道を譲る
昔の私は、魔法の研究と勉強…そして、サフィーが居てくれれば良かった。
友達付き合いも、要らない。ただ、私のフィールドに立ち入りさえしなければそれなりに会話を交わす程度で十分だったし、人との関わりは無くても良いとさえ思っていた。
結果、ソレが原因でなかなかジュエルストーンが集まらなかったなんて、あの時の私は夢にも思っていなかったけれど…。
そんな私を変えてくれたのは、入学したばかりで魔法何てからっきしな日本人の女の子、桜あかりだった。弱気で、人見知りで、魔法なんてまだまだな彼女は、何を思ったのか、話し掛けづらそうな私に声をかけてきた。
何故、私だったのか?そんな事を彼女に聞いてもきっと答何て無いのだろう。
否、彼女なら…。
「沙羅とお友達になりたいと思ったんだ。理屈とか理由は上手く言え無いけれど」
そんな風に、少しはにかみながら言うのだろう。
それにしても、人見知りやら、弱気な割に意外にめげないあかりは、気がつけば私の心に自然と入ってきたように思う。
(あかりは、本当に不思議な子。それでいて、側にいてほしいと思える)
あかりが、居なかったら…ミリアとも友達になれなかったし、ニコラやレオンと何かを分かち合う事が出来なかった。
協力する事の大切さや、思いやりの気持ちも知らないままだったと思う。
一人より、仲間や友達といれる事の暖かさ。
優しい気持ちも無いままだった。
私に欠けていた私だけでは気が付けなかった事柄が、彼女に出会って知ることが出来た。
それは、もしかしたら知らなければ余計な悲しみや悩みは生まれないかもしれない…そう思う自分も居るけれど…知らないままの自分では居られない。
例え、嬉しいと同じぐらいの大きさの悲しみ、楽しさと同じ、辛さを感じる事になっても。私は、この出会いを否定したいとは思わないし、過去に行ったとしても、私は同じ未来を望むだろう。どんなに、運命がよじ曲がろうとも。
そんな自分になったからだろうか…私の思考は少しずつ変化を見せ始めた。
ジュエルスターグランプリでの優勝よりも…その経過が良い方向に向かえれば満足だと思える様になったのは、きっとあかりのお陰だともう。
優しい気持ちのまま進むジュエルスターグランプリではあったけれど、これから戦う相手は、名前と姿が異なるけれど間違いなくアルマ。バッテストの力を得た、凄い魔法使い。甘い採点で、相手の力量をみた所で、どう考えても勝てる見込みはゼロに等しい。
勝負をすれば、ほぼ間違いなく無事では済まない。
レオン戦の時の光景が目に浮かぶ。真剣に戦う相手を嘲笑う様な戦い方で対戦相手の心を折る様な戦い方だった。
(そう言う意味では、私はレオンの様な戦いに対するプライドはあまり感じないから、別に気にはならないけれど…あかりに出会う前の私なら、きっと不戦勝を選んだんでしょうね)
少し前の自分を思い出して、私は自嘲を浮かべる。
けれど私は戦う事を選んだ。
負ける事は目に見えているけれど…次に戦うあかりに役立てる様に戦う事を決めた。
人は其れを無駄だと笑うかもしれない。
でも、少なからず私とサフィーにとっては何よりも大事な事。
ジュエルペットでは無い初めての友達で…私に沢山の幸せや喜びを運んでくれたあかりに…私が出来る唯一のお礼。
(そんな無茶をあかりは望まないのだろうけど…)
それでも私にできる精一杯。
サフィーも私のそんな我儘に付き合ってくれると言ったから、私は全力でアルマの解析の為に戦える。
少しだけアルマの気持ちも分からないでは無い。
昔の自分はきっと彼女よりの考えだった。
友達、信頼する仲間…そんな物は幻想。
サフィーしか居ない自分とダイアナに依存しているアルマ。
目的は違うけれど、一歩間違えば私と彼女は近しい存在だったかもしれない。
愛情に飢え…本当は誰よりも友達や親の愛情…仲間が欲しくてしかたがない…そんな感情が、見え隠れする。
だからこそ、あかりが希望だと思う。
頑なだった私を変えたあかり。
出会う人を良い方向に変えていく、優しくて暖かい彼女だから…私はあかりに託せると思う。
その為にも、私は無謀と呼ばれるこの戦いに挑む。
厳しく辛いものにものとなっても…。
次に進む道をほんの少しでも作ることが出来るなら…きっとソレは無駄にはならないと思うから。
花が短い時間咲いた後に、次の代へと続くように種を残すように。
私のこの戦いも…そんな風に誰かのためになるように。
そうであればきっと…意味のある事になるはずだから。
願わくばあかりがジュエルスターに…。
もっと欲を言うならば、アルマにも私と同じように変わるチャンスを与えられば良いと願う。
おわし
2011.12.31. From:Koumi Sunohara