側にいるからこそ
ずばぬけて、何かができる訳では無い。勉強も運動も、可も無く不可も無い。それでも、不思議と引き付ける何かがある人が居る。
何処にでもいる、クラスの中に必ず平凡と呼ばれる、ごく普通の一般的な人間。南健太郎もそんな人の一人だ。
別段目立つ事に命を燃やす訳でも無く、人あたりもよく、友達も気が付けば多く、クラスメートや先生などとも良好な関係が築かれていたりする。
居る事が当たり前で、居ないと違和感が生まれる、そんな存在。山吹に居る現在もそれが言える。
テニス部しかりクラスしかり、彼と交友を持った者全てが、南健太郎は居て当たり前な存在だったりする。
何だかんだ人あたりの良い彼は、山吹やテニス関係以外に広く交友をもっているのは地味に知られて居ない事だったりする。
南健太郎の家は父が公務員ではあるがごく普通の家庭の子供である。もちろん小学生の頃も私立ではなく都立の公立の学校に通っていた。
何気にスポーツ特待生である南は、特待生にならなければ、家族のために公立に進学を予定していたりする。
とどのつまり、中学前の交友関係があるというわけだ。まぁ…これは誰にでもある事だろうが。
チームメイトの千石清純や山吹の人間に地味だとか、地味Sとからかわれようが、南健太郎を一個人として見てくれる友が居る。
別に千石を始め山吹面々が南を一個人として見ていないとは言わないが…。
テニス関係無く南健太郎は大事にされているという事を知っていただきたい。南健太郎の友として願う。
ん?散々南を語ったがお前は誰だって?
俺は…。
「ただいま〜」
おっといけない。健太郎が帰ってきたようだ。
何だ?まだ俺の正体が気になるのか?それは…。そう俺は南家にお世話にになっている犬。所謂飼い犬という存在だ。
帰ってきて早々、健太郎は俺を軽く撫でる。これは何時もの事だ。
しかしながら、今日は騒がしいのがオプションで付いてきていた。
学校の校則で注意を受けないのか不明な、賑やかなオレンジ頭。千石がやって来た。
正直俺は、千石が好きじゃない。健太郎を困らせるし、謙虚さが無い。そんな俺にとっての招かねざる客の千石は、「おじゃまします」の言葉を紡がずにズカズカと入ってくる。
南家の母さんが、健太郎宛に電話がある旨を伝えると、千石はニヤニヤ顔で健太郎に声をかけた。
「南〜誰?彼女から電話?」
「バーカ。彼女からなら家電にかけないで携帯かかってくんだろ」
「そうだけどさ〜友達だってそうじゃない?」
「まぁな。でも今電話くれてた奴、今携帯壊れてっからさ、家電なんだよ」
「山吹以外に友達いたんだね南」
「千石お前ね〜俺を何だと思っているわけ?」
「わん。わん」
「え、何?南飼い犬」
「おいおい。いい加減名前覚えろよお前」
「メンゴ」
「わふ(健太郎の友達はお前だけじゃ無ねーんだよ)」
どうせ分からない事をいい事に、俺は招かねざる客である千石に吠えたのである。
まぁ願わくば、俺の大好きな飼い主である南健太郎の事を認めてくれる良い人間が彼の前に現れることを切に願うのだ。
おわし
2009.8.8. FROM:Koumi Sunohara