未知との遭遇 |
−非日常な休日− |
これは、ごくごく普通の青少年南の身に起きた出来事を綴った話である。
部活も用事らしい用事の無い、ある天気のよく晴れた日、買い物に出かけたていた南は、久しぶりの自由な時間を満喫していた。
満喫という言葉が大袈裟だと言う者が居るかもしれないが、彼の普段の生活を知る者なら、皆大袈裟だと思わないはずだ。
何故なら、何かと問題児の多い山吹中の部長として支え、顧問の愚痴を聞く南。
さしずめ中間管理職について居るサラリーマンの様な生活をしているからだ。
要するに、学生生活らしからぬストレスに日々悩まされて居ると言う訳なのだ。
だからこそ彼にとって、こんな細やかな休日の自由は本当に天から送られた恵み以上の何物でも無いと言える。
そんな細やかな休日を南は、ここぞとばかりに満喫していたのである。
目星の付けた欲しい物を購入した南は、ゆったたりとした足取りでぼんやりと考える。
(次は何処へ行こうか?)
どこか少しワクワクとした気分で南は想いをはせ街中を歩く。
(行くあても無く街をたまに歩くのも悪く無いかな…)
予定も浮かばない南は、そんな気分を腹に決めたていた。
ちょうど、その時だった…。
不意に南の視界に見覚えの有るシルエットが目に映った。
(あれ?あれって…)
目を凝らすように南は、見覚えのある姿を見つめる。
すると、やっぱり南の知り得る人物が…長めの棒のような荷物を持って其処にいた。
南は一瞬声をかけるか、かけないか迷ったが…意を決して声をかけてみる事にした。
「手塚?」
自身は有ったけれど、間違っては困るという気持ちからだろうが…少し疑問調に南は、その人物に声をかけた。
声をかけられた人物は、ゆっくりと首を動かして南の方に顔を向けた。
その顔は明らかに、南が予想していた人物手塚国光その人で、南は何となくホッとした表情を浮かべた。
「ああ誰かと思えば南か。久しいな」
相手である手塚も、南の顔を確認するとそんな言葉を南に返す。
「久しぶりだな。手塚の所も休みだったんだな奇遇だな」
「その様子では、南の方も休みか。ちなみに俺は釣り竿を見に出かけた所なんだ」
謎の棒ならぬ…釣り竿を南に示しながら手塚は嬉しそうに言葉を紡ぐ。
しかも往来だと言うのに、釣り竿を取り出し南に見せ始める。
そんな普段見ることの無い手塚の一面をかいま見た南は…(本当に釣りが好きなんだなぁ〜)などと微笑ましいモノを見るような目で手塚を見た。
「そっか良かったな。それにしても、立派な竿なんだな。と言っても俺には竿の良し悪しは分からないけど…釣をする手塚が選んだ物ならきっと良いモノなんだろう?」
少しはにかみながら南は言う。
手塚は南の言葉に嬉しそうに、頬を緩めた。
(南といい大石といい…何故ダブルスをする人間は良い人間ばかりなんだろう…。それにくらべて…シングルスプレーヤーは…もう少し気遣いを持ってくれても良いだろうに…)
などと手塚は心の中でこっそり思った。
何故そんな思いに駆られるかというと…。
ささいな理由が有ったりするのだ…。
それは…。
竿買ってウキウキ手塚にとある人物が水を刺し…不快を煽られた…と言う経験をしていた手塚にとっては、南の言葉は本当に嬉しくて仕方がないようだった。
釣り竿を皮切りに、手塚と南の会話は弾む。
道の往来だったので二人は、端によって話に花を咲かせた。
彼等の周りには、和みオーラみたいなものが出ている程。
実に彼等は充実した井の端会議を満喫していたのだった。
しかしながら、そんな楽しい時間は長くは続かないと言うのは世の定説。
手塚と南の二人にも、世界は公平だった…。
「コホン」
明らかに態とらしい咳の音が手塚と南の耳に入った。
話しに花を咲かせていた南と手塚だったが、何だか態とらしい咳が気になりどちらかと言うわけでも無く言葉を留めた。
そして…南は思わずその咳の聞こえる方に目を走らすと…。
何と其処には、大袈裟に態とらしく咳をするという…かなり珍しい跡部の姿がそこに有った。
勿論南は、状況何て掴めるはずもなく…。
「え…跡部?」
困惑気味に跡部の名を紡ぐ南に、手塚は思い出したとばかりに言葉を紡ぎ出す。
彼の表情は別段焦りの様子は見えない。
「ああ。先程バッタリ出会ってな」
だが声は幾分不機嫌さを増している。
どうして不機嫌かは、皆様のご想像に任せるとして…手塚は跡部を振り返りながらそう口にした。
南は内心…。
(バッタリ…バッタリ跡部に出会うものなかのか?あの跡部に…しかも手塚メチャメチャ不機嫌な声で説明してるけど…何かヤバイのかなこの状況?)
そんな気持ちが一気に駆け巡ったが、南は口に出そうな気持ちをグッと堪えた。
「そ…そうか」
南は何と答えて良いか分からず、取りあえずそんな言葉を手塚に返した。
「だが。跡部との話は終っているし…別に共に買い物をしている訳では無いから…南の気にする所では無いぞ」
「手塚が言うんだから良いかもしれないが…。相手はそうは思ってないかもしれないぞ」
南は跡部の表情を見ながら、遠慮がちに手塚に言うと手塚では無く跡部が話しに乗ってきた。
「良いこと言うじゃねぇーの南。良い機会だ、仲介人も居る事だし」
「南の迷惑を考えたらどうだ跡部」
「あーん?お前がさっさと話をつければ南だって迷惑しないんだぜ」
“そうだろ?”と同意を求めてくる跡部に、南は苦笑を浮かべて言葉を返す。
「俺は別に気にしてないし…構わないけど…。話し合うだったら、もう少し端に寄らないかい?」
南から出た言葉は実に正論で、言い合っていた両者は一旦顔を見合わせた。
そして…。
「「ああ、そうだな」」
南の言葉に、手塚、跡部両名はコクリと頷き更に道の端に寄ったのだった。
先程の和みムードとは一転して、手塚と跡部の周りは険悪な空気が漂っていた。
「青学の部長さんは、人の話を最後まで聞かないのが礼儀ってか」
「それはソックリそのままお前に返すぞ跡部」
「ああ?どこが俺様に返すって?」
手塚に負けない程の皺を眉間にためて、不機嫌そうに聞き返す。
「では言わせて貰うが…。ラケットと竿を勘違いしたのは何処の誰だ」
「そ…それは…何というか。良いじゃねぇか!細かいこと気にしてるんじゃねぇ!」
モゴモゴと口ごもり逆ギレ跡部に、手塚は勝ち誇った笑みを浮かべる。
そこから、違う話なども飛び出しながら…彼等は低レベルな言い争いが勃発。
手塚と跡部の言い合いが始まり、完全に茅の外の南は…呆然と二人のやり取りを見ていた。
(はぁー切角の休日なのに…普段とあまり変わらないよなぁ〜…。俺ってそういう星の元に生まれたのか?)
ボンヤリと亜久津と千石のやりとりみたいな状況と言い合いを見ていた南は心底そう思った。
そして終るまで何となく傍観している方が安全だと踏んだ南は、二人のやり取りをだまって見ることに決めた。
それからも不毛な言い合いは続き。
流石の南も疲れてきて、小さく伸びをした頃に…事態は違う局面に動いていたらしかった。
(うーん。流石に何もしないで立ってるのは疲れるな…)
コキコキと首を動かし首の凝りを解す南に、鋭い視線が突き刺さった。
(え?何?)
ボンヤリと首を動かし目を向ければ、跡部が仁王立ちして其処に居た。
「オイ。何ボーっとしてんだよ。行くぞ」
何時話が完結したのか分からないが、跡部が偉そうに腕を組み…ボーっとしている南に声をかけてきた。
「何ボサッとしてやがるんだ?サッサと来いよ」
跡部のそんな言い回しに肩を竦めて歩き出す手塚を見た南は…。
(まぁ…不思議な取り合わせだけど…偶にはこんな休日も良いのかもしれないな)
良い方向に考えることにした南は、俺様全開の跡部を先頭に、しぶしぶ後をゆく顰めっ面の手塚を追うように小走りに二人近づいていった。
まだまだ南の非日常な休日は始まったばかり。
おわし
2004.4.20. From:Koumi Sunohara
★後書き+言い訳★ 何だか書けば書くほど長くなりそうな予感でしたので、取りあえずこの辺で強制終了しました。 結局オチ無いままの強制終了です。 買い物編は忘れた頃に書ければ良いかなぁ〜と思ってます。 ちなみに、手塚と跡部の逸話は、「ラブプリ」もしくは「キスプリ」をやっている方はご存じと思いますが…。 要は、竿買ってウキウキ手塚に跡部が水を刺した…というものなのです。 取りあえずこんなお話に付き合ってくださり有り難う御座いました。 少しでも楽しんでいたけたら嬉しいものです。 |