仲の良い友人(…不二何だけどさ)が不思議な言葉と…小瓶に入った麦をくれた…。
「サンタクロースの由来になった聖人−聖ニコラウス−の日が今日12月6日何だって。聖ニコラスって言う人はね、金貨が無くてお嫁に出すことの出来ない哀れな家に金貨を投げ入れお嫁に行くことが出来るようにさせたり…子供の命を助けたり、船を事故から救ったりと、善行や奇跡を起こし…たくさんの人々を救ったって言うお話が有るんだ。それでね…この日に脱脂綿と水を入れた小皿の中に小麦の種を蒔き、ノエルまでに見事に芽が出そろったら次の年は幸せになれるんだって…良かったら英二もやってみない?」
そう言いながら不二は有無も言わさず俺に瓶を押しつけて去っていった。
それから不二からそんな話を聞いた俺はふと思った。
俺は…君の為に何が出来るだろうか?
俺の好きな女の子は…同じ部の後輩に恋心を抱いている。
短い時間しか眺めることは出来なかったけれど…。
君を眺めていると…
気づかないオチビ何て止めて俺にしなよ
何度言いそうに成っただろう。
だけど言える筈もない。
君は本当に、一生懸命に健気にオチビの事を想っているのが分かるから。
言葉は何時も俺の心の中に燻るばかり。
オチビもオチビで別段悪い子じゃない…寧ろ可愛い後輩だから、憎む訳にもいかない。
上手い具合に二人がまとまるのなら、俺としても諦めもつくけど…。
そんな兆しは、いつまで経っても訪れない。
彼女も…俺も…思う気持ちは一方通行だ…。
世の中って上手くいかないんだなぁ〜ってつくづく思うよ。
部活も引退しちゃって受験勉強真っ最中な訳で、ただでさえ偶然でも会うのも少ない桜乃ちゃんにも全然会えない。
(嗚呼〜偶然、バッタリ会えないかにゃ〜)
思いながらぼんやり歩けば…不意に灯りのついた教室。
思わず俺は、足を止めた。
そこには俺の想い人。
一生懸命に、編み針を動かしてマフラーかな?何か編み物をしている姿が目に入った。
本当に起きた偶然に俺は嬉しくなった。
(本当にバッタリだにゃ〜、嬉すぎるかも…)
ちょっぴり有頂天になる俺。
そうなると、欲が出てくるのは人のサガってもんで…。
少しでも…少しだけでも、君との時間を過ごしたくて…降って湧いた偶然を逃したくなくて…。
俺は、勇気を出して桜乃ちゃんに声をかけることにした。
怖がらせないように、ゆっくり教室のドアを開ける俺。
カラカラカラ。
乾いた良い音が響き、それに気が付いた桜乃ちゃんがゆっくり顔を上げた。
軽く挨拶を交わしながら、俺は桜乃ちゃんの手元の編み物目を向ける。
(マフラーか…この色合いからいって…やっぱオチビへのプレゼントだよね)
そう頭で思いつつ、その話題を振ってみる。
「ねぇ〜ねぇ〜。それってさ〜プレゼント?」
顔を真っ赤に染めながら、君はしどろもどろにコクリと頷く。
俺はやっぱりか…と思いつつ、桜乃ちゃんの言葉を促した。
「で…でも、きっと渡せないで終りそうですけど」
弱々しく出た言葉に、俺は元気づけようと言葉をかける俺。
「何だけ…桜乃ちゃんの友達の…小坂田さんだっけ…かにゃ?あの子と一緒に渡したらどうかにゃ?」
「朋ちゃんは一人で渡すんだって凄く意気込んでたし…邪魔しちゃ悪いかなって思っちゃって…。そうすると、やっぱり一人で渡す勇気が出ないんですけど…でも、もしかしたら渡せるかもしれないと思って…」
「コラ。そんな弱気でどうするんだよ!」
俺は優しく桜乃ちゃんの額を小突いた。
桜乃ちゃんは少し驚いた表情で俺を見る。
ニーッと笑って俺は、言葉を紡いでゆく。
「渡さないと何も始まらないんだぞ。そ・れ・に…24日はオチビの誕生日だけじゃなくてクリスマスでも有るんだしさ。クリスマスに託ければ良いんだよん」
「クリスマスですか?」
「そっ…クリスマス。あっ…そうだ、良い物有ったんだ」
話しをしていて俺は不二との話を思い出した。
(もしかしたら…桜乃ちゃんの後押しになるかもしれないんじゃ無いか?)
そう思った俺は、早速行動に移すべく学ランのポケットに手を突っ込んだ。
学ランのポケットに入れていた、不二から貰った小瓶を思い出し…俺は桜乃ちゃんの手に小瓶を落とした。
「何ですか?」
桜乃ちゃんは不思議そうに俺の渡した小瓶を眺めてそう言った。
「今日は12月6日は聖ニコラウスの日…」
俺は不二から聞いた内容を、桜乃ちゃんに説明した。
桜乃ちゃんは、興味深そうに俺の話に耳を傾けてくれている。
ひとしきり話を終えた俺は、スーッと深呼吸を一つ吐いて言葉を紡ぐ。
「勇気出たかにゃ?」
俺が覗き込むと、桜乃ちゃんは嬉しそうにふんわりと笑った。
(ああやっと笑ってくれた…良かったにゃ〜。不二から貰った小瓶も役に立ったし)と俺は心底そう思った。
きっと俺が使うより、きっと良い方向に向かってくれる気がしたから余計に。
俺が「あーでもない、こーでもない」と考えている間に、桜乃ちゃんは帰り支度を済ませていたようで、スクッと立って俺に向き合うと口を開いた。
「有り難う御座います、菊丸先輩」
俺の渡した、小瓶に入った麦を大事そうに持って桜乃ちゃんは去っていった。
俺はその様子を、見えなくなるまで見送った。
(損な役回りだね俺ってさ…自分でも何をやってるのだろう?)って思うけど、俺の心は桜乃ちゃんに会う前から比べるとスッキリとした気分になっていた。
(きっと見たかった笑顔が見れてからかな?)な〜んて思ったり。
こんな些細な事で、幸せ感じる俺。
でもそんな俺を見て…他の奴らは、隙狙って彼女にしてしまえ!って言う奴らも多い。
でも俺は…そんな事をしても、心はオチビに行ったままだから…どちらも傷つくだけだと俺は思う。
それに、すり替えたように君の隙間に入っての一時の恋人何て嫌なんだ。
本当に心の底から、笑い合えたり…たまに喧嘩したり…色々な時間を共有出来るそんな関係を望んでいるから…。
だからね、桜乃ちゃんがオチビへの想いが途切れるまで…俺は少しでも君との距離が縮まる様に頑張るしかないよね。
桜乃ちゃんが居なく成った、無人の教室で俺はひっそりとそう思っていた。
小さな奇跡が君の元に舞い降りるように
俺からのささやかプレゼント
どうか…その君が想い人の為に作っているプレゼントが無駄にならない事を願って
素敵なクリスマスを過ごせるように…君の為に願っているから…
END
2003.12.4. From:Koumi Sunohara (C)A PALE MOON <3rd anniversary plan>