大事なモノはすぐ側に(南部会編)

  空気や水の様な君D  


見えるものが全てでは無い

向上心が見えないようで人は持つ

そんな小さな事に

何故気が付くことが出来なかったのだろう?





自分を高めるための苦労など厭わない。
むしろ自分を強くする為に必要な事だと俺は思う。
苦労や努力…高みを目指すことは生きることにとっても必要であるのだから。

俺の周りには、そういう面で考えて高みを目指す人間が多い。
口だけではなく、現実にする力を持つものも多いことも然り。

夢を夢のままにせずに、現実にする。
それが当然であると考える同志がこの立海大に多く存在するのだ。幸村、連二、赤也…仁王、柳生、丸井、ジャカル。他校でも当然のように、高みを望むものを俺は知っている。

全国区と呼ばれる各校の部長や参謀…レギュラーのほとんどは、高みを望み…それを叶える努力を怠らない。
それは俺自身も認めることだ。

だがその枠組みから外れる者が居る。
山吹中テニス部部長…南健太郎。
そう…この男は俺が見た部長とつく…否チームを率いるものとしての力があるようには思えなかった。

プレースタイルも…物言いも…チームを統率するのに必要なレベルに達しているとは思えない。
これで古豪山吹のダブルスの全国区なのだから不思議なものだ。
同じ学校の、千石や怪物と呼ばれた亜久津が部長だと言われたほうがシックリとくる。

だからこそ、俺は部会に彼は必要ないのではと発言した。
間違ったことをしたとも思わない。
ごくごく平凡な…高みの持たないような男が一人居なくなった所で部会は変わらないと思ったからだ。

けれど、平凡で高みを持たないように思えた南健太郎という男を欠いてから妙に感じる違和感は何であろう?

同じようなまとまりの無い部会…否更に纏まらなくなった部会。
その原因は、南の変わりだという千石の出現が関係しているのだが…それを差し引いたとしても最近の部会はけして有意義なものとは思えない。

そんな違和感の中、俺は定期報告のように幸村にこの事柄を口にした。


「それは俺に、真田の言葉に賛同しろということなのかな?」

何ともいえない、冷笑に近い微笑を携えた幸村はそう俺に返してきた。
俺はその様子に何ともいえない気分になりながらも、言葉をあわててつむぎ返した。

「賛同云々ではなく、上に立つ者としてたるんでおると思ったのみだ。南健太郎は取るに足らん」

そう口にすると、幸村は今度は厳しいまなざしを俺にくべながら言葉をつむいだ。

「君にとって取るに足らないかもしれない事かもしれないけれど。すべての人間がが真田では無いと言うことを忘れてないかな?」


「しかし幸村。上に立つものがしっかりせんとならんだろう」

「確かに俺も高みを目指している人間だよ。けれどね、人はいつか上れなくなるときがやってくる。そんな時真田はどうする?違う意見があるからこそ。違う思いがあるからこそ…まだ可能性はゼロにならない。それは人個人にしてもそうだよ。同じような集まり…プライドの高い集まりにおいて我を通すだけが全てではない…ここまで言えば真田だってわかるよね」

「団体競技では言えることだが…しかし…基本としては個人競技であろう」

「確かにね。けれど、話の場は…有る意味団体競技に通じるものがあるんだと俺は思うけどね」

「そうだが…」

「南は高みを目指していないわけじゃない。ただ、目指しているものが他と違うだけだよ。自分のためだけでは無く、周りと共にと考える…ある意味集団をまとめるにおいて必要な力を持ってると俺は思う…。花を育てるのに…水は必要なんだよ。後は自分で考えなよ真田」

「まってくれ幸村。俺以外の部長は気が付いているのか?」

思わず呼び止める言葉に、幸村は曖昧に笑った。

「ヒント無しで気が付くのは手塚…橘…そうだね…赤澤辺りかな。跡部はきっと小さなきっかけで気が付くだろうね…何せインサイトの持ち主だから」

「そうか」

「でも…時間差はそんなに変わらない。気づかなかったのは仕方がない…けれど真田は気が付いた。まぁ良い経験になったんじゃ無いかな」

「うむ…だが…しかし」

「そう思わないとやってられないね。そして戻ってきた南に同じ事を繰り返さない。それが真田の課題…真田だけじゃ無いだろけど」

肩を竦めて言う幸村は、言葉をきって紡いだ。

「戻ってくるよ。南は必ずね。それが責任者の勤めって所だからね。真田の言う…だから南は来るんだよ」

「幸村がそうまで言うのだから、信じてみるのも悪くないか…もしも南が戻ったなら、俺の態度も善処しよう」

「ああ。それで良いんじゃ無いか。きっと善処せざる得ないだろうけどね」

晴れやかに笑って言い切る幸村に俺は、苦笑を返すより他が無かった。
何故ならそんな風に言う幸村との賭に勝った試しがないのだから。

(俺もまだまだ精進が足りないな…視野が狭い…これでは、南の事もいえんな)

俺は心の中でそう呟いた。


おわし

2007.4.24. From:Koumi Sunohara
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