『虹』


どんよりと灰色の空から、シトシトと雨。
夏に入る前の天気変わりやすく、こんな惨状で有るが、朝は雲一つ無く晴れ渡っていたのだ。
それなのに今は雨。
午後からは突然の雨だった。
体育会系の部活には、この気まぐれの天気は困るもので…。
勿論此処、山吹でも例外では無く。
不意の雨に普段外で活動をしている部活は、室内の部活


テニス部部長、南健太郎は憂鬱の顔を隠すことなく騒然としている廊下を歩いていた。
歩く先は、放送室。
部員達を集めるべく…突然の雨によって部活をどうするかを、相談する為に。



「集まってもらって悪いな」

部長の南がすまなそうな表情で部員達に開口一番そう言った。
部員達は軽く首を横に振る。
別段気にした様子は見受けられない。
その様子を察した南は、「そっか」とちょっとホッとした表情で
問題児と呼ばれている亜久津を視界に捕らえた

(珍しいく亜久津も来ていたのか…)

「亜久津も真面目に来てんのか、それなのに悪かったな」

「ケッ」

「亜君駄目だよ〜。折角南が労ってんのに…真面目に話し聞きなよ」

「ウルセー、俺に指図すんなっていてんだろがよ…と言うよりお前にだけは言われたくないぞ千石」

「亜君〜そんなにカリカリしてると、ハゲルよん」

ニッコリ笑って毒を吐く千石に、亜久津の眉間に皺が1本増える。
それを見た南が、米神を軽く押えて…溜息一つ。
意を決して、山吹のエースの方に向いて言葉を紡ぎ出す。

「ハイハイ、千石帰りにお好み焼屋寄ってやるからその辺にしてくれよ」

非常に疲れた声音で南は千石にそう言った。

「南ちゃんの奢り〜?マジ俺ってラッキー♪」

「豚玉にしろよ、今月ヤバイんだからさ」

そして南は亜久津に目配せする。

『悪いな亜久津今日は、俺に免じて引いてくれな』

亜久津は南の目配せに軽く手を振って応える。
そして『あんまり甘やかすと、破産するぜ』と千石示しながら亜久津は南にメッセージを送る。

『それは嫌だな〜。でも破産したら、千石に債務負わせるさ』

南はそう返すと、再び部員の方に目を向けた。

「それで、本題なんだけどさ。皆も気が付いてるとは思うんだけど…天気がな…」

窓に張り付く水滴を見ながら、南は言いにくそうに言葉を紡いだ。

「雨ですからね…やれることは限られますしね…部活の有無の話しですよね本題って…」

すかさず室町が南の言葉に反応を返す。

「そうなんだよ…伴田先生とも話したんだけど、『やること限られますから、皆さんで相談してやるか、やらないか決めるとしましょう。それでは南君、任せましたよ』って言ってきてさ」

溜息混じりに、南がそう口にした。

「うひゃ〜伴爺らしいねぇ〜南も災難だよね〜」

(お前が言うのか…千石)

などと亜久津は心の底でこっそり思いながら、彼らのやり取りをボンヤリと眺めていた。

「で…南はどうしたい?俺は南の意見に便乗しちゃうよん」

「折り合いもつかないし…皆も集中力欠けてるだろうから…俺的には今日は休息してもらおうかなぁ〜と思ってるんだけど」

「的を得た答えですよね。俺も賛成です部長」

「じゃ〜決まりでしょ」

千石は他の部員に同意を得るように、そう尋ねると一同コクリと首を縦に振る。
南は(後は伴田先生に報告して、終わりか…)と考えながら、普段見かける小さな元気な後輩の姿がないことに気が付く。

「此処に居ない人間って壇だけか?」

グルリと辺りを見わたすが、居ないのは太一だけ。

(珍しいな…何か有ったのかな?)

南が心配げに表情を歪めると、傍観していた人物が声を発した。

「今日は掃除が有るとかぬかしてたぜ」

亜久津がボソリと呟く。
亜久津の呟きに、南は少し考えこむような仕草をしてから言葉を紡ぐ。

「そっか…。じゃ俺が此処で壇を待って、話しするから…皆先上がって良いぞ」

そう言うと南は、座っていた椅子に座り直して周りを見た。
すると…。

「俺は暇何で、少し付き合いますよ」

室町はそう南に返す。
そんな室町に南は、「そうか…まぁこの雨だしな」と笑って承諾する。
そして南は、千石の方に目を向けると…。

「ちなみに俺は南とお好み焼きに行くし。勿論俺は太一君を待ってるよ」

“で…亜君は?”と亜久津の方に首を向けて、言葉を投げかけるが亜久津は、黙りを決め込むばかり。
でもその場を動かないのは、太一を待つ気満々なのは誰の目から見ても明らかで…。
その姿に、千石は苦笑を浮かべて…肩を竦めた。

「素直じゃ無いねぇ〜別に良いけどさ。つー訳で…このメンツ以外解散って事だから、皆帰っちゃってよいよん」

千石は、部員達にそう宣言すると「悪いな南」とか「部長お先に失礼します」とか口々に部員達は言いながら、また一人また一人とその場を去って行く。
その様子を黙って見ながら少し千石はふて腐れた表情を浮かべてボソリと言葉を漏らした。

「部長だってのは分かるし〜人望が有るのは分かるけどさ〜。皆南にばっかり挨拶して…俺だってエースなのにぃ…。扱い酷くない?」

((自業自得だろ))と千石以外の三人は心の何かでそんなツッコミを入れずには居られなかった。
でも取りあえず室町と南は曖昧に笑うしかなかった。



太一を待ち始めて、数十分ぐらい経った頃。
ガラガラガラガラ。
激しい戸の開く音と共に、小さな影が一同の目に映る。

「ダダダダーン。スイマセン掃除当番で遅れちゃいましたデス」

ゼーゼー息を切らして、マネージャー壇太一が

その微笑ましい行動の太一に、南は弟を見るような目でその後輩を見る。

「気にするな、掃除当番で遅れたぐらいで怒ったりしないよ壇」

柔らかい口調で、太一に南は言葉をかけた。

「でもでも…皆さんをお待たせしてしまったのは駄目です…だって僕一年生だし…えっと…」

少し難しい顔をして太一はそう言葉を紡ぐ。
南は(皆そんな事気にしてないのになぁ〜)と思いつつも、小さな後輩の言葉を黙って受け止めた。

「太一君はしっかり者だね。感心感心」

“うんうん”と爺臭い言葉を吐きながら、千石は太一の頭を撫でながらそう言葉を口にした。

「そんな…僕何て…まだまだですぅ」

「そんな事無いぞ。太一君はしっかり者だよ。俺の墨付き」

「嬉しいです。僕もっーともっーと頑張るデス」

良く分からない張り切り具合に、南は黙って見守っていたが…(太一部活が中止になった事言ってないな…そう言えば)言うべき事を言っていない事に気が付いた。

「ん〜折角…壇がやる気を出しているところを水を刺すのは何なんだけどな…」

楽しげな太一の様子に南は言いにくそうに言葉を紡ぐ。

「どうしたですか?」

「実はな、この天気だし…他の部とも折り合いもつかないから今日の部活は中止になったんだ」

“張切ってる所悪いな壇”と柔らかい声音で南は太一に言いにくそうにそう言った。

「えーっ。今日部活休み何ですか〜ふぇ〜残念です〜」

本当に残念そうに太一はそう言った。
例えて言うなら、尻尾を垂らした犬の様に淋しそうに見える。
その様子見ると別に悪い事していない、南はじめ部員達はいたたまれない気分に陥る。
(何か、凄い可哀相な気分になってきたぞ…)南は金欠気味なのに関わらず…思わず千石と行くお好み焼き屋に連れて行こうか(もちろん奢り)…とか思ってしまっていた。
金欠なのに…。
それに気がついた亜久津が溜息一つ吐いた。

(ったく…手間のかかる…)

そう思いつつ亜久津自信も太一の子犬の様なオーラにやられているので、南の気持ちが少し分かってしまう。

(仕方がねーな…俺もよ〜)

ちょっぴり亜久津は苦笑を浮かべてから、言葉を紡ぐべく口を開いた。

「太一、これから買い物行くぞ。ついて来い」

ぶっきらぼうに…そう言うと亜久津は三年の教室をサッサと出ていった。

「あっ…亜久津先輩待って下さい〜」

壇はその様子に慌てて、パタパタと着いて行った。
一同はそんな二人を黙って見送った。嵐の様に去っていた…亜久津と壇の姿がすっかり見えなくなった頃。
亜久津に絡んでいた(?)もとい、じゃれていた千石が思いついたように言葉を紡いだ。

「南〜っ。亜君ってさ、何だかんだ言って優しい所有るよね」

座っている椅子をガタガタさせながら南の方を見ながら。
南は千石の椅子ガタガタを見ないフリをして言葉を返す。

「まぁ〜な。だけど千石…それ、本人の前で言うなよ」

南は千石に軽く釘を刺す。
そして心の中で(どうせ聞き入れ無いんだろうな…)と思いながら。
相変わらず子供の様に椅子を動かし続ける千石は駄々っ子以外の何者でも無かった

「えーっ。良いじゃん。亜君の良い所を皆に知って貰えるチャンスじゃないの〜」

とんでもない言葉を口にしる千石の言葉に南は言葉を思わず失った。
だがそこに、動じない人間がまだ残っていた。
それは言わずと知れた、千石係という任を背をわされた室町十次が呆れ顔でツッコミを入れてきた。

「千石さん、あんまり駄々こねると部長からお好み焼き」

何時も千石のツッコミをしている室町は、固まる南に構う事無くそう言った。
千石はその言葉にハッとした表情をした。

「そりゃマズイ。室町君ナイスなフォロー有難さん」

パチンと両手を合わせて室町を拝む千石。
室町はその千石に呆れ顔で横目で見る。
そんな冷めた目で見られてることに気が付かない、千石はヘラリと表情を崩していた。
そして話は終わりと言わんばかりに千石は、勢い良く椅子から立ち上がった。

「よし!さーお好み焼き食べに行くぞ〜」

声高らかにそう宣言する。
千石の変わり身の早さに、南と室町は顔を見合わせた。

「まったく現金な人ですよね千石さんて…実は亜久津さんより厄介な人かもしれないですね」

現金な千石に呆れと溜息をまじえながら室町が南に言う。

「良い所有るからな、千石もさ亜久津」

「そう何ですけどね」

苦笑を浮かべる室町。

(南部長って絶対貧乏くじタイプですよね…苦労性って言うか…そう言うと俺も貧乏くじ引かされてるかな…)

何て思いながら、室町は苦労人南に目を向けた。

南はそんな後輩を(良い後輩だよなぁ〜)

「室町も一緒に安心しろよ、室町の分は千石払いだ」

ニッと笑って南は室町に言う。
室町もその言葉にニッと笑い返す。

「勿論迷惑料金ですよね、南部長」

浮かれる千石をチラリと見た室町は、南にそう返す。
南は後輩の姿に、小さく笑いを零し「違いないな」と短く返す。
南、室町は颯爽と出て行った千石を追うべく教室を後にしたのだった。
勿論お好み焼きを食べに行くために…。




一方…亜久津と太一は、雨がシトシト降っている外に居た。
勿論傘何て用意してるわけない亜久津は、太一が持っていた傘をさし…太一を入れてやる形をとって歩いている。
雨の中、亜久津は隣に居る小さな後輩に目を向けながらぼんやりと思考を巡らせた。

(さて、買い物何て言っちまったが…何処に行くかだな…)

ヤレヤレと小さく溜息を吐きながら、
太一は何が楽しいのか、知らないが楽しげに亜久津の隣を歩いている。

「亜久津先輩と買い物何て嬉しいです〜ぅ。ああそう言えば、何のお買い物なんですか?」

キラキラ目を輝かせて、太一は今亜久津が一番触れて欲しくない話題に
その目はかなりの期待に満ちた目で…。

(此奴…凄く期待に満ちた目で見てないか?)

亜久津は、太一の様子に少しゲンナリとした気分になりながら「チッ…」と短く舌打ち一つ。

「スポーツショップだ。マネージャーの癖に、お前はそんなに用具に詳しくねぇしな…ついでに教えてやんぜ」

「ハイです。僕頑張るです」





仕方が無しにやって来たスポーツショップで亜久津は、適当に買い物をしながら宣言通りに教えてやっていた。
その度に「ほえ〜凄いです」とか「メモメモ」とかワタワタさせながら太一は何だか充実した表情で、亜久津の話を聞き入る。
二人は割と(亜久津的には)充実した時間が過ぎていった。
その所為か…スポーツショップを出る頃には、雨は嘘のように晴れていた。
スポーツショップの帰り道。
相変わらず亜久津の隣には太一が楽しそうに歩いている。
その様子を保護者のような目で眺めていた亜久津だったが、不意に何かを思い出したようにスポーツショップのショッパーの中を探る。
目当てのモノを見つけたのか、亜久津は、ソレを取り出した。

「お前に、ヤルよ」

そう言うが否や亜久津は、太一にスポーツショップの小さな袋に入れられてるソレを太一に投げてよこした。
太一はアワアワとしながら、亜久津の投げた袋を受け取り小首を傾げた。

(ん?何でしょう?)

不思議そうに袋と睨めっこをする太一。

「今日の報酬だ。黙って受け取んな」

「別に、お礼だなんて…僕の方こそお礼を言っても足りないです〜ぅ」

「たいしたもんじゃね〜ぞソレ」

顎でしゃくって、開けるように促す亜久津。
太一はそれに従って、袋をまごまごと開けた。

「てめーの前髪邪魔だからな。それで、少しはマシになんだろ」

太一はヘアーバンドを嬉しそうに握りしめ、満面の笑顔を亜久津に返す。

「本当に有り難うです。亜久津先輩、早速使う事にするです!」

太一の言葉に、亜久津は「そうかよ…良かったな」と素っ気なく返したのである。
店を出たときには感じたジトジトだった湿気も何処へやら、空は青く澄んでいた。
空には雲の隙間からのぞく虹。
それを(虹か…太一のヤツ気が付いてね〜だろうなぁ〜)と少々のほほんと思っていた。
そんな事を思ってしまう自分に亜久津は、苦笑を思わず浮かべた。

「らしくね〜な。つったくよ〜…」

人知れず亜久津は呟き、隣で嬉しそうにヘアーバンドと格闘している太一を見ながらやはり微笑ましい…。
そして亜久津は、たまには…こんな日も良いかと思ったのであった。


青空にはまだ、虹がかかったままだった…


部活のない休息の日


これは、壇太一のトレードマークが…少しサイズが大きなヘアーバンドになる少し前のお話





おわし


2003.12.19. From:Koumi Sunohara




★後書きと言う名の言い訳★
Lv3気象編No.3『虹』亜久津&太一+山吹メンツのほのぼの話しでした。
如何でしたか?楽しんで頂けたでしょうか?
さてさてこの話は…ファンブックの太一君がヘアーバンドを亜久津から貰ったと言うので、触発され書いたモノです。
本当は亜久津と太一君だけしか出ない話だったのに…(しかもSSになるはずが…)山吹中はイメージ的に仲良しチームなので南ちゃんや千石さん室町君も出る駄文に相成りました。
あと亜久津が超ヤンキーモードじゃないのは…素敵な兄貴的存在だと信じて疑わないので…キャラが違うと誰に言われても…私の中でああなので…。
こんなお話ですが、おつき合い頂き幸いです。


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