君へ贈るプレゼント |
お正月も過ぎて、冬休みも明ける頃…。
楽しみのようで、不安な気分が入り混じる日々。
それは、近づく君の誕生日が有る所為。
でも俺は君の彼氏でも、友達じゃないから、プレゼントをあげるきっかけが見あたらない。
グルグル考えても良い案はちっともででこない。
元々考えるのはあまり得意では無い俺には、難しい事で…。
でも好きな子へのプレゼントぐらいは、自分で考えたいわけで…。
俺は渡すことより、取りあえず桜乃ちゃんへのプレゼントを考えることにした。
そうして考えている内に、新たな疑問が俺の中で生まれる。
桜乃ちゃんの好きなモノって何だろう?
不意に浮かぶ疑問
お菓子作りは好き
テニスの事も好きみたい
(後は後は…)ん〜と手塚みたいに眉間に皺を寄せながら、俺は桜乃ちゃんの好きな物や欲しいものを思い浮かべるが、プレゼントに相応しいものが見あたらない。
あげる手段も行き詰まり、
(桜乃ちゃんが…一番欲しいモノ?)
オチビ(越前リョーマ)
そう考えて、俺は凄く切ない気分になった。
(彼女の好きな人は自分じゃ無いだもんな〜)
はぁ〜と溜息をつきたい気持ちをぐっと堪えて俺は、一生懸命考えた。
(オチビとデートとか…セッティングしたら喜ぶのかな…)
そんな不毛な考えばかり俺の中で浮かぶばかりだった。
あげる手段にもあげるモノにも行き詰まった俺は、何んだかんだ言って俺の桜乃ちゃんへの気持ちを知ってる不二に相談することにした。
ついでに、先程思いついたプレゼントの事もまじえながら…。
不二に会った俺は、自分の中に有る不安やどうしても桜乃ちゃんの誕生日をどんな形でも良いから…祝いたい旨を話した。
話の関係上…勿論、越前絡みのプレゼントの事も言うことになったのだけど…。
始めは静かに聞いていた不二も、流石にその越前絡みの話になった途端綺麗な眉をちょっと寄せて俺を見て…。
「そんなのは、英二にとって体の良い問題じゃん無いよねソレ」
少し怒った口調で、不二が俺にそう言った。
俺も不二の言ってることが間違った事じゃ無いのが分かってるから、その言葉を黙って受け止めた。
「自分に嘘をついてまで、そんな事したって英二も不幸になるし、それと…見てる方も精神衛生上宜しくないよ」
溜息混じりに不二が俺に言う。
「だってさぁ〜思いついたのがソレだし…第一俺と彼女じゃ接点らしい接点がさ」
俺はボソボソと不二に言葉を言う。
すると、不二の溜息は一段と大きくなった。
「あのね〜英二。英二は何時からそんなに弱気になったのさ。接点だったら先輩として後輩にプレゼント!でも良いんじゃ無い」
「そうだけどさ〜」
「?ん…そう言えば…確か、彼女から誕生日プレゼント英二貰ったよね今年」
思い出したように、不二は俺に言ってくる。
俺は不二の言葉にハッとした。
「あっ…そう言えば、貰ったにゃ…」
貰った日有頂天になって、不二に言った事を俺は
「ふふふ。じゃー口実は出来たじゃない」
「でもにゃ〜」
「バカだね英二。口実は口実だろ。英二の誕生日に彼女から貰った…そのお返しを英二がしちゃいけないルールは無いでしょ」
不二は楽しそうにそう言った。
「英二らしいもので良いじゃない…あっ…でも、先みたいに越前をけしかけるプレゼントとかは駄目だからね」
と釘を刺すのも忘れずに。
俺はウッと言葉を詰まらせ、どうして良いか分からなくなって…困惑気味に不二を見上げる。
(も〜不二ってば〜分からないから聞いてるのににゃ〜)
すると「仕方がないね」と言いながら、不二は肩を竦めると俺の方を見た。
「ねぇ英二。英二は、何を貰ったら嬉しい?」
「取りあえず気持ちのこもったモノだったら、嬉しいにゃ〜。勿論自分の好きなモノもだけどさ」
「だったら、そのまんま彼女にしてあげれば良いじゃない?」
「へ?」
「だってね。何を贈ったら良いか分からない…でも、気持ちのこもった贈り物をしたい…。そう考えるんだったら、自分が嬉しいと思って事を基準にするしか無いって僕は思うけどね」
「そうかにゃ〜?」
「そうだよ。きっとね…要は気持ちが相手に伝われば良いんだからね…英二らしいモノを選ぶのが一番だね」
不二そう言われた俺は、彼女にあげるプレゼントを探しに街に出た。
当日。
俺は、放課後を待って桜乃ちゃんの居る教室の前でドキドキする心臓を押えながら立っていた。
呼吸を整え意を決して、彼女の居る教室の戸を開けて中に入る。
すると、戸の開く音に気が付いた桜乃ちゃんがクルリと戸の方に目線を向けてきた。
「あれ?菊丸先輩どうしたんですか?」
桜乃ちゃんが俺を見つけて、そう尋ねてくる。
その声に、彼女の親友も相変わらずのテンションで俺の方に目を向けて言葉を紡いできた。
「本当だ菊丸先輩だぁ〜。今日和、珍しいですねリョーマ様にご用時ですか?」
彼女の言う言葉に、軽く否定の意味を込めて首を横に振り…此処に来た目的を言うべく口を動かした。
「んとね。今日って、桜乃ちゃんの誕生日なんだよね?」
桜乃ちゃんに確認しながら俺はそう尋ねる。
桜乃ちゃんは驚いた様な表情で俺の顔を見た。
「え…そうですけど…知っていたんですか…」
不思議そうに俺の顔を見て、桜乃ちゃんはそう言った。
俺は、そんな表情の彼女を微笑ましく思いながらも…安心させるように言葉を紡ぐ。
「乾から聞いたんだケドネ」
笑いながら、小さな嘘を言う。
本当は知っていたけど、本当のことを言うと桜乃ちゃんが
我ながら、弱気な態度に溜息が出そうになるのを堪えて…(嗚呼…遠くで不二の怒ってる顔が目に浮かびそう…)とか思いながら俺は桜乃ちゃんと友人の小坂田さんを見ながら笑顔を向けた。
「そ・れ・に。俺の誕生日の時にプレゼント貰ったしね♪そんなお返しも兼ねてるんだけど…受け取ってくれるかにゃ?」
ラッピングされた小さな箱を出しながら俺は桜乃ちゃんにそう言った。
桜乃ちゃんは、少し照れくさそうな顔をして…オズオズと俺の差し出した箱を受け取った。
「あ…あの…有り難う御座います…。嬉しい…デス…」
「良いな〜桜乃〜何入ってるのかな〜…そうだ、折角だしココで開けちゃわない?」
“うん、名案!”と勝手なことを言いながら、小坂田さんはこりゃまた勝手に決めていた。
桜乃ちゃんも流石にソレには驚いたようで、慌てて親友の言葉を遮ろうとする。
「と…朋ちゃん…流石にソレは…」
困ったように言う桜乃ちゃんの様子に、俺は笑顔で助け船を出した。
「良いよ、気にしないで。開けちゃっても構わないよん。第一、気に入って貰えなかったら悲しいし…確認出来たら俺的にも安心するからさ」
「スイマセン…菊丸先輩…。何か気を使わせちゃったみたいで…」
何度も桜乃ちゃんは頭を下げて、俺にそう言う。
俺はその度に「気にしなくてよいよん♪」と返す。
その間にも、小坂田さんは桜乃ちゃんを急かしながら開けさせている。
すると小さな箱に収まった、淡い桜色リボンと髪飾りが少し顔を覗かせた。
「へ〜菊丸先輩。センス良いですね〜流石ですね」
覗き込んだ小坂田さんは、感心したように呟く。
「本当に貰ちゃって良いんですか?」
貰った本人の桜乃ちゃんは、少し目を見開いてから…確認するように俺に尋ねた。
「勿論♪だってソレは桜乃ちゃんへのバースデープレゼント何だかんね。当然」
「有り難う御座います菊丸先輩」
「いえいえい。どういたしまて…喜んでくれて俺的には凄くホッとしてるだけどね」
「にゃははは」と笑うと、桜乃ちゃんも攣られたようにクスっと小さく笑った。
何だか凄くホンワカした気分になる。
(贈って正解だったにゃ〜)何てしみじみ思っていると、茅の外だった小坂田さんがまたして思いがけない事を口走った。
「折角だし。付けてみたら?」
「ええええ〜っ。と…朋ちゃん」
「菊丸先輩も見たいですよね?」
とこりゃまた、突然俺に同意を求める。
勿論、見てみた俺は小坂田さんの同意に賛同するのだが…。
桜乃ちゃんは「ぅうう…。そう言うんだったら…」と言いながら、リボンを手にとって髪に付けようと奮闘中。
でも何やら上手くいかないようで、手が時たま止まったりしている。
それに見かねた親友さんは、呆れ顔で桜乃ちゃんを見て口を開いていた。
「桜乃〜何やってるのよ〜」
「だ…だって〜朋ちゃん。何か焦ちゃって…上手くいかないんだもん」
「焦らなくても良いじゃないの」
呆れ口調の小坂田さんの言葉に、桜乃ちゃんは困った表情で親友の顔見ていた。
微笑ましいものを見る様に傍観していた俺だが、あまりにも困った顔の桜乃ちゃんに思わず助け船を出す。
「良かったら、俺が付けてあげようか?姉ちゃんの髪とかたまぁ〜にやらされるから…結構自信有りなんだよねん」
そう俺が言うと、桜乃ちゃんは小さな声で「お願いします」と呟くようにそう言う。
俺も短く「OK」と承諾の言葉を返す。
サラリと流れる髪を手で掬いながら、俺は箱から出した淡い桜色のリボンを桜乃ちゃんにつけた。
その姿は、自分で想像した以上に似合っていて…思わず顔の筋肉が緩む。
「良し。完成♪」
俺は緩む頬に気合いを入れ直して、短くそう告げた。
すると…。
「桜乃〜っ。凄く似合うよ!!可愛いわ本当…」
感嘆の溜息混じりに小坂田さんは呟いた。
俺も実際、自分でセットしたけど…小坂田さんと同じ気分。
でもそんな事を、本人を目の前にして言えるほど、勇気も無し…言って距離を置かれることを恐れてるから…心の中で賞賛の声を上げるだけ。
俺と違って親友と言うポジションに居るテンションの高い小坂田さんは、桜乃ちゃんに何度も俺の言いたかった言葉を紡いでる。
桜乃ちゃんも照れくさそうにはにかんだ表情を覗かせて「そうかな?」と聞いている。
(良いよな〜…俺だって桜乃ちゃんの可愛さを正直に言いたいのににゃ〜)
俺は表情に出さないように、そんな2人のやりとりを…羨まし気に眺めるばかりだった。
半分以上を俺の存在を忘れたように、桜乃ちゃんと小坂田さんの話は弾む。
でもしばらくして…茅の外状態の俺に、気が付いたのはやはり桜乃ちゃんで…。
「あ…あの…菊丸先輩。こんな可愛いモノ頂いて…あの…有り難う御座いました」
桜乃ちゃんは、花の咲いたような満面の笑顔と共に俺にお礼の言葉くれた。
俺はその笑顔にクラリと気ながらも、彼女に返す為の言葉を紡ぐ。
「そう言って貰えるとプレゼントした甲斐が有るってもんだにゃ」
負けじと俺も、笑顔いっぱいで桜乃ちゃんにそう返した。
それから、色々他愛もない話をした。
「さってと、不二と勉強会の約束しってんだった」
俺はそう言って、話を終らせた。
二人は社交辞令かもしれないけど…残念そうな顔を向けたくれた。
俺は「一応受験生だしね」と付け足して言うと、「そうですよね、受験生ですもんね」と二人は返してくれた。
そして…名残惜しそうな小坂田さんと何度も頭を下げてる桜乃ちゃんに笑顔で俺は二人に応えて、俺は足早に教室を出た。
(ふぇ〜…スンゴク緊張しちったよ…)
そう感じた途端…桜乃ちゃんの居た教室から出たら、俺は一気に体の力が抜けて行くのがリアルに感じた。
何かヘロヘロに成るって感じなんだけど…。
でもそのまま居るのは、流石に変な人に見られたら困るので、俺は力の入らない体に気合いを入れて帰るべく、玄関に足を向ける。
フーッと冷たい風の吹く帰宅路。
少し寒い風に吹かれながら俺は、帰宅へと足を急いでいた。
その間に今日の出来事を思い返しながら…。
満面の笑顔でプレゼントに喜ぶ君を見れたことが、こんなにも嬉しいなんて俺はあげる寸前まで思いもしなくて…ただ、桜乃ちゃんの誕生日を祝いたかっただけだったのに…本当に思いもよらなかったから…凄く嬉しかった。
そう思いを噛みしめていると…不意に不二の言った言葉が思い浮かんだ。
「自分に嘘をついてまで、そんな事したって英二も不幸になるし、
…見てる方も精神衛生上良いわけ無い」
本当に、言われた通りだったな〜とつくづく思わされた。
流石不二って感じ。
きっとバカみたいなマネをしていたら、この笑顔を手放しで喜べなかっただろう…。
(そうだね不二…越前をけしかけるプレゼントだったら、今のような気持ちにはなれなかったよね…)
思いながら、俺は少し寒い夕暮れの中でそんな風に想いを馳せる。
そして…寒いけれど…心は少しだけ暖かい気持ちが広がったように俺は思った。
それは君の笑顔御陰なのかな?ってガラにもなく俺は思ってしまった。
Fin
2003.12.16. From:Koumi Sunohara
★言い訳★ 菊→桜で桜乃ちゃんのお誕生日のお話でした。 相変わらず、片思いネタで…いい加減、こう菊桜にしたいなぁ〜とは思うのですがね…。 結局、菊→桜で書いてます。 ちなみにクリスマスネタで書いた菊→桜と同じ菊にゃんです。 何か菊桜書く時は、大体繋がるお話になっていきそうですね。 何時か菊にゃんが報われるお話を書ければ良いな〜と…。 それでは、おつき合い頂き有り難う御座いました。 |