毒舌倶楽部?




三年六組−昼休み終了後、お腹も満腹、幸せ気分。
天気も良くて眠気を誘う。
だが五時間目の授業は最悪なことに男子テニス部顧問であり竜崎スミレが受け持つ数学だった。
一番後ろの窓際の席に座る不二周助は頬杖をついて隣の席に座る友人の手元を見ている。
友人・菊丸英二は睡魔と戦いながら何かを一生懸命に落書き中…。
カリカリとリズムを刻むシャープの音。
英二は急に手を止め、何かが気に入らないらしく唸っている。
そして消しゴムをとろうと筆箱を開ける。

「あれっ?」

「どうしたの?」

小さく言った声に不二も声を小さくして聞く。

「消しゴムがにゃいんだよ…」

「なんだ…ぼくの貸そうか?」

呆れたように言って自分の消しゴムを差し出す。

「サーンキュ!」

そう言って手を延ばしたにも関わらずなぜか消しゴムは英二の手をすりぬけて床に落ち、転がって行く。二人の前の席に座る少女達の席の間へと…。

「はるかちゃん、はるかちゃん…」

英二はヒソヒソと目の前の席に座る藤間はるかの背中に呼び掛ける。二人は転がった消しゴムを指差して「とって」という合図を送る。わかったと言うようにうなづき、体をかがめて手を延ばす。その姿に不二の前ではるかの隣に座るはるかの友人・鈴木なつみも気付く。三人が見守る中、無事に消しゴムを救出し英二の机に置く。

「ありがと、はるかちゃん!」

「どおいたしまして…ところで何してるんですか?」

素直に礼をうけとり、笑顔で尋ねる。

「にゃにって…」

「授業じゃないことだけはノートを見ればわかるけどね。」

言葉を濁す英二にかわって不二がニコっといつもの笑顔で言う。それを聞いて少女二人は英二のノートをのぞきこむ。

「…」

無言の反応…しかもはるかは黒板に向き直り溜め息を一つ。ある意味、言葉で突っ込まれるより痛い態度…。

「菊ちゃん、先生の授業でそれはないんじゃない?」

なつみは気付かれないようにヒソヒソと注意する。

「だって眠いんだもん!」

悪びれずにやっぱりヒソヒソと抗議する。

「なるほど、それは思考回路がバカになった結果なんだ?」

「それはいつものことじゃないですか?」

納得したようにつぶやく不二に続き、追い撃ちをかけるように平然とした顔でサラッと突っ込む。

「う゛っひどい」

しょぼくれる英二。

「でも…先生の似顔絵描いても笑うの通り越して恐いだけですよ。」

とどめをさすかのごとく笑顔でものすごく失礼なことを言うはるか。
確かにバレた時が恐ろしい…。
英二じたいみつからないことを前提に描いているが、その時のことを想像すると自然に顔が青ざめてくる。

「ホレホレアタックを惚れ惚れアタックにして目をハートにさせてる割に獲物を狙うような鬼の形相で打ちまくってる絵を見て怒らない先生じゃないしね。」

二コッと言った不二のセリフに完全に魂が抜けている英二。

「黒板消しをラケットにしてチョークアタックが飛んできそうですね。」

こちらも二コッと同じ微笑みで恐ろしいことを口走るはるかに英二ご帰還。
慌ててノートをめくり絵を隠す。

「ヤメヤメ!先生ヤメ!!違うのにするにゃん!」

気を取り直してシャープを走らせる…とても真剣だ…。

(眠気が覚めたんなら授業きけばいいのに…)

思わずにいられない三人。

「暇なら予習すれば?私ならやだけど(笑)」

なつみが名案とばかりに言う。

「嫌っ!こっちのが楽しいにゃん!…」

ノートから視線を外さずに当たり前と言わんばかりに即答。
そしてその様子を見て何かを言わずにいられないのがこの二人。

「考えてる途中で降参して眠っちゃいそうですよね」

「問題が難しくて?英二なら当たり前だよ。」

サラッと毒づく不二とはるかの毒コンビ。さすがの英二もショックを隠せない…。
なつみは視線を外して遠くを見つめる。

(ごめん、菊ちゃん…さすがの私も毒舌倶楽部には勝てない…)

四人の周りを邪悪な空気が素敵に包む。
英二が見事な毒をくらったにも関わらずすばらしく早い立ち直りをみせつけ落書きの続きを描きはじめてから約十分後…シャープの音が止んだ…。

「でーきた!」

楽しげな声が三人の近くで小さく響く。
三人はソッと英二に視線を向ける。
へへんと得意な笑顔で三人に書き終えたばかりの絵をみせる。
とても自信満々だ。
絶対にウケると思い込んでいた英二に対して三人の反応は…いたって冷静。
無言のまま前に向き直り黒板を見つめる。

「えっ?にゃに?にゃんで?先生もいないしばっちりじゃん!」

予想外の反応に英二は少し焦り気味。

「英二…問題はウケるとかじゃないよ。」

溜め息を交えつつ不二が言う。

「その絵、違う意味で大問題ですよ。」

今度ははるかが問題の絵をシャープで指しつつ言う。

「えー…どこが?」

不満いっぱい。
口を尖らせる。

「はぁー…」

なぜわからないと思いながら二人は深い溜め息を同時につく。
意味がわからずさらに不思議顔が増す英二。

「描いたキャラと内容が問題なんだよ。」

「それを描こうと思った時点で大問題ですよ。」

不二が落書きを指差して言えば今度ははるかがズバッと毒を吐く。
ブロークン英二。
だが?マークしか頭に浮かばない…。

その様子を見て仕方ないと言うように不二とはるかは目を見合わせる。

「問題一…」

手に顎をのせて不二が静かに口を開く。

「校庭何周したの?っていうぐらいヘトヘトになって走り続ける手塚!」

「実際有り得ませんし走らせたいって言う願望丸だしですよ。そして問題二は…」

はるかは指を二本立ててVの形を作る。

「菊丸汁とラベルのついたコップを手に持ち魂が抜けきってる乾くんです!」

「この間のまだ根に持ってたの?仕返ししたいってみえみえ。それに英二が作ったんじゃ、そんな威力はないんじゃない?」

それにははるかもうんうんとうなづく。英二はそれでも納得いかないというように腕組をする。

「そして一番大問題なのは三つ目!」

二人は英二をみながら声をそろえて言う。

「英二が仁王立ちしてエラそうにそれを二人に命令してること。部長ってタスキまでつけてるし。」

たいした図々しさだと心底思う。

「え゛っ?にゃ、にゃんで?」

ちょっとは悪いと思ってはいるが自分が一番問題と言われて聞かずにはいられない。
第一本人たちはここにはいないのだから…。
そんな考えを見透かしてしまってる二人はヤレヤレといった感じで答える。

「確かに二人はこのクラスにはいないけどね、よく考えてみてよ。」

「二人のファンクラブの会員はこのクラスにもいるんですよ。」

諭すような口調で言われ英二は恐る恐る教室を見渡して見る。
言われた通り怒りモードの女子たちの熱い視線を一身に浴びている。
ようやく事の重大さに気付き、恐くて半泣き状態である。
それを知ってか知らずか…二人の攻撃は続く。

「先生を怒らせるより恐ろしそうだね。」

「先生は一人ですけどファンクラブはたくさんいますからね。」

楽しいという表情を隠さずに笑顔で言うからたちが悪い。

「どうしよう…」

一方英二は汗ダラダラ。

「どうにもできないんじゃない?」

「自信満々で公表してましたからね。取り消せませんよ。」

笑顔…闇笑顔爆発!
そし今までの沈黙を破りなつみが口を空ける。

「そうよ!…今更あやまったって遅いのよ!手塚様をモデルにすることじたい百万年早いのよ!!」

声をひそめて怒りをぶつける実は手塚LOVEの鈴木なつみ、十四歳。
声のトーンは授業中ということも忘れて高くなる。

「それに手塚君かくなら薔薇は必要不可欠でしょーが!そこからしてなってないのよ!キャストも邪魔者(特に菊丸)はいらないの!私だけでじゅうぶんなのよ!」

全く論点のズレたことをえらい勢いでまくし立てながら、今、急スピードで書き上げた落書きを見せる。英二が真剣になって覗き込んでる絵の内容は…なにやら疲れ切って倒れ込んでる手塚を抱き上げるなつみの絵。
まるで王子とお姫様が入れ代わったような妄想爆発な少女チックなもの。
しかも宣言通りバックはばら、バラ、薔薇!どんなもんだいと言わんばかりのなつみ。

「う゛っ…」

なぜか負けた気分の英二。

(どっちもどっちでしょ。)

なんとなく危険を察知した二人は逃げるように視線を黒板に戻して突っ込む。
そして数秒後…二人の予想通りの展開が起こる。

「随分と楽しそうだねぇ、二人とも。」

よく通るおそろしく聞き慣れたハスキーボイス…。
言わずと知れたティーチャー竜崎!気付けば不二とはるかはとっくに第三者側…。

「授業中に何をやってんだい!」

お説教モード突入…最悪なことに英二は最初に描いていた似顔絵までみつかってしまった。言い訳もできない。
結果、二人はこの授業の残り時間を立ったまま受ける羽目になり、更に英二はプラス先生がオシオキ用にいつも持ち歩いてる問題集一冊を一週間以内に終わらせて提出しなけるばならない。

「先生ひどい〜」

泣く英二。

「これでも甘い!」

下がるはずない先生。

「はるかちゃんも不二もおしゃべりしてたのにー」

抗議する英二。

「あんたと違って二人は点取ってるだろうが!責任転化してんじゃないよ!」

ガン…見事に決定的セリフをもらいさすがにショックをうくる。
名前をあげられた不二とはるかは二人して英二に自分たちのノートを見せる。
あれだけ話していていつとったんだ?と突っ込まずにはいられないほどビッシリときれいに今日の授業内容がまとめられている。
追い撃ちをかけられWショック!

「がんばって描いてたのに結局バレちゃったね、英二。ご愁傷さま…」

「落書きしてないでノートとればよかったどすね。もう遅いですけど…」

とどめと言わんばかりのそのセリフに英二はもう泣くしかできない。

「ホント、英二っておもしろいね。」

「菊ちゃんいたら授業もあきませんからね。」

その姿を笑顔で楽しむ黒組二名。
どちらかが毒を吐けばどちらかがとどめをさす見事な連携プレー。
誰が呼んだか毒舌コンビ、誰が名付けた毒舌倶楽部。
部長・不二周助、副部長・藤間はるか、部員二名。
二人並べば先生たちでさえタジタジの三年六組最強コンビ!本日も絶好調…(笑)

(…つーか、誰が勝てるんだ…)BY三年六組


おわり

2003.12.14 FROM:Ruki Kagura



★代理後書き★
満を持して…テニプリ駄文置場に神楽嬢作品の登場でした。
如何でしたか?神楽嬢ならではのコメディータッチ。
本当はドリームにするか悩んだのですが…、クラスメート色が強かったので此方に…。
この関連で、夢駄文とリンクが有りそうな話になれば…変えようとは思ってますが。
此方でも十分お楽しみ頂けたのでは?と思っております。
続くらしいので、私的にはワクワクですね。
それでは、神楽嬢作品の次作にもこうご期待。




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