南ちゃんが何やら素敵に目立ってしまいました。 南愛故(有る意味各部長好きかな?)なので、サラリと流して下さると有り難いです。 こんなお話におつき合い頂き有り難う御座います。 取りあえず原作の立海戦が終る前にup出来て良かったです。 後から手直し…するかもなぁ〜と孝作中なんですけどね。 |
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