サクラの唄  

君を初めて見掛けたのは前庭にある大きな桜の木の下。
長いみつあみをたらして桜の花を見上げていた。

「きれい…」

瞳を輝かせながら隣の友達に言っていた。
あんまり嬉しそうに言うから桜より君に見とれたんだよ。

君と初めて話したのも同じ場所。
完全に散ってしまった桜の木を本当に残念そうに見上げてたよね。
思わず近付いて声をかけたんだ。

「散っちゃったね」

急に声をかけられたことに驚いて俺をみて、またすぐに桜に視線を戻す。
そして静かに口を開く。

「そうですね…来年もまたキレイに咲くといいですね。」

ニッコリと微笑む。
その笑顔にやっぱり情けないぐらい見とれてしまった。

思えばもう君を好きになっていたんだね。

告白したのは夏の終りごろ。
やっぱり桜の木の下で…。
たった一言、「好きだ」って言葉がでてこなくて…無言の時間だけが過ぎて焦ってたおれを辛抱強く待っててくれた。
今となっては笑い話だけど。

初めて手をつないで歩いた道はサクラ並木の遊歩道で、
初めて触れるだけの軽いキスをしたときも公園の桜の木の下で…。

いつだってキーワードは桜の木。

いつか君は言ったよね。

「私、桜が一番好きなんです。」

そんな気はしてたけど改めて君の口から言われたときはなんだかおかしくて笑いだしてしまったのを覚えてる。

だからずっと決めていた。
こういう大事な日は桜の木の下が一番だって。

季節に関係なく桜の木の下で…。
これだけは譲れない。

花のない桜の木の下で真正面に向かい合うおれと君。

おれは急いでポケットから小さな箱を取り出す。

「桜乃ちゃん…」

静かに彼女の名を呼ぶ。

「おれと結婚しませんか?」

用意していたいくつかの言葉は全て頭から吹っ飛んで、ロマンチックな言葉は言えなかったけれど…

正直な気持ち…

桜乃ちゃんは大きな目を更に開いておれを見上げる。
いつの間にかその瞳から涙がこぼれ落ちてきてうつむいてしまったけれど
確かに小さくコクンと頷いてくれた。

その涙がうれし涙とわかってホッとしたらなんだか急に愛おしくなって抱きしめた。

「好きです。」
「うん、おれも。」

そして春…。

桜の花が咲き誇る小さな教会。

この場所でおれたちは永遠の愛を誓う。

end

From:Waka Kagura

-Powered by HTML DWARF-