大和撫子
新風が新緑を揺らし、新たな始まりを告げる季節が到来する。
そう季節は春。
新入生を向かえる季節だ。
例にも漏れず、僕の通う青学も真新しい制服に身を包んだ僕の後輩になる子達が入学してきた。
となると、僕の所属するテニス部にも1年生が入ってくる。
場の雰囲気に飲まれたように期待と不安を混ぜたような表情の後輩達(まぁ一人例外は居るみたいだけど)。
そりゃーそうだろうね、テニスコートはギャラリーだらけなんしね。
テニス部は人気が有る。
まぁ〜手塚の様に文武両道で美形な部長で…テニスも強い生徒会長様が居るし、不思議とレギュラー陣は顔立ちが悪くないとか人間性が良いとかで人気が有る。
だから気が付けば女子生徒の黄色い声援にも自然と馴れてしまったし…。
アイドルの追っかけの様に、グルリとコートの周りを囲むギャラリー。
だからねテニスコートの周りにギャラリーが集まったり…騒いだりしているのに馴れてしまっているんだ。
そんなギャラリーをぼんやりと何気なく眺めた先には、不思議な組み合わせが立っていた。
天真爛漫な明るく元気な女の子と長い黒髪を三つ編みにして、少し伏目がちで大人しめの1年生の女の子2人組。
動と静の対極組み合わせだと思った。
そして今時珍しい奥ゆかしい女の子。
まるで僕の好きな古典の話しに出てくるような…昔ながらの大和撫子を見れた…そう思える程。
君は奥ゆかしくて…それで居て、密やかな存在感が僕の目には凄く印象に残った。
初めて君を見た時の僕の衝撃は…
きっと今までに無かった程鮮烈で…
まるで探し求めていた若紫を見つけた光源氏の気分だった
それから少しその子の事を自分なりに調べてみたし、観察したりもした。
嗚呼勿論、ストーカー紛いの事はやってないよ。
さりげなく見たり、桃と越前の話に出てきた事を聞いたり…まぁ色々。
名前は竜崎桜乃1年生女子テニ所属でこの前一緒に居た明るい子は親友の小坂田朋香さん。
そして…我が顧問竜崎スミレ先生の孫娘。
流石に顧問の竜崎先生のお孫さんだとは思わなかったけど…。
お菓子作りが趣味だったり、変にミハーじゃない所とか…。
知れば知るほど、桜乃ちゃんの事が気になり始めた。
でも彼女は越前の事が好きなんだ。
傍若無人な…異例のスピードで駆け上がって行ったルーキーを…。
越前の事が好きな桜乃ちゃん。
でも越前はその気持ちにすら気づきもしない。
あんなに健気なのに…あんなに好きだという気持ちがあふれ出ているのに…越前は何事もないように、振る舞う。
そんな越前の姿を見る度に、僕は生意気なルーキーの口癖の「まだまだだね」…それをソックリそのまま君返してあげたいよ越前。
「まだまだだね越前。日本の文化に焦がれてるのに…真の日本の奥ゆかしい美しさに気が付いていないんだからね」ってね。
でもその事を教えてあげる気は無いよ。
敵は少ない方が良いのだし、僕だけ気が付いて居れば良いんだから。
まぁ〜そう言うわけにもいかないけど…。
だけどねきっと僕だけが気が付いている桜乃ちゃんの想いがある。
皆、桜乃ちゃんは越前を好きだって思ってる
でもねソレは少し間違い。
だって…桜乃ちゃが越前を見る瞳には、『憧れ』と『恋心』の入り混じる影。
それはまだ、完全に恋には発展していない不完全な想い。きっと桜乃ちゃん本人にも気が付いてないだろう想いなのだから。
故に皆、彼女が気になっても…越前への気持ちを目の当たりにしてるから…無理に伝えられないだろう。
あと顧問の孫娘って言うのも気が引ける要素だろうけど。
だけど、越前を思ってる気持ちを知ってるから…変に言えない所が大きい。
ソレが切り札。僕にしては珍しい1枚しか無い切り札。
だからね、僕は焦らず君との距離を縮めるよ。
君は知らないだろうけど、僕は君を見た瞬間…少しだけ光源氏が若紫を見つけた心境が分かった気がしたんだ。
でもね、僕は君一人で十分なんだけど。
沢山の女の子よりも、竜崎桜乃と言う君ただ一人…愛しい存在は君だけなのだから…。
でも今はこの想いは僕の心の中に閉まっておくよ…まだ、君に伝えるには早いからね。
それに僕が桜乃ちゃんに想いを告げる頃には…きっと君は…越前への気持ちが『恋』ではなく…『憧れ』だと気が付いているはずだから…。
それまでには、ゆっくり君との距離を縮めるからね
僕の愛しき大和撫子
END
2004.1.3. From:Koumi sunohara