大事なモノはすぐ側に
柳暗花明
−気が付けば何時も道がある−
俺は周りに恵まれているのだと思う。
どうしようもなく落ち込んだ時、どうにもならない現実…。
そんな時…普通ならどんどん落ち込んでゆくけれど…何でかな…逃げ道というのか…進むべき事が気づけばそこにある。
テニスや勉強や人間関係。
自分一人でどうにもならない事柄。
今回もそう。
部会で上手くいかない事が結構あって…部長になりたての頃より少し凹んだ。
そんな時、仲間がさりげなく道を作ってくれた。
自分の力では無い歯がゆさ、優しさに触れて俺は結構自分の不甲斐なさに思わず顧問の伴爺に、ポロリとらしくもない愚痴を零していた。
「俺って恵まれますよね。こんな頼りない俺にはもったいないですよね」
漫画なら思いっきり、背中に影しょってるだろう雰囲気で俺はそう口にする。
そんな俺に、伴爺は相変わらず読めない表情で俺を見る。
「それが何か問題でもありますか?南君」
俺の言葉なんて何て事の無い様に、伴爺はそう言う。
俺はそんな伴爺に何とも言えない表情で返す。
正直どう返して良いか分からないと言うのが正しい答えなのだけど。
他校の奴だったか…誰かは忘れたが…伴爺が狸だと言った言葉を思い出される。
まさしく古狸…何考えているかさっぱり分からない。
そんな事も思いながら、俺は不思議な物を見るような目で伴爺をぼんやりと眺めた。
すると…やっぱり、何でもない事のように伴爺は何時もの口調で言葉を紡ぐ。
「おやおや…また落ち込んで居るんですか?千石君の脳天気と南君のネガティブで我が校は丁度良いバランスを保っているんですよ」
さり気なく酷いことを紡ぎながら伴爺はそう言う。
勿論俺は顔を顰めた。
「いやなバランスですよソレ」
「ははは。小さな事を気にしていたら、若くして剥げますよ南君」
爺の域を超えてきてもなお、白髪がたっぷりある伴爺にそう言われると、何だか妙な説得力がある。
「伴爺…」
「まぁ…そんな事は良いとして。恵まれてて結構じゃ無いですか。世の中そんな恵みも無い人が居るんですよ」
「はぁ。そうですよね」
「そうですよ南君。いや〜君には柳暗花明と言う言葉がピッタリ合いますね」
「柳暗花明ですか?」
「四文字熟語でしてね『行き詰ったかと思った途端、新しい展開が開けること』の例えるのに使われたりする言葉です。君にぴったりな言葉じゃ無いですか南部長」
「それと俺が何か関係が有るんですか?」
「君が困ったこと…道を迷いそうになった事を…そんな時に新しい道が示されている…ソレを柳暗花明と言わず何と言うんです?ぴったりな言葉ですよ」
ニマニマ笑いを続けながら、口調は真面目に伴爺は先生らしいことを言う。
「そうそう…若い内の苦労は買ってでもしろと故人も言いますしね。そんな苦労人にだって、ちゃんとサポート体制が充実してるんて本当に君はラッキーなんですよ。ラッキー千石くんよりラッキーかもしれませんね」
そう言い切った伴爺の言葉に、俺は確かにそうかもしれないと感じた。
恵まれていると言う事実を胸に…もう少し頑張るのも悪くないのかもしれない…いや…応えるべきなのだろうと、少しだけ心が軽くなった。
きっと…悩んでるのは自分だけど…差し伸べてくれる手があるのだから。
おわし
2008.8.4. FROM:Koumi Sunohara
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